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第4部 四神を愛しなさいと言われました
81.四神による溺愛が止まらないのです
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年が明けてから、いやそれより前からなのか、香子は抱き上げられる頻度が上がっていると認識している。
昼食の為に侍女たちによって身支度を整えてもらった後、居間で白虎が待っていた。また当たり前のように抱き上げられて食堂へ向かう。
『……本気で、歩き方を忘れてしまいそうです』
『それならばそれでいいだろう』
さらりと白虎に言われ、香子は頭痛がするのを感じた。実際には頭痛なんて欠片程もしないのだけれども。
四神と交わったことで、香子の身体は人とは違うものになっている。ここに来た最初の頃の自分とはまるで違うようだと、香子は鏡や己の身体を見て思うようになった。
今日の昼食もおいしかった。
香子が水餃子を好きということもあり、ごはんは水餃子であることが多い。今日は香菜(パクチー)と卵を炒めた物が餃子の餡として入っているものと、豚肉と白菜の入った定番の物の二種類が出された。香菜は全く時期ではないだろうにと香子は思う。わざわざ南方から取り寄せたのだろうか。
『香菜なんて、どうしたのかしら。おいしかったけど』
つい気になって、香子は呟いた。
『……そなたが好きだと言っていたからな』
『え?』
朱雀が反応した。まさか、と香子は思う。
『領地の者に用意をさせた』
『えっと……もしかして朱雀様が直接取りに向かわれた、とか……』
香子は背を冷汗が伝うのを感じた。朱雀がクッと口角を上げる。なんだかそれは得意そうに見えた。
『そうだと言ったら?』
『……ありがとうございます』
『礼は口だけか?』
そう言う朱雀はとても楽しそうだ。
『……のちほどしますけど……私の為に用意してもらったのですね』
『食といえばそなただろう。我の領地であればそなたの好きな野菜がいつでも食べられるぞ』
『……誘惑がひどいです』
四神を選べないと言ったら胃袋を掴みにきたようである。朱雀はずるいと香子は思う。南方はお茶の産地としても有名だ。朱雀の領地はどちらかといえば広東(注:広東省でも烏龍茶は生産しています)だが、南方といえば福建省がある。緑茶だけでなく烏龍茶もおいしいのだ。
『……食べ物となったらと我の領地は勝てぬではないか』
玄武が苦笑した。確かに北方はなかなか作物も生えない。冬野菜はとてもおいしいけど、と香子も思う。こちらの世界では品種改良などもあまりされていないから、寒い地方でも採れるようになどなっていないのだ。
それを言ったら更に北にある俄罗斯ではどうなっているのだろうとか、香子はいらんことを考えてしまった。
確か中秋節の頃だか新年に向こうの大使のような姿を見かけた気がする。金髪で肌が白くて……と香子は思い出した。
『香子、如何した?』
香子の視線はあさってに向いていたらしい。玄武に声をかけられてビクッとした。
『……玄武様の領地では採れる作物の種類が少ないかもしれませんが……そうなると更に北の国はどうしているのかなと……』
『そなたはいろいろ考えてしまうのだな』
玄武が口角を上げた。
『北というと、俄罗斯か。……わからぬな』
玄武がすまなそうに言う。香子は首を振った。四神が国際情勢について詳しくても困ってしまう。四神はあくまで唐の国と契約をしているような状態だ。その唐のことも四神は全く興味がない。隣の国のことを知っているはずがなかった。
『なんとなく気になってしまっただけなので、大丈夫です』
香子は笑みを浮かべた。
(もしかして、張老師ならご存知かしら?)
張錦飛の顔が頭に浮かんだ。そしてすぐに顔を少し振る。張は歴史学者で四神の神官である。他国のことに詳しいとは言えないだろう。
だいたい世界情勢など調べる機会はこちらの世界にはない。TVもインターネットもない世界である。
知っているとしたら外交に携わる者か、あとは皇帝ぐらいではないだろうか。
(俄罗斯のことを聞く為に皇帝に会うのは嫌だわ)
というわけで香子はもう考えないことにした。本当に香子は皇帝が嫌いなのである。
水餃子をもりもり食べて、食休みをしてから、香子はまた白虎に捕まってしまった。思わず玄武の衣裳の袖を掴んでしまい、玄武が笑みを浮かべたりと、午後はそんな風にして過ごした。
昼間からなんて爛れていると言われそうだが仕方ないのである。四神の愛情はとにかく重い。
で、夕飯を食べてからの夜も、香子は玄武、朱雀、白虎と過ごした。朱雀は香子に”熱”を与えると退散した。
いると我慢ができないからというのがその理由だった。玄武は忍耐強く、香子が白虎に抱かれるのを見守った。
翌朝である。
「……ううう~~~……」
香子は玄武の胸に顔を埋めて悶えていた。
朱雀の熱を受けると、その後は熱に浮かされて香子は抱かれやすくなる。なんとなくそれは酒を飲んで酩酊している感覚に近い。けれど翌朝になれば、何をされたか自分が何を口走ったかなどほとんど覚えているのだ。(青龍の時は除く)
香子が悶えるのも仕方なかった。
『香子、朝食は頼んだ故しばし待て』
玄武のバリトンが香子の耳を震わす。声がよすぎるのも考え物だと香子は内心八つ当たりした。
白虎は香子の背後にいて、香子の背を優しく撫でていた。
とても恥ずかしかったけれどこれで務めは終ったはずだと香子は思った。
朝食後、
『エリーザの結婚式をやりたいわ』
と香子は宣言したのだった。
昼食の為に侍女たちによって身支度を整えてもらった後、居間で白虎が待っていた。また当たり前のように抱き上げられて食堂へ向かう。
『……本気で、歩き方を忘れてしまいそうです』
『それならばそれでいいだろう』
さらりと白虎に言われ、香子は頭痛がするのを感じた。実際には頭痛なんて欠片程もしないのだけれども。
四神と交わったことで、香子の身体は人とは違うものになっている。ここに来た最初の頃の自分とはまるで違うようだと、香子は鏡や己の身体を見て思うようになった。
今日の昼食もおいしかった。
香子が水餃子を好きということもあり、ごはんは水餃子であることが多い。今日は香菜(パクチー)と卵を炒めた物が餃子の餡として入っているものと、豚肉と白菜の入った定番の物の二種類が出された。香菜は全く時期ではないだろうにと香子は思う。わざわざ南方から取り寄せたのだろうか。
『香菜なんて、どうしたのかしら。おいしかったけど』
つい気になって、香子は呟いた。
『……そなたが好きだと言っていたからな』
『え?』
朱雀が反応した。まさか、と香子は思う。
『領地の者に用意をさせた』
『えっと……もしかして朱雀様が直接取りに向かわれた、とか……』
香子は背を冷汗が伝うのを感じた。朱雀がクッと口角を上げる。なんだかそれは得意そうに見えた。
『そうだと言ったら?』
『……ありがとうございます』
『礼は口だけか?』
そう言う朱雀はとても楽しそうだ。
『……のちほどしますけど……私の為に用意してもらったのですね』
『食といえばそなただろう。我の領地であればそなたの好きな野菜がいつでも食べられるぞ』
『……誘惑がひどいです』
四神を選べないと言ったら胃袋を掴みにきたようである。朱雀はずるいと香子は思う。南方はお茶の産地としても有名だ。朱雀の領地はどちらかといえば広東(注:広東省でも烏龍茶は生産しています)だが、南方といえば福建省がある。緑茶だけでなく烏龍茶もおいしいのだ。
『……食べ物となったらと我の領地は勝てぬではないか』
玄武が苦笑した。確かに北方はなかなか作物も生えない。冬野菜はとてもおいしいけど、と香子も思う。こちらの世界では品種改良などもあまりされていないから、寒い地方でも採れるようになどなっていないのだ。
それを言ったら更に北にある俄罗斯ではどうなっているのだろうとか、香子はいらんことを考えてしまった。
確か中秋節の頃だか新年に向こうの大使のような姿を見かけた気がする。金髪で肌が白くて……と香子は思い出した。
『香子、如何した?』
香子の視線はあさってに向いていたらしい。玄武に声をかけられてビクッとした。
『……玄武様の領地では採れる作物の種類が少ないかもしれませんが……そうなると更に北の国はどうしているのかなと……』
『そなたはいろいろ考えてしまうのだな』
玄武が口角を上げた。
『北というと、俄罗斯か。……わからぬな』
玄武がすまなそうに言う。香子は首を振った。四神が国際情勢について詳しくても困ってしまう。四神はあくまで唐の国と契約をしているような状態だ。その唐のことも四神は全く興味がない。隣の国のことを知っているはずがなかった。
『なんとなく気になってしまっただけなので、大丈夫です』
香子は笑みを浮かべた。
(もしかして、張老師ならご存知かしら?)
張錦飛の顔が頭に浮かんだ。そしてすぐに顔を少し振る。張は歴史学者で四神の神官である。他国のことに詳しいとは言えないだろう。
だいたい世界情勢など調べる機会はこちらの世界にはない。TVもインターネットもない世界である。
知っているとしたら外交に携わる者か、あとは皇帝ぐらいではないだろうか。
(俄罗斯のことを聞く為に皇帝に会うのは嫌だわ)
というわけで香子はもう考えないことにした。本当に香子は皇帝が嫌いなのである。
水餃子をもりもり食べて、食休みをしてから、香子はまた白虎に捕まってしまった。思わず玄武の衣裳の袖を掴んでしまい、玄武が笑みを浮かべたりと、午後はそんな風にして過ごした。
昼間からなんて爛れていると言われそうだが仕方ないのである。四神の愛情はとにかく重い。
で、夕飯を食べてからの夜も、香子は玄武、朱雀、白虎と過ごした。朱雀は香子に”熱”を与えると退散した。
いると我慢ができないからというのがその理由だった。玄武は忍耐強く、香子が白虎に抱かれるのを見守った。
翌朝である。
「……ううう~~~……」
香子は玄武の胸に顔を埋めて悶えていた。
朱雀の熱を受けると、その後は熱に浮かされて香子は抱かれやすくなる。なんとなくそれは酒を飲んで酩酊している感覚に近い。けれど翌朝になれば、何をされたか自分が何を口走ったかなどほとんど覚えているのだ。(青龍の時は除く)
香子が悶えるのも仕方なかった。
『香子、朝食は頼んだ故しばし待て』
玄武のバリトンが香子の耳を震わす。声がよすぎるのも考え物だと香子は内心八つ当たりした。
白虎は香子の背後にいて、香子の背を優しく撫でていた。
とても恥ずかしかったけれどこれで務めは終ったはずだと香子は思った。
朝食後、
『エリーザの結婚式をやりたいわ』
と香子は宣言したのだった。
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