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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
72.流されてはいけないのです ※R15
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昼食時にはまだ心の準備ができていなかったので香子は特に何も言わなかった。
当然ながら張錦飛と香子の会話内容はすでに四神の耳に伝わっている。四神としては余計なことをと思わないでもなかったが、少しでも香子の気持ちが持ち直したならそれでいい。
香子が考えているよりも”四神の花嫁”の影響力は強い。四神は人間に何を言われても歯牙にもかけないが花嫁に関することだけはその限りではない。花嫁だけが唯一四神の心を揺さぶり、行動を決めるのだ。ただ四神にとってそれは息をするように当たり前のことだったから、香子がどう思っているかまでは考慮していなかった。
今日の午後は青龍と過ごすことになっている。昼食後当たり前のように抱き上げられて青龍の室に連れて行かれた。香子としてはできれば四神宮の中だけでも歩きたいのだが、過保護な四神はまず立たせてもくれない。
青藍が入れたお茶に口をつけ、
『いいかげん歩き方を忘れそうです』
とぼやけば、『問題ない。我らがそなたを運ぶゆえ』と返される。
四神宮の外で地に足をつけたのはいつだっただろう。
『自分で歩きたいです。せめてこの中でぐらいは』
『……善処しよう』
全く歩かせる気はないらしい。香子はむっとした。
『そういえば、なんで私が大祭に出るのは駄目なんですか? 私を人目に晒したくないからですか?』
単刀直入に聞いてみる。すると青龍は後ろから香子の顎をクイ、と上げ己の方に向けさせた。
『それもあるが……』
青龍の黒い瞳は澄んだ水を思わせる。至近距離で顔を覗き込まれて香子はどきどきしてしまった。
『もし”春の大祭”に出るとしたら朱雀兄と我が行くことになるだろう。ならばその前にそなたは我に抱かれておかなければならぬ』
『……え?』
色を含んだ科白に香子は頬を染めながらも頭の中がはてなで埋め尽くされた。
『なんで青龍様にも抱かれておかなければならないのですか?』
『天におわす神々への祈りを捧げるのは処女か、もしくは神と交わった者でなければならぬ。此度は朱雀兄と我を通じて天の神々へ祈るのだ。そなたが参加したいと言うならば我とも交わる必要がある』
そう言って青龍は香子に口付けた。
『んっ……』
いつのまにか青龍に向き直らされ、香子は正面から抱かれる形で口付けを受けていた。その涼やかな容姿とは裏腹に口付けはひどく官能的だ。青龍とのキスは数えるほどしかないが、全身を絡めとられるようなそれは香子の首筋に熱をもたらせる。
(なんかこの間も……)
『香子……』
口付けの合間に名を呼ばれてぞくぞくする。しかしここで流されるわけにはいかない。
『んっ……青龍さま、だめ……』
全身を赤く染めながら香子は青龍の背中を叩く。
『何がだめなのだ?』
するりと漢服の中に手を滑り込ませてきたのを睨む。
『こんなのは嫌です。大祭に出たいからって青龍様に抱かれるなんて……』
『我にとってはいい口実だが』
さらりと言われて香子は絶句した。青龍の表情は一見動きがなさそうだが、その瞳が本気だと物語っていた。
そんなにまで青龍は香子を、いや”花嫁”を抱きたいのだろうか。
『ええと……それは私が”花嫁”だからですか……?』
『? 香子は我らの花嫁だろう?』
会話がかみ合わない。そういうことではないのだ。けれどこのもやもやがうまく説明できない。
香子が”花嫁”でなければ四神は抱きたいと思わないだろう。
”花嫁”であるという前提条件以外に、”香子だから”求められていると実感したいのだ。
それに思い至って、香子は真っ赤になった。
(なんて、浅ましい……)
すでに玄武、朱雀と体を重ねているというのに、青龍や白虎にまで香子自身を求めさせようと思う己がいやらしい。香子は泣きそうになったがぐっとこらえた。泣くのなら一人の時でなければならないと思ったからだった。
そんな香子を抱きしめながら、青龍は何か思い出したようだった。
『……恥ずかしいことだが、我は最初そなたを”花嫁”と知りながら好ましいとは思えなかった』
香子は潤んだ目を青龍に向ける。それは以前聞いた話である。
『正直最初の頃の我は最低な言動をそなたに対してしていたように思う』
香子は内心頷いた。思い出すだにむかついて殴りたい。
『だがそなたの話を聞き、行いに触れ、いつのまにかそなたを抱きたいと思うようになった。玄武兄や朱雀兄がそなたを独占しているのはかまわない。だが、我もできれば一晩そなたを愛せたらと……』
『わーっわーっわーっ!! もういい、もういいです!! わかりました!! 青龍様の気持ちはよーく伝わりましたっっ!!』
香子は慌てて両手で青龍の口を塞いだ。その手を青龍の舌がぺろりと舐める。
『ひゃっ!?』
びっくりして離そうとした手は捕らえられ、ひどく色を含んだ目で香子を見ながらその指先を舐められた。
『香子……せめてそなたの全身を舐めまわしたい』
『う……』
それは”せめて”じゃないと香子は思う。爽やかで中性的な見た目のはずの青龍が男になる。身を投げ出したくなるのは己が”花嫁”であるせいなのか、それとも青龍の色気に充てられているせいなのか香子にはわからない。
どちらにせよ今流されるわけにはいかないと香子は強く思った。
『っだめですっ! 今は絶対だめっ!! 大祭の話が先ですっ! 四神全員に確認を取らせてくださいっ!!』
片手を舐められながらもどうにかして言うと、チッと青龍は舌打ちした。香子は目を丸くする。
『……わかった。大祭の件を確認しよう。……その後は舐めさせろ』
なんてことを言うのだ。
『舐めるのはなしです!』
『ならば抱く』
『青龍様、横暴です!!』
二人の声は室の外に響く程大きかったらしい。(青藍はとっくに室を出ている)
『花嫁様! 青龍様いいかげんになされませ!!』
黒月の声が室の表から聞こえ、香子と青龍は顔を見合わせた。そしてお互いくすくすと笑い出す。
後で黒月に説教されるだろうとか、四神と話し合いをすることを考えても香子はなんだか楽しかった。
しばらく香子と青龍は、抱き合ったまま笑い続けた。
当然ながら張錦飛と香子の会話内容はすでに四神の耳に伝わっている。四神としては余計なことをと思わないでもなかったが、少しでも香子の気持ちが持ち直したならそれでいい。
香子が考えているよりも”四神の花嫁”の影響力は強い。四神は人間に何を言われても歯牙にもかけないが花嫁に関することだけはその限りではない。花嫁だけが唯一四神の心を揺さぶり、行動を決めるのだ。ただ四神にとってそれは息をするように当たり前のことだったから、香子がどう思っているかまでは考慮していなかった。
今日の午後は青龍と過ごすことになっている。昼食後当たり前のように抱き上げられて青龍の室に連れて行かれた。香子としてはできれば四神宮の中だけでも歩きたいのだが、過保護な四神はまず立たせてもくれない。
青藍が入れたお茶に口をつけ、
『いいかげん歩き方を忘れそうです』
とぼやけば、『問題ない。我らがそなたを運ぶゆえ』と返される。
四神宮の外で地に足をつけたのはいつだっただろう。
『自分で歩きたいです。せめてこの中でぐらいは』
『……善処しよう』
全く歩かせる気はないらしい。香子はむっとした。
『そういえば、なんで私が大祭に出るのは駄目なんですか? 私を人目に晒したくないからですか?』
単刀直入に聞いてみる。すると青龍は後ろから香子の顎をクイ、と上げ己の方に向けさせた。
『それもあるが……』
青龍の黒い瞳は澄んだ水を思わせる。至近距離で顔を覗き込まれて香子はどきどきしてしまった。
『もし”春の大祭”に出るとしたら朱雀兄と我が行くことになるだろう。ならばその前にそなたは我に抱かれておかなければならぬ』
『……え?』
色を含んだ科白に香子は頬を染めながらも頭の中がはてなで埋め尽くされた。
『なんで青龍様にも抱かれておかなければならないのですか?』
『天におわす神々への祈りを捧げるのは処女か、もしくは神と交わった者でなければならぬ。此度は朱雀兄と我を通じて天の神々へ祈るのだ。そなたが参加したいと言うならば我とも交わる必要がある』
そう言って青龍は香子に口付けた。
『んっ……』
いつのまにか青龍に向き直らされ、香子は正面から抱かれる形で口付けを受けていた。その涼やかな容姿とは裏腹に口付けはひどく官能的だ。青龍とのキスは数えるほどしかないが、全身を絡めとられるようなそれは香子の首筋に熱をもたらせる。
(なんかこの間も……)
『香子……』
口付けの合間に名を呼ばれてぞくぞくする。しかしここで流されるわけにはいかない。
『んっ……青龍さま、だめ……』
全身を赤く染めながら香子は青龍の背中を叩く。
『何がだめなのだ?』
するりと漢服の中に手を滑り込ませてきたのを睨む。
『こんなのは嫌です。大祭に出たいからって青龍様に抱かれるなんて……』
『我にとってはいい口実だが』
さらりと言われて香子は絶句した。青龍の表情は一見動きがなさそうだが、その瞳が本気だと物語っていた。
そんなにまで青龍は香子を、いや”花嫁”を抱きたいのだろうか。
『ええと……それは私が”花嫁”だからですか……?』
『? 香子は我らの花嫁だろう?』
会話がかみ合わない。そういうことではないのだ。けれどこのもやもやがうまく説明できない。
香子が”花嫁”でなければ四神は抱きたいと思わないだろう。
”花嫁”であるという前提条件以外に、”香子だから”求められていると実感したいのだ。
それに思い至って、香子は真っ赤になった。
(なんて、浅ましい……)
すでに玄武、朱雀と体を重ねているというのに、青龍や白虎にまで香子自身を求めさせようと思う己がいやらしい。香子は泣きそうになったがぐっとこらえた。泣くのなら一人の時でなければならないと思ったからだった。
そんな香子を抱きしめながら、青龍は何か思い出したようだった。
『……恥ずかしいことだが、我は最初そなたを”花嫁”と知りながら好ましいとは思えなかった』
香子は潤んだ目を青龍に向ける。それは以前聞いた話である。
『正直最初の頃の我は最低な言動をそなたに対してしていたように思う』
香子は内心頷いた。思い出すだにむかついて殴りたい。
『だがそなたの話を聞き、行いに触れ、いつのまにかそなたを抱きたいと思うようになった。玄武兄や朱雀兄がそなたを独占しているのはかまわない。だが、我もできれば一晩そなたを愛せたらと……』
『わーっわーっわーっ!! もういい、もういいです!! わかりました!! 青龍様の気持ちはよーく伝わりましたっっ!!』
香子は慌てて両手で青龍の口を塞いだ。その手を青龍の舌がぺろりと舐める。
『ひゃっ!?』
びっくりして離そうとした手は捕らえられ、ひどく色を含んだ目で香子を見ながらその指先を舐められた。
『香子……せめてそなたの全身を舐めまわしたい』
『う……』
それは”せめて”じゃないと香子は思う。爽やかで中性的な見た目のはずの青龍が男になる。身を投げ出したくなるのは己が”花嫁”であるせいなのか、それとも青龍の色気に充てられているせいなのか香子にはわからない。
どちらにせよ今流されるわけにはいかないと香子は強く思った。
『っだめですっ! 今は絶対だめっ!! 大祭の話が先ですっ! 四神全員に確認を取らせてくださいっ!!』
片手を舐められながらもどうにかして言うと、チッと青龍は舌打ちした。香子は目を丸くする。
『……わかった。大祭の件を確認しよう。……その後は舐めさせろ』
なんてことを言うのだ。
『舐めるのはなしです!』
『ならば抱く』
『青龍様、横暴です!!』
二人の声は室の外に響く程大きかったらしい。(青藍はとっくに室を出ている)
『花嫁様! 青龍様いいかげんになされませ!!』
黒月の声が室の表から聞こえ、香子と青龍は顔を見合わせた。そしてお互いくすくすと笑い出す。
後で黒月に説教されるだろうとか、四神と話し合いをすることを考えても香子はなんだか楽しかった。
しばらく香子と青龍は、抱き合ったまま笑い続けた。
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