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第4部 四神を愛しなさいと言われました
80.少なくとも二晩は過ぎていました
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青龍は香子を香子の部屋の居間の長椅子に下ろすと、名残惜しそうに戻って行った。
『っはー……黒月、夕玲、ただいま……』
部屋の扉は開けたままである。部屋の外で控えている黒月にも香子は声をかけた。
『おかえりなさいませ。ご無事で何よりです』
黒月にそう返事をもらい、香子は嬉しかった。
『ええ』
『花嫁様のお戻りをお待ちしておりました。こちらに戻られたということは、その……』
珍しく延夕玲が何やら聞いてくる。香子は夕玲がなんとなく聞きたいことを気づいたが、自分から言いはしなかった。
『青龍様のところへ行かれるわけではないのですよね……?』
『そうね。私の認識だと、もしどなたかの領地で二晩過ごしてしまうと、もうそちらに嫁いでしまうことになるのよね? そうしたら私はおそらく四神宮に戻ってはこられない。黒月、それで合っているかしら?』
水を向けると、黒月は周囲を見回してから『だいたいその認識で合っています』と応えた。
『ただ……結婚してから一度ぐらい四神宮に顔を出すことはできるのではないでしょうか。そちらは神の意志となりますが』
『……やっぱりそうなのね』
二晩過ごしてしまったら嫁ぐことになるというのは変わらないらしい。香子は心に留めておくことにした。
四神の独占欲や、そういうことが関係しているのだろう。残るは白虎と玄武の領地である。白虎は一番最後でいいと言っていた。そうでなければ嫉妬で閉じ込めてしまいそうだという。
白虎だけは嫉妬の感情を持っているというのだからよくわからないと香子は思う。
(やっぱり一年ぐらいで四神の感情を理解するのは難しいよねぇ)
だができるだけ早く決めた方がいいのだろう。香子はため息をついた。
『白虎様にもお会いしたいわ』
『聞いて参ります』
夕玲がスッと部屋を出て行った。そういうことは女官の仕事ではないだろうが、四神宮の人員は必要最低限しかいないからしかたない。そうでなくても人手は足りないようだった。
(女官を一人紹介してもらうことになっていたっけ……)
皇太后にも会いに行かなければならない。そして何より紅児の結婚式を行いたいと香子は思っている。そろそろ紅児は成人するはずだ。相手が四神の眷属とはいえ、未成年のうちに半ば嫁ぐような形にさせてしまったことが悔やまれてならない。紅児が幸せそうだから許しているだけである。
(紅夏……許すまじ……)
紅夏の涼し気な表情を思い出しただけで香子はむかむかしてきた。
『花嫁様、お召し替えを』
戻ってきた夕玲に声を掛けられて、香子はハッとした。ついついいらぬことを考えてしまったようだった。
そうして現れた侍女たちに衣裳や髪型などを整えてもらったところで、白虎が訪ねてきた。今回はタイミングばっちりである。
『戻ったか』
『はい、戻りました』
白虎の前に立てば、当たり前のように抱き上げられて長椅子に腰掛けられた。四神の誰に抱き上げられても香子は胸が高鳴ってしまう。
この、抱き上げられるという行為そのものが香子の”萌え”なのだ。別に白馬の王子様に憧れているわけではない。小さい頃は夢見ていたこともあったが、成長するに従ってそんな夢は見なくなった。ただ、カレシでも夫でも自分を抱き上げてくれるような人だったらいいなと漠然とは思っていた。だから抱き上げられるだけでいちにち身もだえてしまうのである。
しかし丸一日以上抱き上げられているのは、それはそれで精神的に負担ではあった。
何事もほどほどに、ということなのだろう。
『我の室に向かうが、よいな?』
『はい……その、お昼ごはんは食べたいかなって……』
白虎の目が色を含んでいたことを受けて、香子は頬を染めながら消え入りそうな声で要望を伝えた。白虎が苦笑する。
『そなたにはかなわぬな』
香子の希望は叶えられそうだった。
もちろん白虎の室へ連れていかれれば、そういうことになってしまうのはしかたないことだったけれども。
ろくに話をする間もなく寝室へ連れ込まれるのはどうかと香子は思う。
直接寝室へ向かおうとする白虎を、珍しく白雲が呼び止めてくれたことでお茶の一杯は飲むことができた。その間に黒月が玄武を呼びに行ってくれたらしく、香子が寝室に連れ込まれた時には玄武も一緒にいてくれた。
白虎は香子に欲情すると本性を現わしてしまう。そして本性を現わすと理性がほとんどきかなくなる。それを止める為に玄武に来てもらったのだ。
「あ、あ、あ、あっ……」
昼食に呼ばれるまで、香子は虎の姿の白虎に全身を舐め回された。当然だが、未だに白虎の本性は慣れない。図としてはまんま白い虎に襲われているのである。その虎が己を傷つけることはないとわかっていても、恐ろしいことに変わりはなかった。
玄武が側にいることで、香子は少し身体の力を抜くことができた。
「ふぅ……」
まもなく昼食の時間だと声を掛けられて、香子はほっとした。どさくさに紛れて白虎と今夜過ごす約束も取り付けられてしまった。だがそれは仕方ないことだと香子も思う。四神宮に戻ってきたと思ったら翌朝まで香子は三神と寝室に籠っていたのだ。
白虎には我慢をさせたと香子は思う。
『まだ足りぬが……しかたない』
低い、苦しそうな声で白虎は呟いた。そうしてやっとその姿が人型を取る。香子はふう、と息を吐き出した。
『玄武兄、ありがとうございます』
『礼には及ばぬ。香子、今宵も朱雀から熱を受けるといい』
『は、はい……』
香子は赤くなった。確かにまだしらふで白虎に抱かれるのは抵抗がある。やっと玄武だけならば熱を受けないで抱いてもらうことができるようになった。
玄武に衣裳を軽く整えてもらい、白虎に抱き上げられて一旦香子は部屋に戻ったのだった。
『っはー……黒月、夕玲、ただいま……』
部屋の扉は開けたままである。部屋の外で控えている黒月にも香子は声をかけた。
『おかえりなさいませ。ご無事で何よりです』
黒月にそう返事をもらい、香子は嬉しかった。
『ええ』
『花嫁様のお戻りをお待ちしておりました。こちらに戻られたということは、その……』
珍しく延夕玲が何やら聞いてくる。香子は夕玲がなんとなく聞きたいことを気づいたが、自分から言いはしなかった。
『青龍様のところへ行かれるわけではないのですよね……?』
『そうね。私の認識だと、もしどなたかの領地で二晩過ごしてしまうと、もうそちらに嫁いでしまうことになるのよね? そうしたら私はおそらく四神宮に戻ってはこられない。黒月、それで合っているかしら?』
水を向けると、黒月は周囲を見回してから『だいたいその認識で合っています』と応えた。
『ただ……結婚してから一度ぐらい四神宮に顔を出すことはできるのではないでしょうか。そちらは神の意志となりますが』
『……やっぱりそうなのね』
二晩過ごしてしまったら嫁ぐことになるというのは変わらないらしい。香子は心に留めておくことにした。
四神の独占欲や、そういうことが関係しているのだろう。残るは白虎と玄武の領地である。白虎は一番最後でいいと言っていた。そうでなければ嫉妬で閉じ込めてしまいそうだという。
白虎だけは嫉妬の感情を持っているというのだからよくわからないと香子は思う。
(やっぱり一年ぐらいで四神の感情を理解するのは難しいよねぇ)
だができるだけ早く決めた方がいいのだろう。香子はため息をついた。
『白虎様にもお会いしたいわ』
『聞いて参ります』
夕玲がスッと部屋を出て行った。そういうことは女官の仕事ではないだろうが、四神宮の人員は必要最低限しかいないからしかたない。そうでなくても人手は足りないようだった。
(女官を一人紹介してもらうことになっていたっけ……)
皇太后にも会いに行かなければならない。そして何より紅児の結婚式を行いたいと香子は思っている。そろそろ紅児は成人するはずだ。相手が四神の眷属とはいえ、未成年のうちに半ば嫁ぐような形にさせてしまったことが悔やまれてならない。紅児が幸せそうだから許しているだけである。
(紅夏……許すまじ……)
紅夏の涼し気な表情を思い出しただけで香子はむかむかしてきた。
『花嫁様、お召し替えを』
戻ってきた夕玲に声を掛けられて、香子はハッとした。ついついいらぬことを考えてしまったようだった。
そうして現れた侍女たちに衣裳や髪型などを整えてもらったところで、白虎が訪ねてきた。今回はタイミングばっちりである。
『戻ったか』
『はい、戻りました』
白虎の前に立てば、当たり前のように抱き上げられて長椅子に腰掛けられた。四神の誰に抱き上げられても香子は胸が高鳴ってしまう。
この、抱き上げられるという行為そのものが香子の”萌え”なのだ。別に白馬の王子様に憧れているわけではない。小さい頃は夢見ていたこともあったが、成長するに従ってそんな夢は見なくなった。ただ、カレシでも夫でも自分を抱き上げてくれるような人だったらいいなと漠然とは思っていた。だから抱き上げられるだけでいちにち身もだえてしまうのである。
しかし丸一日以上抱き上げられているのは、それはそれで精神的に負担ではあった。
何事もほどほどに、ということなのだろう。
『我の室に向かうが、よいな?』
『はい……その、お昼ごはんは食べたいかなって……』
白虎の目が色を含んでいたことを受けて、香子は頬を染めながら消え入りそうな声で要望を伝えた。白虎が苦笑する。
『そなたにはかなわぬな』
香子の希望は叶えられそうだった。
もちろん白虎の室へ連れていかれれば、そういうことになってしまうのはしかたないことだったけれども。
ろくに話をする間もなく寝室へ連れ込まれるのはどうかと香子は思う。
直接寝室へ向かおうとする白虎を、珍しく白雲が呼び止めてくれたことでお茶の一杯は飲むことができた。その間に黒月が玄武を呼びに行ってくれたらしく、香子が寝室に連れ込まれた時には玄武も一緒にいてくれた。
白虎は香子に欲情すると本性を現わしてしまう。そして本性を現わすと理性がほとんどきかなくなる。それを止める為に玄武に来てもらったのだ。
「あ、あ、あ、あっ……」
昼食に呼ばれるまで、香子は虎の姿の白虎に全身を舐め回された。当然だが、未だに白虎の本性は慣れない。図としてはまんま白い虎に襲われているのである。その虎が己を傷つけることはないとわかっていても、恐ろしいことに変わりはなかった。
玄武が側にいることで、香子は少し身体の力を抜くことができた。
「ふぅ……」
まもなく昼食の時間だと声を掛けられて、香子はほっとした。どさくさに紛れて白虎と今夜過ごす約束も取り付けられてしまった。だがそれは仕方ないことだと香子も思う。四神宮に戻ってきたと思ったら翌朝まで香子は三神と寝室に籠っていたのだ。
白虎には我慢をさせたと香子は思う。
『まだ足りぬが……しかたない』
低い、苦しそうな声で白虎は呟いた。そうしてやっとその姿が人型を取る。香子はふう、と息を吐き出した。
『玄武兄、ありがとうございます』
『礼には及ばぬ。香子、今宵も朱雀から熱を受けるといい』
『は、はい……』
香子は赤くなった。確かにまだしらふで白虎に抱かれるのは抵抗がある。やっと玄武だけならば熱を受けないで抱いてもらうことができるようになった。
玄武に衣裳を軽く整えてもらい、白虎に抱き上げられて一旦香子は部屋に戻ったのだった。
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