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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
54.文字を習いたいのです
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それなりに心配をかけてしまったらしい。
翌朝、玄武と朱雀はなかなか香子を離してくれなかった。
少しひんやりした肌の玄武と、ぬくもりというには熱すぎる朱雀に抱き込まれ、耳元で甘く囁かれるのはある意味拷問だった。昨夜どさくさに紛れて四神の声に弱いことを告白してしまったせいか二神は容赦がない。そんなことより天皇をもっとせっつけと思いながらも香子は朝からその身を震わせるのだった。
さて、まずは文字の練習がしたいということを延夕玲に伝えた。
すると彼女は難色を示した。
『花嫁様は何か書きたいことがおありですか?』
そんなに難しいことを言っただろうかと香子は内心焦る。
『うーんと……書く機会があるかもしれないじゃない?』
ちょうど昨日皇太后への礼状を書くのを夕玲に代筆させてしまったことだし。そのことを言えば更に難しい顔をされた。
『……高貴な女性というものは仕える者に書かせるのが普通です。自ら筆を取られることはめったにありません』
それを言うなら夕玲も本来そういう立場ではないのだろうかと香子は思う。ただそれを言ってしまうと話が進まないので指摘しないことにした。
『……じゃあ私が文字を書くことはこの先全くないの?』
『……そうですね……』夕玲はしばし思案するような顔をし、
『署名することはあるかもしれませんが……』と答えた。
『署名……』
そういえば代筆してもらった後サインをしたような気がする。当然こちらの筆記用具は毛筆なので冷汗をかきながらの署名だった。
(自分の名前ぐらいしか書く機会はないってことね……)
こちらの文字が読めた方がいいことは間違いない。それだけでなく毛筆も習った方がいいだろうと香子は思う。ようは自分の字が綺麗ではないのだ。
恥を忍んでそのことを告げると微妙な顔をされた。今日は夕玲のいろんな表情が見れると思う。
『”書”、となりますと老師が必要になりますが……その……』
先生を派遣してもらえる! と香子の目が輝いたのとは対照的に夕玲の表情が曇る。そしてちら、と香子を見、困ったように嘆息した。
『……少々お待ちください……』
そう言って、何故か夕玲は部屋の外に出た。何やら黒月と話をし、そのままどこかへ行ってしまったらしい。香子は首を傾げた。
先生を頼むのは確かにたいへんかもしれないが、その前段階で何やら大事になっている気がする。
(何かあるのかしら?)
それが気のせいでないとわかるのは、それからまもなくのことだった。
文字通りそれは”大事”だったらしい。
らしい、というのは夕玲が戻ってくるまでにかかった時間と、何故か白虎、白雲、陳、黒月そして四神宮の主官である趙文英まで顔を出したことでわかるというものだ。
『花嫁様、失礼します』
そう言って久しぶりに近くで見る趙がじっと香子を見つめる。香子は首を傾げた。相変わらず綺麗な顔をしているなと趙を見つめ返すと、彼はうっすらと頬を染めた。そして目を伏せる。
(ん?)
『……失礼いたしました』
そう言って離れ、『……私にはとても……』と白雲に何やら告げる。それに白雲が頷く。
わけがわからなかった。
『何? どうしたの?』
と聞けば、
『花嫁様は”書”を学ばれたいのですか?』
と白雲に聞き返された。そう聞かれると香子も内心複雑である。
『……字が綺麗ではないから、せめてもう少しましに見えるように練習をしたいの。本当はこちらの文字を覚えたい。私のいたところでは簡略化されているから……読めないことはないけどどの字がどの字なのか照合したいのよ。それからこの国の歴史を学びたいわ』
『そうですか。それについて四神には?』
『昨夜玄武様と朱雀様に伝えたわ。特に返事はいただいていないけど……』
『わかりました。全てかなえられるかどうかわかりませんが、できるだけ花嫁様の希望に添うようにします』
『……ええ、よろしくね』
白雲の淡々とした答えに釈然としないものを感じながら、香子はとりあえず頼むことにした。
翌朝、玄武と朱雀はなかなか香子を離してくれなかった。
少しひんやりした肌の玄武と、ぬくもりというには熱すぎる朱雀に抱き込まれ、耳元で甘く囁かれるのはある意味拷問だった。昨夜どさくさに紛れて四神の声に弱いことを告白してしまったせいか二神は容赦がない。そんなことより天皇をもっとせっつけと思いながらも香子は朝からその身を震わせるのだった。
さて、まずは文字の練習がしたいということを延夕玲に伝えた。
すると彼女は難色を示した。
『花嫁様は何か書きたいことがおありですか?』
そんなに難しいことを言っただろうかと香子は内心焦る。
『うーんと……書く機会があるかもしれないじゃない?』
ちょうど昨日皇太后への礼状を書くのを夕玲に代筆させてしまったことだし。そのことを言えば更に難しい顔をされた。
『……高貴な女性というものは仕える者に書かせるのが普通です。自ら筆を取られることはめったにありません』
それを言うなら夕玲も本来そういう立場ではないのだろうかと香子は思う。ただそれを言ってしまうと話が進まないので指摘しないことにした。
『……じゃあ私が文字を書くことはこの先全くないの?』
『……そうですね……』夕玲はしばし思案するような顔をし、
『署名することはあるかもしれませんが……』と答えた。
『署名……』
そういえば代筆してもらった後サインをしたような気がする。当然こちらの筆記用具は毛筆なので冷汗をかきながらの署名だった。
(自分の名前ぐらいしか書く機会はないってことね……)
こちらの文字が読めた方がいいことは間違いない。それだけでなく毛筆も習った方がいいだろうと香子は思う。ようは自分の字が綺麗ではないのだ。
恥を忍んでそのことを告げると微妙な顔をされた。今日は夕玲のいろんな表情が見れると思う。
『”書”、となりますと老師が必要になりますが……その……』
先生を派遣してもらえる! と香子の目が輝いたのとは対照的に夕玲の表情が曇る。そしてちら、と香子を見、困ったように嘆息した。
『……少々お待ちください……』
そう言って、何故か夕玲は部屋の外に出た。何やら黒月と話をし、そのままどこかへ行ってしまったらしい。香子は首を傾げた。
先生を頼むのは確かにたいへんかもしれないが、その前段階で何やら大事になっている気がする。
(何かあるのかしら?)
それが気のせいでないとわかるのは、それからまもなくのことだった。
文字通りそれは”大事”だったらしい。
らしい、というのは夕玲が戻ってくるまでにかかった時間と、何故か白虎、白雲、陳、黒月そして四神宮の主官である趙文英まで顔を出したことでわかるというものだ。
『花嫁様、失礼します』
そう言って久しぶりに近くで見る趙がじっと香子を見つめる。香子は首を傾げた。相変わらず綺麗な顔をしているなと趙を見つめ返すと、彼はうっすらと頬を染めた。そして目を伏せる。
(ん?)
『……失礼いたしました』
そう言って離れ、『……私にはとても……』と白雲に何やら告げる。それに白雲が頷く。
わけがわからなかった。
『何? どうしたの?』
と聞けば、
『花嫁様は”書”を学ばれたいのですか?』
と白雲に聞き返された。そう聞かれると香子も内心複雑である。
『……字が綺麗ではないから、せめてもう少しましに見えるように練習をしたいの。本当はこちらの文字を覚えたい。私のいたところでは簡略化されているから……読めないことはないけどどの字がどの字なのか照合したいのよ。それからこの国の歴史を学びたいわ』
『そうですか。それについて四神には?』
『昨夜玄武様と朱雀様に伝えたわ。特に返事はいただいていないけど……』
『わかりました。全てかなえられるかどうかわかりませんが、できるだけ花嫁様の希望に添うようにします』
『……ええ、よろしくね』
白雲の淡々とした答えに釈然としないものを感じながら、香子はとりあえず頼むことにした。
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