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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
51.確認してみます
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香子は悩んでいた。
相変わらず自分付きの女官である延夕玲の件である。
夕玲が本当に白雲に想いを寄せているのかどうかはわからない。それはあくまで誰かの意見であることには変わりないからだ。
情報を整理してみると、はっきりしているのは青藍が夕玲にアタックしているということだけだった。そして夕玲は青藍の”つがい”だという。
恋愛結婚するというのが当たり前だと思っていた香子としては、せめて夕玲の心を掴んでから”つがい”だのなんだのを始めてほしいと思う。
何度も言うが香子はメンクイなのである。
それは男性のみではなく、女性に対しても同様だ。夕玲が白虎に想いを寄せていないならば純粋に綺麗な女の子として愛でることができる。ただそれを証明するとなると、まず白虎から夕玲に話しかけてもらわなければならない。
(……うーん……)
白虎が夕玲になんの件で話しかけたら不自然ではないのだろう。
侍女たちに身支度を整えてもらいながら香子は考えた。
昼食後は白虎といつも通り過ごすことにし、食堂からそのまま白虎に連れて行かれた。
『機嫌はどうだ?』
からかうように言われてむっとする。いくら夢とはいえ、現実に言われたことには変わりない。とはいえ今はそれを引きずるべきではない。
『よくはないですが、夕玲の件を手伝ってくだされば”よくなる”と思います』
にっこりすると白虎は苦笑した。
『そなたはあの女官のことばかりだな』
『だって気になるのですもの。確認さえ取れればもう気にしません』
『本当か?』
『たぶん』
念を押されると断定はできない。白虎はまた苦笑したようだった。
『では、何をすればいい?』
ぞくりとするような低いバスで囁くように聞かれ、香子は思わず耳を抑えた。
(もうっ! 声までいいなんて反則!)
四神は容姿もさることながらその声もとんでもない。おかげで香子はきゅんきゅんしっぱなしである。
(絶対私の死因は心不全に違いない……)
ふざけたことを思いながらも、香子は白虎に説明した。
外でお茶をしたい、と香子がわがままを言ったことで急きょ四神宮の庭にお茶の用意が整えられた。
先日の皇太后主催の茶会より準備は楽だっただろうが、それでも表でお茶をするにはまだ肌寒く感じられる時期である。しかしながら四神宮の中だけは常に過ごしやすい気候で、これは四神補正なのだろうと香子は思っている。
(寒さも、砂混じりの風も嫌だけど、それが全くないのも風情がないわ)
贅沢な考えだということはわかっているが思うのは自由だ。
茶道具は茶室から運んできた物だったので当然香子が淹れた。夕玲はそれに目を見張る。そういえば夕玲は、香子が茶を入れるところを見たのは初めてだった。
『表でこうして飲むのも風情があるな』
白虎が機嫌よさそうに言う。香子はそれに笑んだ。
『そうでしょう?』
夕玲は何かいいたそうな顔をしていたが、さすがに白虎の前ということもありぐっとこらえたようだった。侍女たちも実際に淹れているところを目にするのは初めての者が多かったので、内心驚いていたのは余談である。
『時に……延夕玲と言ったか』
いきなり白虎に話しかけられて夕玲はひどく驚いたようだった。
『……は、はい……』
動揺を抑えようとしているのがよくわかる。
『江緑(皇太后のこと)のわがままに付き合うのはたいへんであろう』
そう声をかける白虎は相変わらず無表情だが、対する夕玲は赤くなったり青くなったりしているのが対照的だった。
『い、いえ……。とても、よくしていただいております……』
『そうか。これからも香子をよろしく頼むぞ』
どうにか答える夕玲。白虎はさらりと締めくくった。
『はい。全身全霊努めさせていただきます』
真面目だなぁと思いながら、香子もまた『これからもよろしくね』と返したのだった。
まったりとお茶を楽しんだ後、白虎の室に移動した。
夕玲は香子の部屋に戻る。これはいつも通りである。
本来女官というのは仕えている人に付き従うもののようだが、四神の室内や茶室ではしてもらうこともないので断っていた。茶室はともかく四神の室ではいつ何時四神がその気になるかわからない。あーんなことやそーんなことをされている様子をうら若き乙女に見られたらと考えるだけで香子は身震いしてしまう。そうでなくても四神を椅子にしたり抱き上げられて移動するのも恥ずかしい。
(どうしてこうなってるのかしら?)
白虎の膝に乗せられた格好のまま思う。
『白虎様……どうでした?』
気を取り直して聞く。
『その気はなさそうだ』
『白虎様を想っている様子はないのですね?』
『ない』
香子は内心ほっとした。
それならば香子が特に何か行動を起こす必要はない。
『白虎様、ありがとうございました』
礼を言うと長椅子に座ったまま横抱きにされた。
『?』
『香子、褒美を……』
クイ、と顎を優しく持ち上げられ、白虎の口づけが降ってくる。
ただ声をかけただけじゃないのと香子は思ったが、花嫁以外には全く興味を持たない四神が用もないのに他の者に声をかけるというのは特別なことなのだろうとも思い直す。
夕玲が白虎に想いを寄せていないことはわかったが、白雲に対してはどうなのだろう。けれどそれは当事者同士の問題であろう。
『……んんっ……』
白虎の口づけは決して穏やかではない。朱雀のそれと違い何が何でも奪おうとするものではないが、激しい情熱を感じる。
(私はいったいどうしたいの……?)
このまま流されてしまっていいのか。
すでに玄武と朱雀に抱かれているが、香子はやはり己の常識を捨てきれず葛藤するのだった。
相変わらず自分付きの女官である延夕玲の件である。
夕玲が本当に白雲に想いを寄せているのかどうかはわからない。それはあくまで誰かの意見であることには変わりないからだ。
情報を整理してみると、はっきりしているのは青藍が夕玲にアタックしているということだけだった。そして夕玲は青藍の”つがい”だという。
恋愛結婚するというのが当たり前だと思っていた香子としては、せめて夕玲の心を掴んでから”つがい”だのなんだのを始めてほしいと思う。
何度も言うが香子はメンクイなのである。
それは男性のみではなく、女性に対しても同様だ。夕玲が白虎に想いを寄せていないならば純粋に綺麗な女の子として愛でることができる。ただそれを証明するとなると、まず白虎から夕玲に話しかけてもらわなければならない。
(……うーん……)
白虎が夕玲になんの件で話しかけたら不自然ではないのだろう。
侍女たちに身支度を整えてもらいながら香子は考えた。
昼食後は白虎といつも通り過ごすことにし、食堂からそのまま白虎に連れて行かれた。
『機嫌はどうだ?』
からかうように言われてむっとする。いくら夢とはいえ、現実に言われたことには変わりない。とはいえ今はそれを引きずるべきではない。
『よくはないですが、夕玲の件を手伝ってくだされば”よくなる”と思います』
にっこりすると白虎は苦笑した。
『そなたはあの女官のことばかりだな』
『だって気になるのですもの。確認さえ取れればもう気にしません』
『本当か?』
『たぶん』
念を押されると断定はできない。白虎はまた苦笑したようだった。
『では、何をすればいい?』
ぞくりとするような低いバスで囁くように聞かれ、香子は思わず耳を抑えた。
(もうっ! 声までいいなんて反則!)
四神は容姿もさることながらその声もとんでもない。おかげで香子はきゅんきゅんしっぱなしである。
(絶対私の死因は心不全に違いない……)
ふざけたことを思いながらも、香子は白虎に説明した。
外でお茶をしたい、と香子がわがままを言ったことで急きょ四神宮の庭にお茶の用意が整えられた。
先日の皇太后主催の茶会より準備は楽だっただろうが、それでも表でお茶をするにはまだ肌寒く感じられる時期である。しかしながら四神宮の中だけは常に過ごしやすい気候で、これは四神補正なのだろうと香子は思っている。
(寒さも、砂混じりの風も嫌だけど、それが全くないのも風情がないわ)
贅沢な考えだということはわかっているが思うのは自由だ。
茶道具は茶室から運んできた物だったので当然香子が淹れた。夕玲はそれに目を見張る。そういえば夕玲は、香子が茶を入れるところを見たのは初めてだった。
『表でこうして飲むのも風情があるな』
白虎が機嫌よさそうに言う。香子はそれに笑んだ。
『そうでしょう?』
夕玲は何かいいたそうな顔をしていたが、さすがに白虎の前ということもありぐっとこらえたようだった。侍女たちも実際に淹れているところを目にするのは初めての者が多かったので、内心驚いていたのは余談である。
『時に……延夕玲と言ったか』
いきなり白虎に話しかけられて夕玲はひどく驚いたようだった。
『……は、はい……』
動揺を抑えようとしているのがよくわかる。
『江緑(皇太后のこと)のわがままに付き合うのはたいへんであろう』
そう声をかける白虎は相変わらず無表情だが、対する夕玲は赤くなったり青くなったりしているのが対照的だった。
『い、いえ……。とても、よくしていただいております……』
『そうか。これからも香子をよろしく頼むぞ』
どうにか答える夕玲。白虎はさらりと締めくくった。
『はい。全身全霊努めさせていただきます』
真面目だなぁと思いながら、香子もまた『これからもよろしくね』と返したのだった。
まったりとお茶を楽しんだ後、白虎の室に移動した。
夕玲は香子の部屋に戻る。これはいつも通りである。
本来女官というのは仕えている人に付き従うもののようだが、四神の室内や茶室ではしてもらうこともないので断っていた。茶室はともかく四神の室ではいつ何時四神がその気になるかわからない。あーんなことやそーんなことをされている様子をうら若き乙女に見られたらと考えるだけで香子は身震いしてしまう。そうでなくても四神を椅子にしたり抱き上げられて移動するのも恥ずかしい。
(どうしてこうなってるのかしら?)
白虎の膝に乗せられた格好のまま思う。
『白虎様……どうでした?』
気を取り直して聞く。
『その気はなさそうだ』
『白虎様を想っている様子はないのですね?』
『ない』
香子は内心ほっとした。
それならば香子が特に何か行動を起こす必要はない。
『白虎様、ありがとうございました』
礼を言うと長椅子に座ったまま横抱きにされた。
『?』
『香子、褒美を……』
クイ、と顎を優しく持ち上げられ、白虎の口づけが降ってくる。
ただ声をかけただけじゃないのと香子は思ったが、花嫁以外には全く興味を持たない四神が用もないのに他の者に声をかけるというのは特別なことなのだろうとも思い直す。
夕玲が白虎に想いを寄せていないことはわかったが、白雲に対してはどうなのだろう。けれどそれは当事者同士の問題であろう。
『……んんっ……』
白虎の口づけは決して穏やかではない。朱雀のそれと違い何が何でも奪おうとするものではないが、激しい情熱を感じる。
(私はいったいどうしたいの……?)
このまま流されてしまっていいのか。
すでに玄武と朱雀に抱かれているが、香子はやはり己の常識を捨てきれず葛藤するのだった。
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