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第4部 四神を愛しなさいと言われました

76.とても広い露天風呂でした

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 青龍の館にも大きな露天風呂があった。
 基本は青龍の水浴び用らしく、ここも広さがとんでもなかった。そこに大量に熱石を入れてちょうどいい温かさに調整してくれたというのだから頭が下がると香子は思う。
 青龍の眷属もあまりお湯に入るという習慣はないようで、普段は水浴びで十分らしいのだが、

『花嫁様のおかげでみな湯に入れます』

 と言われてしまった。香子としてはもうどんな表情をしたらいいのかわからない。

『こんなに広いんですね……』

 25mプールも真っ青だと香子は思った。深さはないが、風呂というにはスケールがでかすぎる。
 衣服を脱がされる際もできるだけ香子が地に足を付けないようにして行われた。そうしないと我慢がきかなくなるからというのが理由だが、すでに我慢なんてしていないではないかと香子は思う。とはいえ、そんなことを言ったら更にたいへんなことになってしまうのはわかっているので口にはしない。
 裸にされて青龍に抱かれたまま湯に浸かるのは恥ずかしかった。
 風呂に入る際、青沙が青龍に耳打ちした。それが聞こえてしまったから余計に香子は恥ずかしい。
 湯をいくら汚してもかまわないだなんて、いったい何を考えているのか。

(まぁでも、眷属にとっては自分の神が一番だもんね)

 湯に浸かりながらぼうっとする。
 香子自身は全く歩いていないし、どこに疲れる要素があるのかと聞かれそうだが、知らない場所である。全てが至れり尽くせりだが、それがかえって香子としては落ち着かない。湯を掬って顔を洗った。

『とても広い、ですね……』
『そなたに言われるとそうかもしれないな』

 もうなんというか、スケールが違う。湯はほどよい熱さだ。なんとなく、香子は泳いでみたくなった。でもそんなことは言えない。

(さすがにそれはないかなー……)

 すぐ側に玄武と朱雀がいる。
 こんなに広いのに、と香子は思ってしまった。

香子シャンズ、したいことがあれば言うといい』

 青龍が物言いたげな香子の様子に気づいた。腕の中にいるから気づきやすかったのだろうが、気づいてくれるのはいいなと香子は思う。

『なんでもないです』
『広くて、落ち着かないか?』
『ええまぁ……』

 それもないとは言えない。
 四神に心を許しているせいかなんなのか、香子は自分の欲求のようなものがどうも抑えづらくなっていることを感じた。

『香子』

 青龍の涼やかな声で話しかけられる。もう我慢はできそうもなかった。

『……その……あんまり広いから泳げないかなーって……』
『そなたが泳ぐのか』
『……はい』

 さすがにそれははしたないだろうと香子は思ったが、口が止まらなかった。香子の頬が熱くなる。なんということを言ってしまったのかとさすがに香子も後悔した。

『泳ぐぐらいなら問題あるまい。どれ、泳いでみよ』
『……いいのですか?』
『かまわぬ。我もこの姿で泳いでみよう』

 そうして、何故か三神と共に湯舟の中で香子は泳いだ。泳ぐのなんて本当に久しぶりである。三神も裸だからそれほど恥ずかしくはないが、香子はなんだか落ち着かなかった。
 はぁ……と香子はため息を吐いた。
 青龍の領地にいるということで思ったより気を張っていたらしい。泳いだことで身体のコリのようなものがほぐせたようである。

『香子』

 青龍に呼ばれてその腕の中に泳いでいった。

『随分キレイに泳ぐものだ』
『……私がいた国は水資源が豊富で……学校に泳げる場所があって夏は水泳指導もあったのです。それ以外にも水泳を習う場所にも通って、泳げる子がたくさんいたんですよ』
『それはすごいな』
『でも、いざという時には泳げるよりも浮ける方がいいんですけどね……』

 日本人は泳げる人が多いかもしれないが、それでも毎年水の事故は起こる。どうにかならないものかと香子は思うけれども、身体に浮きでもつけておかなければ無理だろうということもわかっていた。(浮き輪だと手を離してしまうかもしれないので、本当はライフジャケットの着用が望ましい)

『見事なものだ』

 そんなに褒めないでほしいと香子は思う。
 出て身体を洗ってもらい、やっと浴室を出る。薄手の睡衣ねまきを着せられた。
 明日は昼食後に戻るようだ。
 寝室に運ばれる。

『……だめですからね』
『わかっている。そなたをここで抱いてしまったら、我はもうそなたをここに止めおきたくなってしまうだろう』

 さらりと怖いことを言われ、香子は冷汗をかいた。

『それは許せぬな』
『ならば攫うぞ』

 玄武と朱雀も物騒なことを言う。
 とはいえおとなしく寝るという選択肢もないようだ。香子は白湯をもらい、ベッドでコクコクと飲んだ。湯上りに白湯がしみる。
 ほう、と香子はため息を吐いた。

『朝食もちゃんといただきたいです』
『……わかった』

 青龍は苦笑した。

『香子、そなたに触れたい』

 香子は頬を染めた。それと同時に、触れてよく我慢ができるものだと感心してしまう。

『……触れる、だけですよ』

 夕食前の戯れを思い出し、香子はぶるりと身を震わせた。四神の愛はまるで甘い毒のようだと香子は思う。

(絶対に、欲しがらないようにしないと……)
『ああ、触れるだけだ』

 夜はいつも抱かれているから、香子も耐えなければならないことはわかった。それに玄武も朱雀もいる。
 三人がかりなんてずるい、と香子は思ったのだった。
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