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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

41.これもありがちな展開です

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『手紙? 老佛爷ラオフオイエから?』

 その知らせは昼食後、白雲によってもたらされた。香子は首を傾げ、延夕玲イエンシーリンを見やる。彼女は少し申し訳なさそうな表情をしていた。

『ですが正式な手順は踏んでいないそうです。どうなさいますか?』
『正式な手順を踏んでないってどういうことなのかしら』
『……わかりかねます』

 白雲が無表情で答える。後で趙文英にでも聞けばいいかと香子は受け取ることにした。

『……いただくわ』

 そう言ってから己を抱き込んでいる白虎を見やる。彼が頷いたのを確認し、夕玲に受け取らせた。
 こういう手順がなんとも煩わしいと香子は思う。自分宛の手紙が来たからといって直接香子が手渡してもらってはいけないとか。四神宮の中でぐらい好きにさせてほしいとも思うが、もし王宮内の別の場所で似たようなことがあった場合どうするのかと夕玲に言われ譲歩することにしたのである。

(面倒だ、ああ面倒だ、面倒だ)

 心の中で思うぐらいは自由だと手紙を恭しく受け取った夕玲を見る。
 ここに来てから手紙などもらったことがないのでどうしたらいいのかわからない。

(聞くは一時の恥……)
『その手紙はどうしたらいいのかしら。私が直接読んでもいいの? それとも……』
『基本は女官などがお読みします。お返事などもお仕えする方にお伺いをし女官などが書きます』

 など、ということは他にもいろいろいるのだろうと想像する。
 確かにこういうことがあるとそういうことに詳しい夕玲がいてくれるのは心強い。

『では読んでくれる?』

 けれど夕玲は躊躇うようなそぶりを見せた。どうしたのかといぶかしげな顔をすると、

『……白虎様がいらっしゃいますが、よろしいのですか?』

 と言う。香子は軽く首を傾げた。白虎がいると都合が悪いようなことが書かれているのだろうか。

『……誰かがいるといけないものなのかしら』
『そういうわけではございませんが……』

 夕玲は困ったような表情をした。

『読むがいい』

 すぐ後ろからバリトンよりも低いバスの声がした。それまで香子を抱き込んで椅子になっていた白虎であった。

『は、はい……』

 夕玲は緊張した面持ちでそっと手紙を開き、読み始めた。


 ……なんというか、美辞麗句を散りばめたよくわからない手紙だった。
 内容としてはこうだ。
 明日の昼過ぎに慈寧宮で茶会を開くからそれに出席せよというものである。
 女性のみの茶会なので四神と一緒にくることはまかりならんというところで香子は眉を寄せた。
 となると黒月と夕玲、そして何人かの侍女を伴っていくだけになるのだろうか。

(……無理でしょ)

 そう思い、

『そう……じゃあ悪いけど夕玲、不参加のお返事を書いてくれるかしら』

 言うと夕玲はひどく驚いたような顔をした。

『……行かれないの、ですか?』
『ええ。だって四神のどなたかと一緒でなければ私は四神宮を出ることができないもの』

 夕玲が絶句する。
 まさか皇太后からの誘いを断るとは思ってもみなかったのだろう。
 根本的な問題として、香子と四神はセットなのである。
 四神の花嫁は四神の愛情を一身に受ける。四神は非常に嫉妬深く、花嫁が人間の男の目に触れることさえ嫌がるのだ。その為四神宮の主官である趙ですらなかなか四神宮に足を踏み入れることはできないぐらいである。(だがそのことを香子は知らない)
 いくら黒月がついているからといって慈寧宮まで一人で行かせてくれるとは到底思えない。

『ですが……』
『黒月が共に参るのは当然ですが、花嫁様おひとりで向かわれることはまかりなりませぬ』

 戸惑いながらも口を開いた夕玲に白雲が淡々と告げる。夕玲はそれに一瞬はっとしたような表情をした。

『……承知しました』

 夕玲が目を伏せる。

(あれ?)

 さすがにそこで香子の女の直感が働いた。

(もしかして……)


 いくつか手紙のやりとりをし、結局茶会には白虎と玄武が同伴することとなった。黒月と夕玲は言わずもがなである。
 さすがに翌日の昼に開催するには間に合わない為調整を重ね、二日後の昼過ぎに開かれるという。
 ちなみに、茶会に玄武が何故同伴することになったかというと黒月の強い希望による。曰く、『白虎様だけでは心もとない』
 四神に対してそれはいくらなんでも失礼ではないかと香子は思ったが、黒月の言うことにも一理あるので黙っていることにした。触らぬ神に祟りなしとはよく言ったものだ。
 正直言って香子としては面倒くさい。四神と一緒なら大丈夫だろうが、気が進まないのだ。

(何を言われるのかしら……)

 だが面倒に思う気持ちと、少しわくわくした気持ちもあって複雑ではある。

(これぞ中国の時代劇的な展開!!)

 そう心の中でガッツポーズをしたのは誰にも内緒である。
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