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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
38.観察してみます
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翌日の昼は白虎と過ごすことになっている。
もう夜は玄武と朱雀の二神と過ごすことに決まってしまった。二神に全身がとろけてしまうのではないかと錯覚するほど抱かれても、翌朝には空腹に襲われるだけで確実に香子の体は慣らされていた。もちろんそれは二神が香子の体を回復させるようにしたからではあるが、四神の花嫁だということも関係している。
少し遅めの朝食を今朝は玄武の室でとり、落ち着いてから玄武に抱かれて部屋に戻ると居間に延夕玲がいた。
ああそうか、と香子は思う。これからは延が居間とはいえ自分の部屋にいることになるのだ。
『おはよう』
と声をかけると、
『おはようございます、花嫁様』
やはり鈴の鳴るようなキレイな声が返ってきた。部屋付きの侍女たちは微動だにしない。
玄武にそっと長椅子の上に下ろされ、『また後でな』と名残惜しげに囁かれる。黒月は基本部屋の表にいる。延と2人きりというわけではないが、ほんの少し心細さを感じたのも事実で。
玄武の服の裾を掴もうとした手をしかし香子は手前で握りこんだ。
延はすでに成人しているらしいが香子よりは年下のお嬢様である。心細さは香子の比ではないだろう。
そこまで考えてはたと気づく。延は良家のお嬢様なのに何故結婚していないのだろうか。
まさか本当に白虎に懸想して結婚しないのだろうか。
侍女が入れてくれたお茶に口をつけながら香子は眉を寄せた。
それならば諦めさせなければいけないと思うのだが、いきなりそんなことを尋ねるわけにもいかない。
香子の立場からすれば問いただしてもいいことである。しかし最初からギスギスした関係を築きたいわけではない。
どうせ今日は白虎と過ごすことになっているのだ。午前中はこちらで過ごしてもらってもいいかもしれない。それで延の様子を見ればいい。
いつもなら扉の表にいる黒月に声をかけるのだが、今は延がいる。女官というものを使ったことがないので何をどこまでさせていいのかわからない。けれどこういう場合は延にまず声をかけるのが正解なのだろうと香子は思う。
『夕玲、白虎様に伝言を』
『はい』
『こちらでお茶をしませんか、と』
『かしこまりました』
女性特有の礼をとり、延は表へ続く扉を開いた。見ていると黒月に声をかけた。
黒月に行かせるつもりだろうか。しかし彼女は香子の守護である。四神宮の中とはいえ離れるわけにはいかない。
扉の表では何やら少し言い合っているようである。
(どうなるのかしら)
身分が高ければ高いほど誰かに物を伝えるが面倒である。
今までは黒月に言えば彼女が全て判断してくれた。自分が直接行くのか、侍女頭に伝えるのか、そこらへんにいる侍女を捕まえて行かせるのか。
黒月は香子の”守護”だから四神が側にいない時離れるわけにはいかない。ただし現在は四神宮の警備も以前に比べて強固になっている為そこらへんは臨機応変に行っている。
結局すぐ戻ってこなかったところをみるに、延が直接伝えに行ったようだった。
『ただいま戻りました』
『ご苦労さま』
表情をあまり動かさないようにしているようだが頬が少し上気しているところは若い、と香子は思う。良家のお嬢様でしかも皇太后のお気に入りとくれば働いたことなどないだろう。聡明ではあるから皇太后付の女官の仕事の範囲は覚えているだろうが、香子付となると些か勝手が違うに違いなかった。
本来香子が言ったことを女官が聞き、女官が侍女に言いつけてさせるというのが一般的である。だが香子の部屋には必要最低限しか侍女を置いていない。つまり女官が言いつける侍女を選べるという状況ではなく、誰かに言いつけようとすれば香子の部屋を出て侍女を探さなければいけない。
しかし白虎の室は香子の部屋のすぐ西側、扉を出て右の走廊を進んで一つ目の建物がそれである。侍女を探している暇があったら直接自分で行った方が早い。
つまり女官が必要だとはやっぱり思えない香子だった。
だが延は戻るとすぐに侍女たちにお茶の用意を言いつける。そういえば白虎をお茶に誘ったのだったと香子は思い出した。
そう間も置かず白虎が訪れた。
それに何故か延は少し呆れたような表情をした。
『香子』
白虎は柔らかい表情で近づいてくると、立ち上がろうとした香子を抱き上げ、そのまま長椅子に腰掛けた。延はその一連の動きに一瞬目を丸くする。
香子は白虎を部屋に招くことで延の様子を見ることにしたのだった。
付き従ってきた白雲が拱手し部屋から出る。特に用事もないので呼び止めはしない。すると、『花嫁様、失礼します』と言い残し延が追いかけるようにして部屋を出て行った。
今度は香子が目を丸くした。
仕える者同士、何か話でもあるのだろうか。
『香子、お茶をするのではなかったか?』
白虎に言われてはっとする。いくら延の様子が気になるとはいえ、自分から招いておいて客をおろそかにするなどあってはいけないことである。
『ごめんなさい白虎様……ちょっと、気になってしまって……』
申し訳なさそうに言うと白虎は面白そうに笑みを浮かべた。
『……やきもちか?』
香子は苦笑して小首を傾げた。
(……そういうわけでもないんだけど……)
けれどきっとこういう場面では「そうです」と答えた方が可愛い女なのだろうとも思う。
そこでいたずら心が湧いた。
『……だったら、どうします?』
はにかむようにして言ったら、白虎は片眉を上げた。
『……やきもちなど焼く暇もないぐらい愛してやろう』
低い、色気を含んだ声を耳元で囁かれ香子は身を震わせる。そのまま立ち上がられて、さすがに香子は慌てた。
藪蛇である。
(やヴぁい、やヴぁあああああいっっ!! 私のバカバカーーーー!!)
『白虎様!? まだ昼間です!! そういう時間じゃないですからぁーーー!!』
『愛し合う者たちに時間は関係ない』
『焼いてない! 焼いてないです!! 勘弁してくださいっ!!』
当然のことながら白虎は聞いてくれなかった。
寝室に運ばれ、顔中口づけられた香子はいたずら心を封印することを誓ったのである。
結局延のことはさっぱりわからなかった。
仕方なく午後白雲に延が追いかけて行った理由を聞くことにした。
もう夜は玄武と朱雀の二神と過ごすことに決まってしまった。二神に全身がとろけてしまうのではないかと錯覚するほど抱かれても、翌朝には空腹に襲われるだけで確実に香子の体は慣らされていた。もちろんそれは二神が香子の体を回復させるようにしたからではあるが、四神の花嫁だということも関係している。
少し遅めの朝食を今朝は玄武の室でとり、落ち着いてから玄武に抱かれて部屋に戻ると居間に延夕玲がいた。
ああそうか、と香子は思う。これからは延が居間とはいえ自分の部屋にいることになるのだ。
『おはよう』
と声をかけると、
『おはようございます、花嫁様』
やはり鈴の鳴るようなキレイな声が返ってきた。部屋付きの侍女たちは微動だにしない。
玄武にそっと長椅子の上に下ろされ、『また後でな』と名残惜しげに囁かれる。黒月は基本部屋の表にいる。延と2人きりというわけではないが、ほんの少し心細さを感じたのも事実で。
玄武の服の裾を掴もうとした手をしかし香子は手前で握りこんだ。
延はすでに成人しているらしいが香子よりは年下のお嬢様である。心細さは香子の比ではないだろう。
そこまで考えてはたと気づく。延は良家のお嬢様なのに何故結婚していないのだろうか。
まさか本当に白虎に懸想して結婚しないのだろうか。
侍女が入れてくれたお茶に口をつけながら香子は眉を寄せた。
それならば諦めさせなければいけないと思うのだが、いきなりそんなことを尋ねるわけにもいかない。
香子の立場からすれば問いただしてもいいことである。しかし最初からギスギスした関係を築きたいわけではない。
どうせ今日は白虎と過ごすことになっているのだ。午前中はこちらで過ごしてもらってもいいかもしれない。それで延の様子を見ればいい。
いつもなら扉の表にいる黒月に声をかけるのだが、今は延がいる。女官というものを使ったことがないので何をどこまでさせていいのかわからない。けれどこういう場合は延にまず声をかけるのが正解なのだろうと香子は思う。
『夕玲、白虎様に伝言を』
『はい』
『こちらでお茶をしませんか、と』
『かしこまりました』
女性特有の礼をとり、延は表へ続く扉を開いた。見ていると黒月に声をかけた。
黒月に行かせるつもりだろうか。しかし彼女は香子の守護である。四神宮の中とはいえ離れるわけにはいかない。
扉の表では何やら少し言い合っているようである。
(どうなるのかしら)
身分が高ければ高いほど誰かに物を伝えるが面倒である。
今までは黒月に言えば彼女が全て判断してくれた。自分が直接行くのか、侍女頭に伝えるのか、そこらへんにいる侍女を捕まえて行かせるのか。
黒月は香子の”守護”だから四神が側にいない時離れるわけにはいかない。ただし現在は四神宮の警備も以前に比べて強固になっている為そこらへんは臨機応変に行っている。
結局すぐ戻ってこなかったところをみるに、延が直接伝えに行ったようだった。
『ただいま戻りました』
『ご苦労さま』
表情をあまり動かさないようにしているようだが頬が少し上気しているところは若い、と香子は思う。良家のお嬢様でしかも皇太后のお気に入りとくれば働いたことなどないだろう。聡明ではあるから皇太后付の女官の仕事の範囲は覚えているだろうが、香子付となると些か勝手が違うに違いなかった。
本来香子が言ったことを女官が聞き、女官が侍女に言いつけてさせるというのが一般的である。だが香子の部屋には必要最低限しか侍女を置いていない。つまり女官が言いつける侍女を選べるという状況ではなく、誰かに言いつけようとすれば香子の部屋を出て侍女を探さなければいけない。
しかし白虎の室は香子の部屋のすぐ西側、扉を出て右の走廊を進んで一つ目の建物がそれである。侍女を探している暇があったら直接自分で行った方が早い。
つまり女官が必要だとはやっぱり思えない香子だった。
だが延は戻るとすぐに侍女たちにお茶の用意を言いつける。そういえば白虎をお茶に誘ったのだったと香子は思い出した。
そう間も置かず白虎が訪れた。
それに何故か延は少し呆れたような表情をした。
『香子』
白虎は柔らかい表情で近づいてくると、立ち上がろうとした香子を抱き上げ、そのまま長椅子に腰掛けた。延はその一連の動きに一瞬目を丸くする。
香子は白虎を部屋に招くことで延の様子を見ることにしたのだった。
付き従ってきた白雲が拱手し部屋から出る。特に用事もないので呼び止めはしない。すると、『花嫁様、失礼します』と言い残し延が追いかけるようにして部屋を出て行った。
今度は香子が目を丸くした。
仕える者同士、何か話でもあるのだろうか。
『香子、お茶をするのではなかったか?』
白虎に言われてはっとする。いくら延の様子が気になるとはいえ、自分から招いておいて客をおろそかにするなどあってはいけないことである。
『ごめんなさい白虎様……ちょっと、気になってしまって……』
申し訳なさそうに言うと白虎は面白そうに笑みを浮かべた。
『……やきもちか?』
香子は苦笑して小首を傾げた。
(……そういうわけでもないんだけど……)
けれどきっとこういう場面では「そうです」と答えた方が可愛い女なのだろうとも思う。
そこでいたずら心が湧いた。
『……だったら、どうします?』
はにかむようにして言ったら、白虎は片眉を上げた。
『……やきもちなど焼く暇もないぐらい愛してやろう』
低い、色気を含んだ声を耳元で囁かれ香子は身を震わせる。そのまま立ち上がられて、さすがに香子は慌てた。
藪蛇である。
(やヴぁい、やヴぁあああああいっっ!! 私のバカバカーーーー!!)
『白虎様!? まだ昼間です!! そういう時間じゃないですからぁーーー!!』
『愛し合う者たちに時間は関係ない』
『焼いてない! 焼いてないです!! 勘弁してくださいっ!!』
当然のことながら白虎は聞いてくれなかった。
寝室に運ばれ、顔中口づけられた香子はいたずら心を封印することを誓ったのである。
結局延のことはさっぱりわからなかった。
仕方なく午後白雲に延が追いかけて行った理由を聞くことにした。
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