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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
36.さっそく窘められました
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皇太后に言われてここに来たとはいえ、延夕玲はとても真面目な女性だった。親戚ということを差し引いてもやはり優秀なのだろう。そうでなければ皇太后に可愛がられるはずもないか、と香子は早々に考えを改めた。
『夕玲さん、ではこれからよろしくお願いします』
夕玲がそれに眉を寄せる。
『花嫁様、臣下に対して”さん”などとつけてはいけません。”お願い”も必要ございません』
さっそく指摘され、香子は思わず笑ってしまった。癖が抜け切らずつい”さん”をつけてしまったが、黒月にも指摘されるようにやはりつけてはいけないらしい。
(黒月さんと言ってることが一緒!)
それがツボに入ってしまい、悪いとは思ったが香子はなかなか笑いを止めることができなかった。
夕玲は複雑そうな表情をしていた。
『ごめんなさい、黒月と言ってることが一緒だったからつい……』
と言えば黒月の目が釣り上がった。
『花嫁様!』
そのあまりの形相に香子は己を抱いている青龍に縋りついた。当然のようにそれを青龍が受け止める。
『当り前です! 花嫁様はもう少し四神の花嫁としての自覚というものを……!!』
こんこんとお説教が始まると思った時、夕玲が嘆息した。その顔にはうっすらとだが苦笑が浮かんでいた。
『花嫁様、仕える者にそう簡単に謝ってはいけません』
けれどその声は先程とは違い、柔らかなものだった。
香子は夕玲に目を奪われた。美人の苦笑と柔らかい鈴を転がすような声音。自他共に認めるメンクイな香子は美女も大好きだった。
(はー……やっぱり綺麗な子だわー……)
こんな美少女が自分に仕えてくれるなんてやっぱり信じられないと香子は思う。
(やっぱりいびられたりしちゃうのかしら?)
そんなことまで想像してどきどきしてしまう。
別に香子はMなわけではない。中国の時代劇が好きなので似たようなシチュエーションに興奮しているだけである。
『花嫁様?』
香子の様子がおかしいことに気付いた黒月が声をかける。香子ははっとした。
こんなことを考えていると黒月に知られたら、おそらく死にたくなるぐらい冷たい眼差しを向けられるに違いなかった。
(えーと……なんの話だっけ)
一瞬目を明後日の方向にやって、
『この中でも駄目なのかしら?』
と首を傾げてみた。
さん付けは駄目。お願いも駄目。謝っても駄目。
理由はわかるのだが四神宮の中でも締め付けられるのは困ってしまう。
夕玲は何故かうっと詰まったような表情をした。
自覚が全くないが、玄武と朱雀に愛されている香子はいまやとんでもない色気の塊なのである。
玄武とだけ関係を持った朝は更にとんでもなかった。花嫁は四神全ての花嫁というのが前提の為、四神全てと関係を持たないと無駄に色気を放出してしまう。朱雀とも関係を持ったことで少しばかり誘うような芳香が納まったようだが、不安定には違いない。その為心構えがない者だと醸し出される色気にあてられてしまうこともあった。
『……そうですね。四神宮の外に出られることがほとんどないとはいえ、全く出ないわけではございませんでしょう。黒月殿もおっしゃる通りもう少し花嫁としての自覚を持っていただけた方が安心でございます』
延はどうにか居住まいを正して言う。
一理あった。
『うーん……』
一理も二理もあるのだが、いきなりそういったことを全て直していくというのは厳しいものがある。
どこかに妥協点がないものかと香子は悩む。
『じゃあ私はそういうことがよくわからないから、その都度教えてくれる? 実践でもいいし、私が気になった時でもいいから』
立場的なものはなんとなくわかるが、生まれながらにしてお嬢様である夕玲に聞くのが一番だと香子は思う。
『でも、四神に対する口の聞き方までは指図しないでね?』
そこが香子にとっての妥協点だった。
夕玲は一瞬はっとしたような顔をした。
いたずらっ子のような表情をした香子になにかを悟ったらしい。
『お時間を割いていただき、ありがとうございました』
黒月に促され、夕玲が淑女の礼をとり出て行った。
ここは青龍の室、本来彼女たちが足を踏み入れていい場所ではないのだ。
これから夕玲は香子の部屋の居間に詰めることになるようだ。
青藍も気を利かせたつもりか居間から姿を消している。けれどそれに香子は何かが引っ掛かった。いわゆる女の感というやつだろうか。
『香子』
椅子と化していた青龍の腕が少しだけきつく香子を抱きしめる。
それだけで青藍のことなどもうどうでもよくなってしまった。
『あ……お騒がせして……』
青龍の室で話し始めてしまったことに対して謝罪の言葉を紡ごうとしたが、それは叶わなかった。
顎をクイと持ち上げられ青龍のそれで口を塞がれたまま、香子は抱き上げられた。そのまま青龍の足は奥に向かう。
香子の頬がほんのりと赤く染まる。
めったにないことなせいかいつになく胸が甘く疼いた。
昼だからか、それとも三神に遠慮しているのかあまり青龍が香子にアプローチしてくることはない。
けれど今は違った。
夕玲は女性なのだが、もしかしたらほんの少しだけ青龍は妬いたのかもしれなかった。
『夕玲さん、ではこれからよろしくお願いします』
夕玲がそれに眉を寄せる。
『花嫁様、臣下に対して”さん”などとつけてはいけません。”お願い”も必要ございません』
さっそく指摘され、香子は思わず笑ってしまった。癖が抜け切らずつい”さん”をつけてしまったが、黒月にも指摘されるようにやはりつけてはいけないらしい。
(黒月さんと言ってることが一緒!)
それがツボに入ってしまい、悪いとは思ったが香子はなかなか笑いを止めることができなかった。
夕玲は複雑そうな表情をしていた。
『ごめんなさい、黒月と言ってることが一緒だったからつい……』
と言えば黒月の目が釣り上がった。
『花嫁様!』
そのあまりの形相に香子は己を抱いている青龍に縋りついた。当然のようにそれを青龍が受け止める。
『当り前です! 花嫁様はもう少し四神の花嫁としての自覚というものを……!!』
こんこんとお説教が始まると思った時、夕玲が嘆息した。その顔にはうっすらとだが苦笑が浮かんでいた。
『花嫁様、仕える者にそう簡単に謝ってはいけません』
けれどその声は先程とは違い、柔らかなものだった。
香子は夕玲に目を奪われた。美人の苦笑と柔らかい鈴を転がすような声音。自他共に認めるメンクイな香子は美女も大好きだった。
(はー……やっぱり綺麗な子だわー……)
こんな美少女が自分に仕えてくれるなんてやっぱり信じられないと香子は思う。
(やっぱりいびられたりしちゃうのかしら?)
そんなことまで想像してどきどきしてしまう。
別に香子はMなわけではない。中国の時代劇が好きなので似たようなシチュエーションに興奮しているだけである。
『花嫁様?』
香子の様子がおかしいことに気付いた黒月が声をかける。香子ははっとした。
こんなことを考えていると黒月に知られたら、おそらく死にたくなるぐらい冷たい眼差しを向けられるに違いなかった。
(えーと……なんの話だっけ)
一瞬目を明後日の方向にやって、
『この中でも駄目なのかしら?』
と首を傾げてみた。
さん付けは駄目。お願いも駄目。謝っても駄目。
理由はわかるのだが四神宮の中でも締め付けられるのは困ってしまう。
夕玲は何故かうっと詰まったような表情をした。
自覚が全くないが、玄武と朱雀に愛されている香子はいまやとんでもない色気の塊なのである。
玄武とだけ関係を持った朝は更にとんでもなかった。花嫁は四神全ての花嫁というのが前提の為、四神全てと関係を持たないと無駄に色気を放出してしまう。朱雀とも関係を持ったことで少しばかり誘うような芳香が納まったようだが、不安定には違いない。その為心構えがない者だと醸し出される色気にあてられてしまうこともあった。
『……そうですね。四神宮の外に出られることがほとんどないとはいえ、全く出ないわけではございませんでしょう。黒月殿もおっしゃる通りもう少し花嫁としての自覚を持っていただけた方が安心でございます』
延はどうにか居住まいを正して言う。
一理あった。
『うーん……』
一理も二理もあるのだが、いきなりそういったことを全て直していくというのは厳しいものがある。
どこかに妥協点がないものかと香子は悩む。
『じゃあ私はそういうことがよくわからないから、その都度教えてくれる? 実践でもいいし、私が気になった時でもいいから』
立場的なものはなんとなくわかるが、生まれながらにしてお嬢様である夕玲に聞くのが一番だと香子は思う。
『でも、四神に対する口の聞き方までは指図しないでね?』
そこが香子にとっての妥協点だった。
夕玲は一瞬はっとしたような顔をした。
いたずらっ子のような表情をした香子になにかを悟ったらしい。
『お時間を割いていただき、ありがとうございました』
黒月に促され、夕玲が淑女の礼をとり出て行った。
ここは青龍の室、本来彼女たちが足を踏み入れていい場所ではないのだ。
これから夕玲は香子の部屋の居間に詰めることになるようだ。
青藍も気を利かせたつもりか居間から姿を消している。けれどそれに香子は何かが引っ掛かった。いわゆる女の感というやつだろうか。
『香子』
椅子と化していた青龍の腕が少しだけきつく香子を抱きしめる。
それだけで青藍のことなどもうどうでもよくなってしまった。
『あ……お騒がせして……』
青龍の室で話し始めてしまったことに対して謝罪の言葉を紡ごうとしたが、それは叶わなかった。
顎をクイと持ち上げられ青龍のそれで口を塞がれたまま、香子は抱き上げられた。そのまま青龍の足は奥に向かう。
香子の頬がほんのりと赤く染まる。
めったにないことなせいかいつになく胸が甘く疼いた。
昼だからか、それとも三神に遠慮しているのかあまり青龍が香子にアプローチしてくることはない。
けれど今は違った。
夕玲は女性なのだが、もしかしたらほんの少しだけ青龍は妬いたのかもしれなかった。
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