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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
30.会話するのがたいへんです
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『必要ない。連れて帰れ』
こんなに綺麗な女性なのだから少しは反応するのかと香子は思っていたが、白虎の返答はにべもなかった。
『白虎様、どうかそうおっしゃらずに。花嫁殿も人の身、四神全てを受け入れるのは難しかろう、のぅ?』
前半は白虎、後半は香子に話しかけたようである。しかも前半は優しげだが、後半はなんだか低くてどすが効いたような声音だった。香子の背筋を冷汗が伝う。
(そ、そりゃあ正直言えば四神全員を受け入れるっていうのには抵抗があるけど……)
けれどそれを決めるのは皇太后ではないと香子は思う。余計なお世話ですと言いたいところだが、さすがにそれはまずいだろう。ここは沈黙で通した方がよさそうだと香子は曖昧な笑みを浮かべた。
『江緑、白香は我らの花嫁だ。そなたの指図は受けぬ』
『指図だなどと、そのようなことはいたしませぬ。これも花嫁殿と白虎様を思ってのこと。もし白虎様の側に侍らすのが不適当とおっしゃるなら、花嫁殿のお付にでもしていただけると幸いです』
さすが皇太后、のらりくらりと白虎の冷たい声をかわしている。しかも自分の遠縁だとかいう美女を香子付にしてはどうかと提案する辺りがにくい。
(ここで私が断ったら私が悪い人みたいじゃんねー)
しかし白虎の側女にするだの、香子のお付にするだの勝手なことを言われている当の本人はどう思っているのだろうか。
ちら、とその場に立っている美人―延夕玲を窺ったが彼女は目を伏せている為よくわからなかった。だがその頬がほんのりと赤く染まっているのを見て、白虎に好意を持ったのだろうと香子は思った。
(顔とか体つき見たら超いい男だし……)
それに声もイイ! と香子は心の中で拳をぐっと握り締めた。
だがデリカシーはないと思う。
それはともかく白虎を窺うと苦笑された。香子付と言われたら口を出せないということだろう。ここで白虎が断ってくれれば楽なのだが、そうもいかないらしい。
(面倒臭い)
大体まず香子付、というのが何をどこまでするものなのかわからない。しかしこれを素直に聞いたら皇太后に鼻で笑われるに違いない。かといって趙文英に丸投げするというのもどうかと思う。どちらにせよ香子には即答できそうもなかった。
困ったなと視線を向けた先には皇帝がい、眉を寄せていた。意識せずとも必然的に目が合う。
『老佛爷、お戯れも大概になされ』
(もっと早く口出ししてほしかったなー……)
『何が戯れか。聞けば四神宮には女官がいないというではないか。夕玲を女官にすれば花嫁殿も暮らしやすくなるであろう』
いったいどこからそういう情報を仕入れるのだろうか。実際四神宮には侍女や侍女頭はいても女官はいない。女官は身分のある女性がなるもので、主人に対してそれなりに発言権を持つ。簡単に言えば秘書のようなものだと香子は考えている。
だがそれならば黒月が護衛兼女官のようなものなので必要ないといえた。基本来客もないし(全て止められている)、それほど外出もしない。食事の際の毒見役も四神宮においては無用だと考えれば断るのになんら問題はない。
『お言葉ですが、私に女官は必要ありません』
毅然とそう言い放つと、皇太后の目が香子を射殺さんばかりにぎらぎらと光った。
(こーわーいー)
思わず白虎にぎうっと抱きついてしまう。だが皇太后はすぐにまた冷静さを取り戻したように見えた。
『花嫁殿は何をおっしゃるのか。例え必要ないと思っても一人ぐらいは側においておくのが当然じゃ。さ、夕玲。花嫁殿に挨拶を』
(会話になってなーい)
確かに身分がある者は必要ない雇用もある程度する責任がある。
だがこの美女を女官として四神宮におくのは間違っているだろう。
『花嫁様、夕玲と申します。どうぞよしなに』
なのにこんな大勢が見守る中撤回するには勇気がいった。
(せっかくの美人さんなんだから少しは仲良くできるといいな)
夕玲の科白に頷いて、香子はそんなことを思った。
こんなに綺麗な女性なのだから少しは反応するのかと香子は思っていたが、白虎の返答はにべもなかった。
『白虎様、どうかそうおっしゃらずに。花嫁殿も人の身、四神全てを受け入れるのは難しかろう、のぅ?』
前半は白虎、後半は香子に話しかけたようである。しかも前半は優しげだが、後半はなんだか低くてどすが効いたような声音だった。香子の背筋を冷汗が伝う。
(そ、そりゃあ正直言えば四神全員を受け入れるっていうのには抵抗があるけど……)
けれどそれを決めるのは皇太后ではないと香子は思う。余計なお世話ですと言いたいところだが、さすがにそれはまずいだろう。ここは沈黙で通した方がよさそうだと香子は曖昧な笑みを浮かべた。
『江緑、白香は我らの花嫁だ。そなたの指図は受けぬ』
『指図だなどと、そのようなことはいたしませぬ。これも花嫁殿と白虎様を思ってのこと。もし白虎様の側に侍らすのが不適当とおっしゃるなら、花嫁殿のお付にでもしていただけると幸いです』
さすが皇太后、のらりくらりと白虎の冷たい声をかわしている。しかも自分の遠縁だとかいう美女を香子付にしてはどうかと提案する辺りがにくい。
(ここで私が断ったら私が悪い人みたいじゃんねー)
しかし白虎の側女にするだの、香子のお付にするだの勝手なことを言われている当の本人はどう思っているのだろうか。
ちら、とその場に立っている美人―延夕玲を窺ったが彼女は目を伏せている為よくわからなかった。だがその頬がほんのりと赤く染まっているのを見て、白虎に好意を持ったのだろうと香子は思った。
(顔とか体つき見たら超いい男だし……)
それに声もイイ! と香子は心の中で拳をぐっと握り締めた。
だがデリカシーはないと思う。
それはともかく白虎を窺うと苦笑された。香子付と言われたら口を出せないということだろう。ここで白虎が断ってくれれば楽なのだが、そうもいかないらしい。
(面倒臭い)
大体まず香子付、というのが何をどこまでするものなのかわからない。しかしこれを素直に聞いたら皇太后に鼻で笑われるに違いない。かといって趙文英に丸投げするというのもどうかと思う。どちらにせよ香子には即答できそうもなかった。
困ったなと視線を向けた先には皇帝がい、眉を寄せていた。意識せずとも必然的に目が合う。
『老佛爷、お戯れも大概になされ』
(もっと早く口出ししてほしかったなー……)
『何が戯れか。聞けば四神宮には女官がいないというではないか。夕玲を女官にすれば花嫁殿も暮らしやすくなるであろう』
いったいどこからそういう情報を仕入れるのだろうか。実際四神宮には侍女や侍女頭はいても女官はいない。女官は身分のある女性がなるもので、主人に対してそれなりに発言権を持つ。簡単に言えば秘書のようなものだと香子は考えている。
だがそれならば黒月が護衛兼女官のようなものなので必要ないといえた。基本来客もないし(全て止められている)、それほど外出もしない。食事の際の毒見役も四神宮においては無用だと考えれば断るのになんら問題はない。
『お言葉ですが、私に女官は必要ありません』
毅然とそう言い放つと、皇太后の目が香子を射殺さんばかりにぎらぎらと光った。
(こーわーいー)
思わず白虎にぎうっと抱きついてしまう。だが皇太后はすぐにまた冷静さを取り戻したように見えた。
『花嫁殿は何をおっしゃるのか。例え必要ないと思っても一人ぐらいは側においておくのが当然じゃ。さ、夕玲。花嫁殿に挨拶を』
(会話になってなーい)
確かに身分がある者は必要ない雇用もある程度する責任がある。
だがこの美女を女官として四神宮におくのは間違っているだろう。
『花嫁様、夕玲と申します。どうぞよしなに』
なのにこんな大勢が見守る中撤回するには勇気がいった。
(せっかくの美人さんなんだから少しは仲良くできるといいな)
夕玲の科白に頷いて、香子はそんなことを思った。
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