異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
上 下
184 / 608
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

30.会話するのがたいへんです

しおりを挟む
『必要ない。連れて帰れ』

 こんなに綺麗な女性なのだから少しは反応するのかと香子は思っていたが、白虎の返答はにべもなかった。

『白虎様、どうかそうおっしゃらずに。花嫁殿も人の身、四神全てを受け入れるのは難しかろう、のぅ?』

 前半は白虎、後半は香子に話しかけたようである。しかも前半は優しげだが、後半はなんだか低くてどすが効いたような声音だった。香子の背筋を冷汗が伝う。

(そ、そりゃあ正直言えば四神全員を受け入れるっていうのには抵抗があるけど……)

 けれどそれを決めるのは皇太后ではないと香子は思う。余計なお世話ですと言いたいところだが、さすがにそれはまずいだろう。ここは沈黙で通した方がよさそうだと香子は曖昧な笑みを浮かべた。

江緑ジャンリー白香バイシャンは我らの花嫁だ。そなたの指図は受けぬ』
『指図だなどと、そのようなことはいたしませぬ。これも花嫁殿と白虎様を思ってのこと。もし白虎様の側に侍らすのが不適当とおっしゃるなら、花嫁殿のお付にでもしていただけると幸いです』

 さすが皇太后、のらりくらりと白虎の冷たい声をかわしている。しかも自分の遠縁だとかいう美女を香子付にしてはどうかと提案する辺りがにくい。

(ここで私が断ったら私が悪い人みたいじゃんねー)

 しかし白虎の側女にするだの、香子のお付にするだの勝手なことを言われている当の本人はどう思っているのだろうか。
 ちら、とその場に立っている美人―延夕玲イエンシーリンを窺ったが彼女は目を伏せている為よくわからなかった。だがその頬がほんのりと赤く染まっているのを見て、白虎に好意を持ったのだろうと香子は思った。

(顔とか体つき見たら超いい男だし……)

 それに声もイイ! と香子は心の中で拳をぐっと握り締めた。
 だがデリカシーはないと思う。
 それはともかく白虎を窺うと苦笑された。香子付と言われたら口を出せないということだろう。ここで白虎が断ってくれれば楽なのだが、そうもいかないらしい。

(面倒臭い)

 大体まず香子付、というのが何をどこまでするものなのかわからない。しかしこれを素直に聞いたら皇太后に鼻で笑われるに違いない。かといって趙文英に丸投げするというのもどうかと思う。どちらにせよ香子には即答できそうもなかった。
 困ったなと視線を向けた先には皇帝がい、眉を寄せていた。意識せずとも必然的に目が合う。

老佛爷ラオフオイエ、お戯れも大概になされ』
(もっと早く口出ししてほしかったなー……)
『何が戯れか。聞けば四神宮には女官がいないというではないか。夕玲を女官にすれば花嫁殿も暮らしやすくなるであろう』

 いったいどこからそういう情報を仕入れるのだろうか。実際四神宮には侍女や侍女頭はいても女官はいない。女官は身分のある女性がなるもので、主人に対してそれなりに発言権を持つ。簡単に言えば秘書のようなものだと香子は考えている。
 だがそれならば黒月が護衛兼女官のようなものなので必要ないといえた。基本来客もないし(全て止められている)、それほど外出もしない。食事の際の毒見役も四神宮においては無用だと考えれば断るのになんら問題はない。

『お言葉ですが、私に女官は必要ありません』

 毅然とそう言い放つと、皇太后の目が香子を射殺さんばかりにぎらぎらと光った。

(こーわーいー)

 思わず白虎にぎうっと抱きついてしまう。だが皇太后はすぐにまた冷静さを取り戻したように見えた。

『花嫁殿は何をおっしゃるのか。例え必要ないと思っても一人ぐらいは側においておくのが当然じゃ。さ、夕玲。花嫁殿に挨拶を』
(会話になってなーい)

 確かに身分がある者は必要ない雇用もある程度する責任がある。
 だがこの美女を女官として四神宮におくのは間違っているだろう。

『花嫁様、夕玲と申します。どうぞよしなに』

 なのにこんな大勢が見守る中撤回するには勇気がいった。

(せっかくの美人さんなんだから少しは仲良くできるといいな)

 夕玲の科白に頷いて、香子はそんなことを思った。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

処理中です...