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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
28.晩餐会が始まりました
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皇太后歓迎の晩餐会は広い建物の中で行われた。黄砂の為か広間の扉は全て閉じられているのでなんとなく狭くも感じられる。
中国古代の晩餐会というと、身分の高い者の座る席に屋根はあっても壁は取り払われているというイメージがある。それは昼夜関係なく、真ん中には屋根のない舞台が置かれ―
しかし今夜は違った。
本来皇后が座るであろう席に皇太后と思しき年のいった女性が腰掛け、その隣に皇后、そして側妃と思われる女性が一人控えている。香子が思っていたよりも小ぢんまりとした晩餐会だった。おかげで四神の席が皇帝に近い。それほど大きな声を出さなくても会話ができそうである。
それにしても、皇帝より遅く到着するというのは如何なものだろうか。
しかし白虎に抱かれて東側から広間に入った香子の席は西側に用意されていた。侍従が『花嫁様はあちらにお席を用意してございます』とにこやかに言った時、白虎の目がすっと細められた。
『香子の席はいらぬ』
そう言って己の席に腰掛けた。趙文英が侍従に何やら言っているようであったが、香子は特に聞こうとは思わなかった。
(こういうのは……どうなんだろう)
上座とかそういったものは香子にはよくわからない。東側に四神の席が用意されているのに香子の席がわざわざ西側に用意されていたというのは、一番最初の晩餐会で四神と会った時の席がそうだったから今回も同じように配置したのだろう。現在の状況を考えないところがお役所仕事だなと香子は思った。
それより夜になったというのに今夜は白虎の腕の中にいる。玄武か朱雀に抱かれて晩餐会に出席してもよかったが、彼らと懇ろだというのはすでに国中に広まっているらしい。対外的に四神全てと仲良くしているという状態を見せた方がいいとの打診があり、白虎に抱かれて出席することとなった。
四神が席に着くと同時に料理が運ばれてきた。前菜は色とりどりで物によってはなんなのか香子にもわからない。元々香子は高級料理等はほとんど食べたことがないので、綺麗に加工されてしまうと材料がなんだかわからないのだった。
野菜類を中心に白虎が取り分けてくれた皿を香子に渡す。
『ありがとうございます』
受け取って食べ始めるとなんだか強い視線を感じて香子は顔を上げた。見られるのは慣れているが体に穴が空きそうな視線はそうそうないものだ。
視線の主は皇太后だった。
香子は戸惑い、目礼だけして再び食べ始める。その間ほとんど視線が外れることはなく、少なからず居心地の悪い思いをした。
(もー、なんなのかしらー?)
皇太后は白虎が大好きなようなので香子が気に食わないのかもしれないが、そんなに穴が空くほど見ないでほしかった。少なくとも好意的ではなさそうである。
香子は居心地の悪さをごまかす為に皿によそってもらったものをただひたすらに食べていた。おいしいはずの料理の味があまりわからなくてすごくもったいないと思うがどうしようもない。
『香子、そなに急いで食べずとも料理は逃げぬぞ?』
豪快に骨付き肉の塊にかぶりつきながら白虎が言う。見た目はそんなにワイルドではないが、こういう姿を見ると猛獣なのだなと香子は思う。
『白虎様はおなかが減るのですか?』
青龍はそれほど箸をつけている様子はなかった。玄武と朱雀はそれなりに食欲を見せているがその理由はわかっている。だがこうやって肉を豪快に食べている白虎だけがよくわからなかった。
『ん? ああ……それほど腹が減るということはないが、どうも肉を見るとな』
条件反射でかぶりついてしまうということか。香子はなんとなく頷いた。
やがて広間の真ん中に踊り手が現れ、歌や踊りを披露しはじめた。そうしてやっと香子は一旦箸を置く。
歌を聴きとるのは難しいが、見たり聞いたりするのは好きだ。
どうやらこれは前座だったらしく、すぐに彼らは退出した。
『本日はるばる西の地から老佛爷(皇太后)が戻られた。しばし滞在されるがみな常と変わらずあるように。老佛爷、今宵はゆるりと楽しまれよ』
皇帝が朗々と響く声で晩餐会の開始を告げる。皇太后はそれに『陛下、ありがとうございます』と悠然と返した。お互いにこやかに相対しているが、なんだか腹の探り合いをしているようだと香子は思った。
中国古代の晩餐会というと、身分の高い者の座る席に屋根はあっても壁は取り払われているというイメージがある。それは昼夜関係なく、真ん中には屋根のない舞台が置かれ―
しかし今夜は違った。
本来皇后が座るであろう席に皇太后と思しき年のいった女性が腰掛け、その隣に皇后、そして側妃と思われる女性が一人控えている。香子が思っていたよりも小ぢんまりとした晩餐会だった。おかげで四神の席が皇帝に近い。それほど大きな声を出さなくても会話ができそうである。
それにしても、皇帝より遅く到着するというのは如何なものだろうか。
しかし白虎に抱かれて東側から広間に入った香子の席は西側に用意されていた。侍従が『花嫁様はあちらにお席を用意してございます』とにこやかに言った時、白虎の目がすっと細められた。
『香子の席はいらぬ』
そう言って己の席に腰掛けた。趙文英が侍従に何やら言っているようであったが、香子は特に聞こうとは思わなかった。
(こういうのは……どうなんだろう)
上座とかそういったものは香子にはよくわからない。東側に四神の席が用意されているのに香子の席がわざわざ西側に用意されていたというのは、一番最初の晩餐会で四神と会った時の席がそうだったから今回も同じように配置したのだろう。現在の状況を考えないところがお役所仕事だなと香子は思った。
それより夜になったというのに今夜は白虎の腕の中にいる。玄武か朱雀に抱かれて晩餐会に出席してもよかったが、彼らと懇ろだというのはすでに国中に広まっているらしい。対外的に四神全てと仲良くしているという状態を見せた方がいいとの打診があり、白虎に抱かれて出席することとなった。
四神が席に着くと同時に料理が運ばれてきた。前菜は色とりどりで物によってはなんなのか香子にもわからない。元々香子は高級料理等はほとんど食べたことがないので、綺麗に加工されてしまうと材料がなんだかわからないのだった。
野菜類を中心に白虎が取り分けてくれた皿を香子に渡す。
『ありがとうございます』
受け取って食べ始めるとなんだか強い視線を感じて香子は顔を上げた。見られるのは慣れているが体に穴が空きそうな視線はそうそうないものだ。
視線の主は皇太后だった。
香子は戸惑い、目礼だけして再び食べ始める。その間ほとんど視線が外れることはなく、少なからず居心地の悪い思いをした。
(もー、なんなのかしらー?)
皇太后は白虎が大好きなようなので香子が気に食わないのかもしれないが、そんなに穴が空くほど見ないでほしかった。少なくとも好意的ではなさそうである。
香子は居心地の悪さをごまかす為に皿によそってもらったものをただひたすらに食べていた。おいしいはずの料理の味があまりわからなくてすごくもったいないと思うがどうしようもない。
『香子、そなに急いで食べずとも料理は逃げぬぞ?』
豪快に骨付き肉の塊にかぶりつきながら白虎が言う。見た目はそんなにワイルドではないが、こういう姿を見ると猛獣なのだなと香子は思う。
『白虎様はおなかが減るのですか?』
青龍はそれほど箸をつけている様子はなかった。玄武と朱雀はそれなりに食欲を見せているがその理由はわかっている。だがこうやって肉を豪快に食べている白虎だけがよくわからなかった。
『ん? ああ……それほど腹が減るということはないが、どうも肉を見るとな』
条件反射でかぶりついてしまうということか。香子はなんとなく頷いた。
やがて広間の真ん中に踊り手が現れ、歌や踊りを披露しはじめた。そうしてやっと香子は一旦箸を置く。
歌を聴きとるのは難しいが、見たり聞いたりするのは好きだ。
どうやらこれは前座だったらしく、すぐに彼らは退出した。
『本日はるばる西の地から老佛爷(皇太后)が戻られた。しばし滞在されるがみな常と変わらずあるように。老佛爷、今宵はゆるりと楽しまれよ』
皇帝が朗々と響く声で晩餐会の開始を告げる。皇太后はそれに『陛下、ありがとうございます』と悠然と返した。お互いにこやかに相対しているが、なんだか腹の探り合いをしているようだと香子は思った。
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