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第4部 四神を愛しなさいと言われました
72.お茶屋さんを見ると、どうしても入りたくなるのです
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大通り沿いの店は、中を覗きたいと思う程の店は特になかったが、茶葉を売っている店にはどうしても香子の目が留まる。
『う~ん……』
『香子、如何した?』
『この辺りで扱われている茶葉を見たいんですけど……』
『ではあちらの店に入りましょう』
青沙が気を利かせて青龍を誘導しようとしたが、香子はそれに待ったをかけた。
『茶葉を見たいだけなのですが、もし青龍様が入られるとお店の方で青龍様御用達とか喧伝したりしませんか? それに見合う茶葉を扱っているのならばいいのですが、そうでないと……』
ククッと青龍が喉で笑う。
『そなたは気にしすぎだ』
『そうですか?』
『ああ。喧伝したところで品物が見合っていなければ客はすぐに離れる。そなたがそこまで考えることではない』
『……失礼しました』
確かに、と香子は反省した。宣伝の機会はこちらが作ったとしても、商品がダメなら客も惑わされたりしないだろう。香子は考えすぎである。
『だが、そなたのその考えは好ましい。我のことを考えているのだろう?』
きつく抱き直されて、香子は青龍の胸に頬をすり寄せた。
『……あんまり、甘やかしちゃだめです……』
『……今すぐ連れ帰っても?』
『だめです!』
すぐにそういう雰囲気に持っていこうとする青龍に、香子は顔を上げて抗議した。香子の頬は真っ赤だ。傍から見れば微笑ましい光景である。玄武と朱雀も口元にうっすらと笑みをはいた。
『案内せよ』
『どうぞこちらへ』
青沙に案内されて、小さな店に青龍は足を踏み入れた。店番であろう青年が、慌てて深く頭を下げた。
『青、青龍様!? こ、これはこれは……今お茶をお持ちします!』
お茶の入った缶が棚に沢山並んでいる。店内もお茶のいい香りがして、香子はスーッと息を吸いこんだ。
『花嫁は茶が好きでな。寄らせてもらうぞ』
『は、はいっ!』
店内には簡易なテーブルセットがあったが、椅子は二脚しかなかった。ここで試飲したりするのだろうと香子は思う。
青年は店の奥に声をかけ、
『よ、よろしければ奥へどうぞ!』
と促した。確かに店内は狭いのでこの人数ではぎちぎちである。営業妨害になってしまうかもしれないからと、香子は青龍に頷いた。
その部屋は応接室だった。きっと大口の取引などはそこでするのだろう。長椅子の前に置かれた木の卓子は、でこぼことしたユニークな形をしている。
『わぁ……』
香子は思わず声を上げた。
テーブルは平らではない。ところどころ平らになっていて、茶盆を置ける場所、茶器を置ける場所という風に分かれている。
『これは、天然木かしら?』
『はい』
『見事ね。大事に使ってください』
『ありがとうございます』
青年がはにかんだ。あまり褒めると欲しがっていると思われてしまうので香子なりに自重した。こんなに立派な卓子を取り上げるわけにはいかない。
緑茶を振舞ってもらい、香子はにこにこである。
龍井も碧螺春もおいしかった。杭州と蘇州の有名な緑茶である。杭州、蘇州は青龍の領地の近くにある。その辺はお茶の産地で、香子はできれば買いたいと思っていたのだった。
(少しだけ渋みはあるけど悪くはないわね)
どうしても大通りで構えている店では品物の値段が高くなってしまう。故に元が高い質のいい物はあまり扱っていないようだった。
残念ながら香子が欲しいと思う品質のお茶はなかったが、それなりにいい店だと香子は思った。
『ありがとう、ごちそうさま』
茶葉は買わないが、迷惑料は青沙に払ってもらう。時間を取らせてしまったのは間違いない。
『……お気に召しませんでしたか』
わざわざ店主まで出てきて聞かれてしまったが、香子は苦笑した。
『花嫁様は口が肥えていらっしゃる』
青藍が答えた。それは褒め言葉ではないよね、と香子は内心ツッコミを入れた。
『で、ではこちらは如何でしょうか……』
とても小さな缶に入ったお茶葉を差し出されたが、香子は断った。
『それはこちらの店でも希少な物なのでしょう? それは大事なお客様に取っておいてちょうだい』
『いえ、青龍様と花嫁様以上のお客様はいらっしゃいません。どうぞお受け取りください』
勧められて断ってのやりとりを経て、香子は高そうな缶を三つももらってしまった。もちろん多めにお金は払わせた。
『なんか、悪いことしちゃいましたね……』
店を出て呟く。
『あれも商売のうちだ。香子が気にすることではない』
『それならいいのですが……』
もらった缶の中身はどのようなものかわからない。質のいいものならば改めて礼をしてもらおうと香子は思った。
その後も適当に通りの店を冷やかした。
店内に一歩足を踏み入れるだけで店の者たちは喜んだからいいのだろうと香子も思う。
そうしてゆっくり通りを歩き(歩いたのは青龍である)、やがて海沿いに続く門を通り過ぎた。
『わぁ……』
思ったよりも開けていて、香子は声を上げた。
砂浜があるわけではなかったが、確かに通りからは海が見えた。
『海、ですね』
『ああ。海を見るのは初めてではないのだろう?』
『はい。でも、海は場所によって色も違いますから……とてもキレイですね』
冬だからなのか、海の色は少しくすんで見えたがそれでも群青と言って差し支えなかった。
港が見える。
青龍がその場で留まってくれたから、香子はゆったりと海を眺めることができた。
『う~ん……』
『香子、如何した?』
『この辺りで扱われている茶葉を見たいんですけど……』
『ではあちらの店に入りましょう』
青沙が気を利かせて青龍を誘導しようとしたが、香子はそれに待ったをかけた。
『茶葉を見たいだけなのですが、もし青龍様が入られるとお店の方で青龍様御用達とか喧伝したりしませんか? それに見合う茶葉を扱っているのならばいいのですが、そうでないと……』
ククッと青龍が喉で笑う。
『そなたは気にしすぎだ』
『そうですか?』
『ああ。喧伝したところで品物が見合っていなければ客はすぐに離れる。そなたがそこまで考えることではない』
『……失礼しました』
確かに、と香子は反省した。宣伝の機会はこちらが作ったとしても、商品がダメなら客も惑わされたりしないだろう。香子は考えすぎである。
『だが、そなたのその考えは好ましい。我のことを考えているのだろう?』
きつく抱き直されて、香子は青龍の胸に頬をすり寄せた。
『……あんまり、甘やかしちゃだめです……』
『……今すぐ連れ帰っても?』
『だめです!』
すぐにそういう雰囲気に持っていこうとする青龍に、香子は顔を上げて抗議した。香子の頬は真っ赤だ。傍から見れば微笑ましい光景である。玄武と朱雀も口元にうっすらと笑みをはいた。
『案内せよ』
『どうぞこちらへ』
青沙に案内されて、小さな店に青龍は足を踏み入れた。店番であろう青年が、慌てて深く頭を下げた。
『青、青龍様!? こ、これはこれは……今お茶をお持ちします!』
お茶の入った缶が棚に沢山並んでいる。店内もお茶のいい香りがして、香子はスーッと息を吸いこんだ。
『花嫁は茶が好きでな。寄らせてもらうぞ』
『は、はいっ!』
店内には簡易なテーブルセットがあったが、椅子は二脚しかなかった。ここで試飲したりするのだろうと香子は思う。
青年は店の奥に声をかけ、
『よ、よろしければ奥へどうぞ!』
と促した。確かに店内は狭いのでこの人数ではぎちぎちである。営業妨害になってしまうかもしれないからと、香子は青龍に頷いた。
その部屋は応接室だった。きっと大口の取引などはそこでするのだろう。長椅子の前に置かれた木の卓子は、でこぼことしたユニークな形をしている。
『わぁ……』
香子は思わず声を上げた。
テーブルは平らではない。ところどころ平らになっていて、茶盆を置ける場所、茶器を置ける場所という風に分かれている。
『これは、天然木かしら?』
『はい』
『見事ね。大事に使ってください』
『ありがとうございます』
青年がはにかんだ。あまり褒めると欲しがっていると思われてしまうので香子なりに自重した。こんなに立派な卓子を取り上げるわけにはいかない。
緑茶を振舞ってもらい、香子はにこにこである。
龍井も碧螺春もおいしかった。杭州と蘇州の有名な緑茶である。杭州、蘇州は青龍の領地の近くにある。その辺はお茶の産地で、香子はできれば買いたいと思っていたのだった。
(少しだけ渋みはあるけど悪くはないわね)
どうしても大通りで構えている店では品物の値段が高くなってしまう。故に元が高い質のいい物はあまり扱っていないようだった。
残念ながら香子が欲しいと思う品質のお茶はなかったが、それなりにいい店だと香子は思った。
『ありがとう、ごちそうさま』
茶葉は買わないが、迷惑料は青沙に払ってもらう。時間を取らせてしまったのは間違いない。
『……お気に召しませんでしたか』
わざわざ店主まで出てきて聞かれてしまったが、香子は苦笑した。
『花嫁様は口が肥えていらっしゃる』
青藍が答えた。それは褒め言葉ではないよね、と香子は内心ツッコミを入れた。
『で、ではこちらは如何でしょうか……』
とても小さな缶に入ったお茶葉を差し出されたが、香子は断った。
『それはこちらの店でも希少な物なのでしょう? それは大事なお客様に取っておいてちょうだい』
『いえ、青龍様と花嫁様以上のお客様はいらっしゃいません。どうぞお受け取りください』
勧められて断ってのやりとりを経て、香子は高そうな缶を三つももらってしまった。もちろん多めにお金は払わせた。
『なんか、悪いことしちゃいましたね……』
店を出て呟く。
『あれも商売のうちだ。香子が気にすることではない』
『それならいいのですが……』
もらった缶の中身はどのようなものかわからない。質のいいものならば改めて礼をしてもらおうと香子は思った。
その後も適当に通りの店を冷やかした。
店内に一歩足を踏み入れるだけで店の者たちは喜んだからいいのだろうと香子も思う。
そうしてゆっくり通りを歩き(歩いたのは青龍である)、やがて海沿いに続く門を通り過ぎた。
『わぁ……』
思ったよりも開けていて、香子は声を上げた。
砂浜があるわけではなかったが、確かに通りからは海が見えた。
『海、ですね』
『ああ。海を見るのは初めてではないのだろう?』
『はい。でも、海は場所によって色も違いますから……とてもキレイですね』
冬だからなのか、海の色は少しくすんで見えたがそれでも群青と言って差し支えなかった。
港が見える。
青龍がその場で留まってくれたから、香子はゆったりと海を眺めることができた。
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