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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

24.四神にも苦手なものがあるようです

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 翌日の昼食を終えた未の正刻(十四時)に、四神と香子は皇帝の執務室を訪れた。その後隣の応接間に通された。
 皇帝と中書令がさっと立ち上がり礼をとる。皇帝が礼をとる光景なんてなかなか見れるものではないなと香子は思う。皇帝が顔を上げ、白虎に抱かれた香子を見て少し変な顔をした。

(うー……昼間は一応白虎様か青龍様と過ごすことにしたのですよー)

 香子は心の中で言い訳をした。直接聞かれれば答えるが、おそらく聞かれることはないだろう。皇帝とテーブルを挟んだ隣には玄武が腰掛けたので、必然的に香子は皇帝から離れたところになった。それにほっとして振る舞われた茶に手を伸ばした。控えていた侍女がぎょっとしたような顔をしたが香子は気付かなかった。

『して、何用か?』

 玄武の端的な問いに、皇帝は少し難しそうな顔をした。

『ご足労願った上にこのようなことを頼むのは本当に心苦しいのですが……おそらく三日以内に皇太后が王城に到着します』
『そのようだな』
『実は、最初の夜の晩餐会に四神に出ていただきたいのです。可能でしょうか?』

 皇帝とは思えないぐらい丁寧な言い回しだなと香子はお茶を飲みながら目を丸くした。玄武の目がすっと細くなる。

『……それに我らが出席する意義は?』

 耳に心地いいはずのバリトンはとんでもない威圧感を含んでいた。皇帝はそれにも負けず玄武をまっすぐ見つめ返す。

『皇太后は四神を崇拝しております。此度の北京入りも一目四神をその目で見たいが為。どうかか弱き老人の願いを叶えていただけないでしょうか』
(か弱き老人?)

 香子は首を傾げようとしたがさすがに留めた。か弱い老人が老佛爷ラオフオイエなどと呼ばれるわけがないではないか。前述したが老佛爷という呼称は本来皇帝に使われるものである。

『か弱い……とは我は思わぬが』

 答えたのは香子を膝に座らせている白虎だった。
 皇帝は苦笑した。

『ではか弱くなくてもかまいませぬ。どうか一晩だけでも出席をお願いしたい』

 皇帝がここまで下手に出ることはまずないだろう。

『ふむ……。香子も共にいることに異論はあるまいな』

 玄武の科白に皇帝は一瞬眉間にしわを寄せたが、『花嫁様も御一緒でかまいませぬ』と答えた。その皇帝の表情に香子はなんだか嫌なものを覚えて、

『ええと……私は黒月さんと残ってても大丈夫です……』

 と欠席を示唆したのだが、『そなたが出ぬというなら我らも出ぬ』と四神に声を揃えて言われてしまった。

『じゃ、じゃあ……出席で……』

 皇帝と中書令、趙文英と王英明の視線に耐えきれず、香子はすぐに言ったことを撤回した。

(こういうのも長い物に巻かれろというのかしら……)

 なんだか違う気がするが、相応しい言葉を思いつかなかった。
 それにしても白虎の顔のしかめっぷりが気になるところである。なにせ皇太后の話題が出ると露骨に嫌そうな顔をするのだ。いくら本能が一番強いと言っても神様がそんなことでいいのかと聞きたくなる。
 というわけで四神宮に戻って茶室でお茶を飲みながら聞いてみた。

『皇太后はな……正直言って苦手なのだ』

 と白虎は白状した。
 六年前に前皇帝が崩御し、喪が明けてからすぐぐらいに皇太后は西の地に移り住むようになった。西の地とは言っても相手は皇太后なのでそれなりに利便性のある西安に居を移したというぐらいではある。白虎の治める地は更に西にあるシーザン寄りの辺鄙な場所であった。それにも関わらず皇太后はわざわざ行列を従え贈物を山ほど携えて白虎の治める地までやってきたのだという。

『ははぁ……すごいですねぇ……』
『さすがにほおっておくこともできぬので一度は顔を見せてやったのだが、へんに感動されてしまってな……』

 それ以来贈物は毎年されるわ、新年に王城へ顔を出せばそれに合わせて皇太后も北京入りし食い入るような熱い視線を送ってくるのだという。

(皇太后は白虎様のファンになっちゃったのかな)

 と香子は思ったが、ファンはファンでも節度というものが必要だとも思う。どちらにせよなんだか穏やかには暮らせなさそうな気がした。
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