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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

23.平穏な時間なのです

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 せっかく着替えたので、とそのまま朝食の席に案内される。香子が起きたということで厨房では急いで準備をしてくれたらしかった。ありがたいなと思いつつ大量に用意された朝食に苦笑する。

(うん、まぁ、おなかすいてるし……食べるけどね?)

 今日は朱雀が笑顔の大盤振る舞いで香子の皿にいろいろ盛りつけてくれた。朝から揚げ物だらけだが香子はそういうことを全く気にしないで食べられるのでにこにこしながら食べ始める。
 そういえば大学の敷地内にあった日本料理屋の天ぷらうどんを思い出した。天ぷらというよりは野菜の素揚げてんこ盛りな天ぷらうどんだった。四分の一ぐらいの大きさにしか切られていない玉ねぎ、大きなじゃがいも、にんじん、そしてエビ天。激しく間違っていて、とんでもなく脂っこかったが香子は好きだった。

(休みの日の朝とか食べに行ってたなぁ……)

 残念ながらある時を境にその店はなくなってしまったが。
 ある程度落ち着いたところで朱雀の髪が気になった。ずっとストレートだと思ったのに、今朝に限って何故ウェーブがかっているのだろう。
 香子は朱雀を見やる。

『あの……今更なんですが朱雀様、どうして髪がそんな風になっているのですか?』

 朱雀は箸を置く。その所作もきれいでそういうところも見習わなければと香子は切実に思う。

『……元々我の髪はなのだ。だがここ数年、夏の時期以外はまっすぐになるようになった。おそらくは力が衰えてきているのだろう』

 そう言われてはっとする。朱雀もすでに約七五〇年生きていると言っていた。つまり本来であればそろそろ次代をもうけるのに遜色ない時期なのだろう。
 だから紅炎は香子が領地に行くのだと勘違いしたのだ。
 そして当然のことながらそれよりも玄武は年を重ねている。

『香子……そんな顔をするな』

 玄武の声がかかり、香子は再びはっとした。

『え……いえ……なんでもないですよ?』

 そう答えて笑うと、かえって朱雀と玄武に心配そうな顔をされた。
 神様の時間の感覚は長いから、一年間はしっかり待ってくれるだろう。その一年で後悔しないような答えを出したいと香子は思った。


 それから皇太后が王城に着くまでの間の日々は嵐の前の静けさに似ていた、と後になってから香子は思った。
 香子がもらった贈物で不要な物は本来の三分の二程度の価格で富裕層に販売されることになった。そして売れたお金は孤児院や救貧院に贈られることに決まった。それらは中書省が率先して管理し、不正がないかどうかきちんと用途も確認されることとなった。

(そうだよね、結局上がお金を着服してちゃ意味ないし)

 そこまでは考えていなかったと香子は反省した。
 売ったお金の一部を四神宮に勤める者の給金に充てる、というのはさすがに却下された。香子が手づから渡すならば角が立たないが、そんなことを四神が許すはずもない。四神宮に勤めている時点で四神と花嫁の世話をするのは特別なことではないという判断もある。そしていつのまにか四神宮の武官の多くは入れ替えがあったが、元々あまり顔も見ないこともあり香子は全く気付かなかった。
 朱雀の領地に嬉しい変化があったとの報がもたらされてから約一週間後、あと三日程で皇太后が王城に着く予定だとの先触れが届いた。基本四神宮には関係のないことではあったが、それにより御花園の出入りはできなくなったと趙文英に申し訳なさそうに告げられた。

『陛下がもしよろしければ四神と話をしたいとおっしゃられています』
『我らと?』

 王英明の言葉に朱雀が眉を寄せた。

『はい、皇太后のことで少しお話しておかなければならないことがあると』

 白虎が何故か嫌そうに顔をしかめた。そんな顔を見るのは初めてだったから香子は目を丸くした。

『明日でいいな? 大体の時刻を伝えておけ』

 朱雀がぞんざいに言う。そして香子を抱えた玄武に『戻りましょう』と言った。
 謁見室を出る時に香子はちら、と後ろを振り返った。拱手している趙と王が目に入った。確認をしたらきっと眷族の誰かに時間を教えてくれるのだろう。
 この広い王城内を行ったり来たりしてたいへんだな、となんとなく思った。
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