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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
20.こじれた理由(朱雀視点)
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のちほど玄武が室に来ると聞いて、朱雀はほんの少しだけ残念に思った。そしてそれを残念と思った己に軽く首を傾げた。
今夜は香子と二人きりで過ごすのだと思い込んでいたせいだろうか。今まで三神を厭うたことなどないというのに。
そういう感情に長けているのは白虎であることも知っている。念話で話すこともできるが、これから香子を迎えに行くので明日聞くことにした。はやる気持ちを抑え香子を迎えに行くと、風呂上りのせいか肌がほんのりと赤く上気していた。
所在なげに寝台に座っている香子に微笑みかけ、朱雀はいつものように抱き上げて己の室に彼女を運んだ。
『朱雀様、私怒ってるんです』
拗ねたような表情で言う香子を愛おしいと思う。
『そうであったな』
そのまま寝室に運ぼうとしたら腕を叩かれた。
『朱雀様、お話しましょう。寝室じゃなくて、ここで』
朱雀は改めて香子の顔を見た。その目がどうしてか不安そうに揺れているのを確認して、居間の長椅子に腰掛けた。『今お茶を……』と言って膝から降りようとするのを制して紅夏に入れさせる。室にいつも届けられているのは大きな四角い急須で、濃さだけ調整して入れればいいようになっていた。
香子はお茶一口飲んでからようやく本題に入った。
『朱雀様、私がなんで昨日の朝怒ったかわかってますか?』
それを言われると朱雀も少し気落ちした。
『そなたに、熱を与えたからか……?』
熱を与えながら愛を交わすのは朱雀の特性である。それ故に熱を否定されてしまうとどうにもならない。
だが香子は首を振った。
『確かに……熱のこともありましたけど……でも……』
そこまで言って香子は自分を抱きしめている朱雀の腕をぎゅっと握った。
『一番嫌だったのは、朱雀様に嘘をつかれたことです』
(嘘?)
朱雀は眉を寄せた。香子に嘘などいつついたのだろう、記憶にはない。
『……朱雀様は、その……身体を舐めないと私の回復ができないようなことをおっしゃいましたよね?』
『ああ……』
香子の硬い声に、やっと朱雀は思い出した。確か初めて香子を抱いた朝、床から出したくなくてそんなことを言ったのだった。
『……そなたを、身体の隅々まで愛したかったのだ』
耳元に囁ければ香子の体がふるりと小さく震える。
『で、でも! 私悩んだんですよ! 熱を受けたら体が重くて朝は動けないし、でもちゃんと朝起きたかったから……』
朱雀は香子を少し強く抱きしめた。
『悪かった……。そなに香子が悩むとは思わなかった』
己の一言で愛しい香子につらい思いをさせるなどありえなかった。
『……だから、その……』
香子が言いにくそうに言葉を紡ぐ。耳まで真っ赤にして。
『熱を受けるのは、つらいですけど、いいです……でも……ちゃんと回復させてくださいね? 朝起きられるように……』
そんな健気なことを言われたらもうたまらなかった。そうでなくても抱いたせいか香子の香りはかなり甘いのだ。
『わかった。香子の言う通りに』
香子を抱いたまま立ち上がる。そのまま寝室に連れていこうとしたらまた引きとめられた。
『まだ、気になることがあるんです……』
低い声を出しながら香子は何故か真っ赤だった。顔だけでなく、皮膚が見えているところは全て赤くなっているようである。
『なんなりと申せ』
早く香子を抱きたい。なのに香子はなかなか口に出さず、「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせるように呟いていた。そうしてやっと頭の中の整理がついたのか、
『朱雀様は……先代の花嫁に眷族を産んでもらったと言ってましたよね?』
おそるおそるというかんじで聞いてきた。
『ああ……紅夏を筆頭に幾人か、な』
それがどうしたのだろうか。心なしか朱雀の応えに香子がむっとしたような顔をしている。
『でも先代の花嫁は先代の青龍様のところにいらっしゃったんですよね』
『ああ、そうだ』
香子の眉間にしわができそうに見える。
『……青龍様のところにわざわざ行って花嫁に眷族を産んでもらうなんて……そんなに先代の花嫁を愛していたのですか?』
言いにくそうな科白に、どうやら香子が先代の花嫁に嫉妬しているらしいということがわかった。
なんという愛らしい感情か。
愛し合っていたから眷族も産んでもらえたのだ。だから、
『もちろん愛していた……だが、今愛しいのは香子だけだ……』
朱雀は素直に答えて香子の髪に口づけた。そうして今度こそ寝室に運ぶ。
熱は与えていいのだと言質はとった。恥ずかしそうな香子に、朱雀は妖艶な笑みを浮かべた。
今夜は香子と二人きりで過ごすのだと思い込んでいたせいだろうか。今まで三神を厭うたことなどないというのに。
そういう感情に長けているのは白虎であることも知っている。念話で話すこともできるが、これから香子を迎えに行くので明日聞くことにした。はやる気持ちを抑え香子を迎えに行くと、風呂上りのせいか肌がほんのりと赤く上気していた。
所在なげに寝台に座っている香子に微笑みかけ、朱雀はいつものように抱き上げて己の室に彼女を運んだ。
『朱雀様、私怒ってるんです』
拗ねたような表情で言う香子を愛おしいと思う。
『そうであったな』
そのまま寝室に運ぼうとしたら腕を叩かれた。
『朱雀様、お話しましょう。寝室じゃなくて、ここで』
朱雀は改めて香子の顔を見た。その目がどうしてか不安そうに揺れているのを確認して、居間の長椅子に腰掛けた。『今お茶を……』と言って膝から降りようとするのを制して紅夏に入れさせる。室にいつも届けられているのは大きな四角い急須で、濃さだけ調整して入れればいいようになっていた。
香子はお茶一口飲んでからようやく本題に入った。
『朱雀様、私がなんで昨日の朝怒ったかわかってますか?』
それを言われると朱雀も少し気落ちした。
『そなたに、熱を与えたからか……?』
熱を与えながら愛を交わすのは朱雀の特性である。それ故に熱を否定されてしまうとどうにもならない。
だが香子は首を振った。
『確かに……熱のこともありましたけど……でも……』
そこまで言って香子は自分を抱きしめている朱雀の腕をぎゅっと握った。
『一番嫌だったのは、朱雀様に嘘をつかれたことです』
(嘘?)
朱雀は眉を寄せた。香子に嘘などいつついたのだろう、記憶にはない。
『……朱雀様は、その……身体を舐めないと私の回復ができないようなことをおっしゃいましたよね?』
『ああ……』
香子の硬い声に、やっと朱雀は思い出した。確か初めて香子を抱いた朝、床から出したくなくてそんなことを言ったのだった。
『……そなたを、身体の隅々まで愛したかったのだ』
耳元に囁ければ香子の体がふるりと小さく震える。
『で、でも! 私悩んだんですよ! 熱を受けたら体が重くて朝は動けないし、でもちゃんと朝起きたかったから……』
朱雀は香子を少し強く抱きしめた。
『悪かった……。そなに香子が悩むとは思わなかった』
己の一言で愛しい香子につらい思いをさせるなどありえなかった。
『……だから、その……』
香子が言いにくそうに言葉を紡ぐ。耳まで真っ赤にして。
『熱を受けるのは、つらいですけど、いいです……でも……ちゃんと回復させてくださいね? 朝起きられるように……』
そんな健気なことを言われたらもうたまらなかった。そうでなくても抱いたせいか香子の香りはかなり甘いのだ。
『わかった。香子の言う通りに』
香子を抱いたまま立ち上がる。そのまま寝室に連れていこうとしたらまた引きとめられた。
『まだ、気になることがあるんです……』
低い声を出しながら香子は何故か真っ赤だった。顔だけでなく、皮膚が見えているところは全て赤くなっているようである。
『なんなりと申せ』
早く香子を抱きたい。なのに香子はなかなか口に出さず、「落ち着け、落ち着け」と自分に言い聞かせるように呟いていた。そうしてやっと頭の中の整理がついたのか、
『朱雀様は……先代の花嫁に眷族を産んでもらったと言ってましたよね?』
おそるおそるというかんじで聞いてきた。
『ああ……紅夏を筆頭に幾人か、な』
それがどうしたのだろうか。心なしか朱雀の応えに香子がむっとしたような顔をしている。
『でも先代の花嫁は先代の青龍様のところにいらっしゃったんですよね』
『ああ、そうだ』
香子の眉間にしわができそうに見える。
『……青龍様のところにわざわざ行って花嫁に眷族を産んでもらうなんて……そんなに先代の花嫁を愛していたのですか?』
言いにくそうな科白に、どうやら香子が先代の花嫁に嫉妬しているらしいということがわかった。
なんという愛らしい感情か。
愛し合っていたから眷族も産んでもらえたのだ。だから、
『もちろん愛していた……だが、今愛しいのは香子だけだ……』
朱雀は素直に答えて香子の髪に口づけた。そうして今度こそ寝室に運ぶ。
熱は与えていいのだと言質はとった。恥ずかしそうな香子に、朱雀は妖艶な笑みを浮かべた。
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