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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
19.気が多いわけではないのです
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忘れないうちにと、夕食の席で香子は昼寝をする前にとりとめもなく考えていた提案を口にしてみた。
『我はかまわぬ』
『玄武兄がよろしいのでしたら我にも異論はございません』
玄武と朱雀がそれぞれ応える。
『香子は優しいな』
『我は嬉しいが……兄らを優先してもいいのだぞ』
白虎こそ優しいのではないかと香子は思う。青龍は次代を急ぐ必要がないせいか一歩引いているかんじだ。
たまの昼は白虎や青龍と過ごすようにするというだけの話である。嫌いではないがなにせ白虎や青龍に関しては情報が少ない。もちろん玄武や朱雀のことだってほとんど知らないが、香子が二神を好きなのは間違いない。ただ、二神の子どもを産んでもいいほど好きかと聞かれれば疑問は残る。そしてやはりそういう話は、侍女や眷族がいない場の方が望ましいような気がした。
白虎の背後に控えている白雲が心なしか嬉しそうに見える。ただ相変わらずの無表情が少し動いたような気がするだけなので、それは香子の希望的観測なのかもしれなかった。反対に黒月は少し難しい顔をしていた。こちらもあまり表情が動く方ではないが、最近一緒にいる時間が長いせいかなんとなくわかってきたように思う。眷族というのはお互いに協力はしていてもやはり己の神が一番のようである。
『そういえば……御花園は行けるなら毎朝行ってもいいのでしょうか?』
首を傾げて疑問を口にすると『聞いて参ります』と言い青藍がすっと出て行った。フットワークが軽いというかなんというか……眷族には本当に無駄な動きがないのに感心してしまう。
『そんなに気に入ったのか』
『ええまぁ……』
朱雀に言われて適当に返事をする。御花園が気に入った、というより少しでも表に出たいというのが本音だ。
基本的に香子は自分のことを引きこもりだと思っていたが、そう簡単に出られないと言われると人間出たくなるものらしい。だからといって実際王都内を散策したりというのは絶対にできないだろうということはわかっている。それならせめて王城内で行けるところに行きたいと思うのが人情ではあるまいか。
だがそこらへんの心理は四神にはわからないらしい。
ほどなくして青藍が戻ってき、『辰の三刻より前に声をかけていただければご案内可能とのことです』と伝えてくれた。
香子は頭をかいた。今朝は本当にぎりぎりで申し訳なかった。できれば明日も行きたいが、もう少し早く起きたいと思う。それには朱雀の協力が不可欠だった。
その夜も黒月と共に湯に浸かったが、なんだか黒月の視線が痛くて香子は困った。
そういえば、と思う。今夜は朱雀と過ごすとは言ったが玄武のことは言及しなかった。ということはもしかして今夜は玄武とは過ごさないと認識されてしまったのだろうか。
はっとする。
玄武は律儀である。もしかして香子が声をかけなければ一緒に過ごしてくれないのかもしれない。
(そんなの、嫌だ)
別に朱雀とだけ過ごすのが不安なわけではない。何度も言うようだが香子は朱雀も玄武も好きなのだ。まだどっちかにも決められないのだから二神と過ごすのが当り前のように香子は感じていた。
『黒月さん……』
『何か?』
やっぱり声が心なしか冷たい気がする。
『今夜は私、玄武様とは過ごせないのでしょうか?』
黒月は面食らったようだった。
『……今宵は……朱雀様と過ごされるのではないのですか?』
ああやっぱり、と思い香子はお湯を掬って自分の顔にぱしゃん、とかける。頬が熱くなるのを少しでも抑えたいが故の行動だったが今回も無駄に終わりそうだ。
『私、朱雀様と玄武様は一緒にいるものだと思ってて……だから……』
『はい』
返事はしたもののよくわかっていないようである。ここまで言わないとだめなのだろうかと思いながら、香子は続けた。
『私としては今夜も、朱雀様と玄武様のお二方と過ごせると思っていたのですけれども……』
そこまで言った時、黒月が勢いよく立ち上がった。バシャン、と勢いよく揺れる湯船に香子はびっくりして目を丸くする。
『……先に出ます。花嫁様はごゆるりとなさってください』
そう言い残し、黒月は飛ぶような早さで浴室から出て行った。
(もしかして……玄武様に伝えにいってくれたのかしら?)
そうだったらいいなと思い、香子は更に熱を持ってきた顔を両手で覆った。
『我はかまわぬ』
『玄武兄がよろしいのでしたら我にも異論はございません』
玄武と朱雀がそれぞれ応える。
『香子は優しいな』
『我は嬉しいが……兄らを優先してもいいのだぞ』
白虎こそ優しいのではないかと香子は思う。青龍は次代を急ぐ必要がないせいか一歩引いているかんじだ。
たまの昼は白虎や青龍と過ごすようにするというだけの話である。嫌いではないがなにせ白虎や青龍に関しては情報が少ない。もちろん玄武や朱雀のことだってほとんど知らないが、香子が二神を好きなのは間違いない。ただ、二神の子どもを産んでもいいほど好きかと聞かれれば疑問は残る。そしてやはりそういう話は、侍女や眷族がいない場の方が望ましいような気がした。
白虎の背後に控えている白雲が心なしか嬉しそうに見える。ただ相変わらずの無表情が少し動いたような気がするだけなので、それは香子の希望的観測なのかもしれなかった。反対に黒月は少し難しい顔をしていた。こちらもあまり表情が動く方ではないが、最近一緒にいる時間が長いせいかなんとなくわかってきたように思う。眷族というのはお互いに協力はしていてもやはり己の神が一番のようである。
『そういえば……御花園は行けるなら毎朝行ってもいいのでしょうか?』
首を傾げて疑問を口にすると『聞いて参ります』と言い青藍がすっと出て行った。フットワークが軽いというかなんというか……眷族には本当に無駄な動きがないのに感心してしまう。
『そんなに気に入ったのか』
『ええまぁ……』
朱雀に言われて適当に返事をする。御花園が気に入った、というより少しでも表に出たいというのが本音だ。
基本的に香子は自分のことを引きこもりだと思っていたが、そう簡単に出られないと言われると人間出たくなるものらしい。だからといって実際王都内を散策したりというのは絶対にできないだろうということはわかっている。それならせめて王城内で行けるところに行きたいと思うのが人情ではあるまいか。
だがそこらへんの心理は四神にはわからないらしい。
ほどなくして青藍が戻ってき、『辰の三刻より前に声をかけていただければご案内可能とのことです』と伝えてくれた。
香子は頭をかいた。今朝は本当にぎりぎりで申し訳なかった。できれば明日も行きたいが、もう少し早く起きたいと思う。それには朱雀の協力が不可欠だった。
その夜も黒月と共に湯に浸かったが、なんだか黒月の視線が痛くて香子は困った。
そういえば、と思う。今夜は朱雀と過ごすとは言ったが玄武のことは言及しなかった。ということはもしかして今夜は玄武とは過ごさないと認識されてしまったのだろうか。
はっとする。
玄武は律儀である。もしかして香子が声をかけなければ一緒に過ごしてくれないのかもしれない。
(そんなの、嫌だ)
別に朱雀とだけ過ごすのが不安なわけではない。何度も言うようだが香子は朱雀も玄武も好きなのだ。まだどっちかにも決められないのだから二神と過ごすのが当り前のように香子は感じていた。
『黒月さん……』
『何か?』
やっぱり声が心なしか冷たい気がする。
『今夜は私、玄武様とは過ごせないのでしょうか?』
黒月は面食らったようだった。
『……今宵は……朱雀様と過ごされるのではないのですか?』
ああやっぱり、と思い香子はお湯を掬って自分の顔にぱしゃん、とかける。頬が熱くなるのを少しでも抑えたいが故の行動だったが今回も無駄に終わりそうだ。
『私、朱雀様と玄武様は一緒にいるものだと思ってて……だから……』
『はい』
返事はしたもののよくわかっていないようである。ここまで言わないとだめなのだろうかと思いながら、香子は続けた。
『私としては今夜も、朱雀様と玄武様のお二方と過ごせると思っていたのですけれども……』
そこまで言った時、黒月が勢いよく立ち上がった。バシャン、と勢いよく揺れる湯船に香子はびっくりして目を丸くする。
『……先に出ます。花嫁様はごゆるりとなさってください』
そう言い残し、黒月は飛ぶような早さで浴室から出て行った。
(もしかして……玄武様に伝えにいってくれたのかしら?)
そうだったらいいなと思い、香子は更に熱を持ってきた顔を両手で覆った。
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