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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
14.御花園に行きたいのです
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目覚めは口づけと共に訪れた。
至近距離に青龍の顔があって非常に心臓に悪い。しかも身をよじろうとしても動けない。
『目覚めたか』
青龍が唇を離す。正直そんな起こし方はしないでほしかった。
『……今何時ですか?』
咎めてもしかたないので聞くと、『そうだな、おそらく辰の初刻ぐらいではあるまいか』と返事をされた。それに香子ははっとする。
『御花園!』
叫ぶように言って身じろぐとかえってがっちりと抱え込まれてしまった。やはり香子が動けない原因は二神にあったようである。
『御花園に行きたいです! 行かせてください!』
まだ間に合うはず! と声を上げる。二神のどちらかが嘆息したような気がするがそれは無視することにした。
『だが香子、そなた朝食もまだであろう』
『後でいいです! 散歩がしたいんです!』
力説すると、『しばし待て』と白虎に言われた。どうやら手配をしてくれるらしい。
しばらくもしないうちに白雲がやってきたようで『おめしかえを』と居間に出た青龍に言った。それからはみんなばたばたと支度をし、どうにか辰の三刻に御花園に着くことができた。
王城の中の庭園であるから、もちろん景山のような広さは望めない。それでも花々が植えられ、ところどころに四阿があり、人工の山、そして人工の川や池に橋がかかり、となかなかの景観であった。さすが御花園というだけある。人工の山は太湖石を用いて作られているのだろうか。奇岩を積み重ねられているように見受けられた。香子としては、北京の故宮博物館の御花園と似ているようで異なる印象を受けた。
(まぁ、それでも何回も見たことがあるわけではないけれど……)
北京に留学していたので何度かは故宮博物館に足を運んだことはある。友人が北京に遊びに来てくれてその案内もした。ただ、天安門広場の端から故宮博物館を抜けて景山に上るという強行コースではあったが。
(あの時は確かまっすぐ進んだだけなのに一時間半ぐらいかかったなー……)
北京は広い。建造物はでかい。天安門広場、故宮博物館といえばダイナミックな中国を連想させるものだと香子はしみじみ思う。
閑話休題。
御花園である。それほどの広さはないので王英明の説明を聞きながらあっちへ行ったりこっちへ来たりしただけで、すぐに回り終えてしまった。
やはり山っぽいものは太湖石でできていると聞いた。わざわざ遠いところからよく運んできたものだと思ってしまう。四阿に軽食の用意ができたと趙文英に伝えられ、香子はさすがに頭をかいた。香子のわがままに付き合ってもらって本当に御苦労さまである。
『朝食はまた四神宮で用意しますので、これでご容赦ください』
急いで用意したのだろう乾菓子とお茶を出され、香子はぶんぶんと首を振った。
『わがまま言ってすいません。大丈夫です!』
すると香子を膝に乗せている白虎が眉を寄せた。
『香子、そこは『ごめんなさい』ではなく『ありがとう』というところではないのか?』
香子ははっとした。
『あ……そうですね。みなさん、ありがとうございます』
そしてはにかむように笑む。王と趙はその笑みに一瞬目を奪われたが、すぐに四神の視線を感じ取って目を伏せた。そうでなくても香子自身から醸し出される色気は尋常ではないのだ。彼らが気を抜くわけにはいかない。
『お礼を言われるほどのことではございません。花嫁様に喜んでいただければそれにこしたことはありません』
『はい、御花園に連れてきていただけて嬉しいです。またお願いします』
屈託なく言う香子に、王と趙はこっそり苦笑した。確かに今朝はたいへんであったが、身分の高い者特有の奢りがないだけにいくらでも願いを叶えてあげたくなってしまう。だがもちろん彼らがそんな心境でいることを香子は知らない。
(どーも日本語の感覚だと『ごめんなさい』になっちゃうんだよね。『ありがとう』って言うようにしよう……)
と、香子は別のことを考えていた。
そして短いながらも充実した時間を御花園で過ごし、四神宮に戻った。
至近距離に青龍の顔があって非常に心臓に悪い。しかも身をよじろうとしても動けない。
『目覚めたか』
青龍が唇を離す。正直そんな起こし方はしないでほしかった。
『……今何時ですか?』
咎めてもしかたないので聞くと、『そうだな、おそらく辰の初刻ぐらいではあるまいか』と返事をされた。それに香子ははっとする。
『御花園!』
叫ぶように言って身じろぐとかえってがっちりと抱え込まれてしまった。やはり香子が動けない原因は二神にあったようである。
『御花園に行きたいです! 行かせてください!』
まだ間に合うはず! と声を上げる。二神のどちらかが嘆息したような気がするがそれは無視することにした。
『だが香子、そなた朝食もまだであろう』
『後でいいです! 散歩がしたいんです!』
力説すると、『しばし待て』と白虎に言われた。どうやら手配をしてくれるらしい。
しばらくもしないうちに白雲がやってきたようで『おめしかえを』と居間に出た青龍に言った。それからはみんなばたばたと支度をし、どうにか辰の三刻に御花園に着くことができた。
王城の中の庭園であるから、もちろん景山のような広さは望めない。それでも花々が植えられ、ところどころに四阿があり、人工の山、そして人工の川や池に橋がかかり、となかなかの景観であった。さすが御花園というだけある。人工の山は太湖石を用いて作られているのだろうか。奇岩を積み重ねられているように見受けられた。香子としては、北京の故宮博物館の御花園と似ているようで異なる印象を受けた。
(まぁ、それでも何回も見たことがあるわけではないけれど……)
北京に留学していたので何度かは故宮博物館に足を運んだことはある。友人が北京に遊びに来てくれてその案内もした。ただ、天安門広場の端から故宮博物館を抜けて景山に上るという強行コースではあったが。
(あの時は確かまっすぐ進んだだけなのに一時間半ぐらいかかったなー……)
北京は広い。建造物はでかい。天安門広場、故宮博物館といえばダイナミックな中国を連想させるものだと香子はしみじみ思う。
閑話休題。
御花園である。それほどの広さはないので王英明の説明を聞きながらあっちへ行ったりこっちへ来たりしただけで、すぐに回り終えてしまった。
やはり山っぽいものは太湖石でできていると聞いた。わざわざ遠いところからよく運んできたものだと思ってしまう。四阿に軽食の用意ができたと趙文英に伝えられ、香子はさすがに頭をかいた。香子のわがままに付き合ってもらって本当に御苦労さまである。
『朝食はまた四神宮で用意しますので、これでご容赦ください』
急いで用意したのだろう乾菓子とお茶を出され、香子はぶんぶんと首を振った。
『わがまま言ってすいません。大丈夫です!』
すると香子を膝に乗せている白虎が眉を寄せた。
『香子、そこは『ごめんなさい』ではなく『ありがとう』というところではないのか?』
香子ははっとした。
『あ……そうですね。みなさん、ありがとうございます』
そしてはにかむように笑む。王と趙はその笑みに一瞬目を奪われたが、すぐに四神の視線を感じ取って目を伏せた。そうでなくても香子自身から醸し出される色気は尋常ではないのだ。彼らが気を抜くわけにはいかない。
『お礼を言われるほどのことではございません。花嫁様に喜んでいただければそれにこしたことはありません』
『はい、御花園に連れてきていただけて嬉しいです。またお願いします』
屈託なく言う香子に、王と趙はこっそり苦笑した。確かに今朝はたいへんであったが、身分の高い者特有の奢りがないだけにいくらでも願いを叶えてあげたくなってしまう。だがもちろん彼らがそんな心境でいることを香子は知らない。
(どーも日本語の感覚だと『ごめんなさい』になっちゃうんだよね。『ありがとう』って言うようにしよう……)
と、香子は別のことを考えていた。
そして短いながらも充実した時間を御花園で過ごし、四神宮に戻った。
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