上 下
168 / 597
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

14.御花園に行きたいのです

しおりを挟む
 目覚めは口づけと共に訪れた。
 至近距離に青龍の顔があって非常に心臓に悪い。しかも身をよじろうとしても動けない。

『目覚めたか』

 青龍が唇を離す。正直そんな起こし方はしないでほしかった。

『……今何時ですか?』

 咎めてもしかたないので聞くと、『そうだな、おそらく辰の初刻ぐらいではあるまいか』と返事をされた。それに香子ははっとする。

『御花園!』

 叫ぶように言って身じろぐとかえってがっちりと抱え込まれてしまった。やはり香子が動けない原因は二神にあったようである。

『御花園に行きたいです! 行かせてください!』

 まだ間に合うはず! と声を上げる。二神のどちらかが嘆息したような気がするがそれは無視することにした。

『だが香子シャンズ、そなた朝食もまだであろう』
『後でいいです! 散歩がしたいんです!』

 力説すると、『しばし待て』と白虎に言われた。どうやら手配をしてくれるらしい。
 しばらくもしないうちに白雲がやってきたようで『おめしかえを』と居間に出た青龍に言った。それからはみんなばたばたと支度をし、どうにか辰の三刻に御花園に着くことができた。
 王城の中の庭園であるから、もちろん景山のような広さは望めない。それでも花々が植えられ、ところどころに四阿あずまやがあり、人工の山、そして人工の川や池に橋がかかり、となかなかの景観であった。さすが御花園というだけある。人工の山は太湖石を用いて作られているのだろうか。奇岩を積み重ねられているように見受けられた。香子としては、北京の故宮博物館の御花園と似ているようで異なる印象を受けた。

(まぁ、それでも何回も見たことがあるわけではないけれど……)

 北京に留学していたので何度かは故宮博物館に足を運んだことはある。友人が北京に遊びに来てくれてその案内もした。ただ、天安門広場の端から故宮博物館を抜けて景山に上るという強行コースではあったが。

(あの時は確かまっすぐ進んだだけなのに一時間半ぐらいかかったなー……)

 北京は広い。建造物はでかい。天安門広場、故宮博物館といえばダイナミックな中国を連想させるものだと香子はしみじみ思う。
 閑話休題。
 御花園である。それほどの広さはないので王英明の説明を聞きながらあっちへ行ったりこっちへ来たりしただけで、すぐに回り終えてしまった。
 やはり山っぽいものは太湖石でできていると聞いた。わざわざ遠いところからよく運んできたものだと思ってしまう。四阿に軽食の用意ができたと趙文英に伝えられ、香子はさすがに頭をかいた。香子のわがままに付き合ってもらって本当に御苦労さまである。

『朝食はまた四神宮で用意しますので、これでご容赦ください』

 急いで用意したのだろう乾菓子とお茶を出され、香子はぶんぶんと首を振った。

『わがまま言ってすいません。大丈夫です!』

 すると香子を膝に乗せている白虎が眉を寄せた。

『香子、そこは『ごめんなさい』ではなく『ありがとう』というところではないのか?』

 香子ははっとした。

『あ……そうですね。みなさん、ありがとうございます』

 そしてはにかむように笑む。王と趙はその笑みに一瞬目を奪われたが、すぐに四神の視線を感じ取って目を伏せた。そうでなくても香子自身から醸し出される色気は尋常ではないのだ。彼らが気を抜くわけにはいかない。

『お礼を言われるほどのことではございません。花嫁様に喜んでいただければそれにこしたことはありません』
『はい、御花園に連れてきていただけて嬉しいです。またお願いします』

 屈託なく言う香子に、王と趙はこっそり苦笑した。確かに今朝はたいへんであったが、身分の高い者特有の奢りがないだけにいくらでも願いを叶えてあげたくなってしまう。だがもちろん彼らがそんな心境でいることを香子は知らない。

(どーも日本語の感覚だと『ごめんなさい』になっちゃうんだよね。『ありがとう』って言うようにしよう……)

 と、香子は別のことを考えていた。
 そして短いながらも充実した時間を御花園で過ごし、四神宮に戻った。
しおりを挟む
感想 85

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

眺めるだけならよいでしょうか?〜美醜逆転世界に飛ばされた私〜

波間柏
恋愛
美醜逆転の世界に飛ばされた。普通ならウハウハである。だけど。 ✻読んで下さり、ありがとうございました。✻

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

処理中です...