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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

11.わけがわからなくなりました ※R13

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 本能うんぬんの話をするならば夜はさすがに元の姿にはなってくれないだろう。残念だが仕方ない、と香子も思う。
 あの後二神と香子は茶室に戻った。茶室ではまだ玄武と朱雀がお茶を飲んでいた。目礼し、特に何を言うでもなくお茶を入れて香子はしばらく物思いにふけることにした。
 四神が四神同士で会話する場合別に声を出す必要はないのだからと香子は気にしないことにした。
 前の花嫁だという張燕に選択肢は与えられなかったのか。
 けれど白虎や青龍、そして三神の眷族を産んだということはそこに愛情はあったのだろう。今から約六五〇年前にトリップしてきた花嫁。彼女はどんな思いでいたのだろうか。
 考えてもせんないことだというのはわかっている。それでも少しぐらいその思いを想像することはできるはずだった。
 夕食をとる間も香子は心ここにあらずという体だった。侍女たちは心配してちらちらと黒月を見たが、黒月は気付かないふりをした。入浴の段になってやっと香子が反応した。

『あ! 今夜はあの色っぽい夜着はやめてください』

 と言う。
 侍女たちはいろいろ聞きたい気持ちをこらえ、いつもの白い夜着を用意した。
 香子はまた頭がパンクしそうだったので、侍女たちの何か言いたげな視線にはさっぱり気付かず白虎の室に入っていった。

『来たか』

 白虎が居間の長椅子に悠然と横たわった格好のまま香子を迎えた。どうやら沐浴してきたらしく白い髪が濡れているのがまた色っぽい。香子はその姿を見て「うっ」と怯んだ。

(イケメン、濡れ髪、きけん、きけーんっっ!!)

 イエローカードとホイッスルがあったら思いっきり注意したいシチュエーションである。

『……白虎様……髪、濡れてますよ……』

 かろうじてそれだけ言うと、白虎はそれでやっと気づいたように己の長い髪に触れた。すると見る間に髪が乾いていく。

(うわー、便利……)
『そなたの髪もしっかり乾いているとはいえぬぞ』

 そう言ってニヤリとし、手招きされる。香子はそれに誘われるように示された場所に腰掛けた。香子の後ろに白虎の胸部がある、いわば抱きつかれやすいポジションで香子はふわりとした風を受けた。白虎の手が確認するように香子の髪に触れた。さらさらと髪がその大きな手からこぼれていく。

(超便利……)
『ありがとうございます』
『礼を言われるほどのことでもない』

 当り前のやりとりをして、香子は場を持たせるのにお茶を入れた。

香子シャンズ
『はい?』

 名を呼ばれて白虎に顔を向けた瞬間ぐいっと引き寄せられ。

「んっ……!?」

 半開きだった唇にするりと舌が差しこまれ、無防備な香子の舌が捕えられた。香子は咄嗟に椅子に手をつく。

「んんっ……」

 その間も白虎の舌は香子の口腔内をねぶり、陥落させようとする。それは朱雀ほど苛烈ではないが、香子を屈服させようとするものだった。未知の口づけだというのに不快感を覚えない自分に香子は愕然とした。体勢が体勢だけにうまく抵抗することもできない。どうしよう、と香子が泣きそうになったところで、扉を叩く音がした。

『遅くなりました』

 涼やかな声と共に扉が開く。青龍だった。
 それと同時に唇を離され、香子の体は逃げを打った。

『香子!?』

 長椅子から転げ落ち、地板ゆかに叩きつけられるかと思ったがその手前で青龍の手が香子を支えた。

『大事ないか?』

 白虎と青龍に心配されるのがいたたまれない。香子は自分でも信じられないほどの早さで体勢を整えると、

『ご、ごめんなさい!』

 と怒鳴るように言い捨てて白虎の室から逃げ出した。

『香子!』
『花嫁様!?』

 背後から呼ぶ二神の声、扉の脇にいたのであろう黒月の声が耳に届いたがどうしたらいいのかわからない。

(どうして、どうして、どうして……)

 香子は完全にパニックを起こしていた。
 どこに行ったらいいのかわからなくて泣きそうになった時、穏やかな玄武の顔と愛しそうに自分を見る朱雀の顔が浮かんだ。こんな時どちらがより頼りになるのかといえば……。
 香子は迷わず玄武の室に向かって走っていった。
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