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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
10.どれだけ我慢すればいいのか(白虎視点)
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香子は面白い、と白虎も青龍も思う。
白虎はまだ香子に伝えていないことを思い出して眉を寄せた。香子はできるだけ白虎の目を見ないようにしていたからそれに気付かない。
『香子、話がある』
そのままの姿で声をかけると、香子は白虎を見た。白虎は青龍が踵を返そうとするのを止める。
『青龍よ、そなたにとっても大事な話だ』
『わかりました』
白虎は元の姿になると声が低くなる。そうするとちょっと気さくなかんじが薄れて威厳が増すのだが、それを白虎自身は知らない。
香子は居住まいを正した。それに白虎は苦笑する。そしてなだめるように前足を香子の膝に置いた。香子の手が無意識に前足を撫でる。
人型でやったら窘められそうだが元の姿のせいか香子は寛容だった。このままきっと口づけても先日のように怒られることはなさそうだと白虎はほくそ笑む。だが目的を忘れてじゃれ、襲いかかってしまっては元も子もない。
白虎は意志の力でどうにか香子から視線を引き剥がした。
『香子、我は他の四神と違って本能が強いことはわかっておるな?』
『はい』
『前にも言った通り、そなたと交わる時はこの姿になってしまうことも覚えておるな』
『はい……』
答えながら香子の頬がうっすらと染まったことに舌打ちしたくなる。そのように可愛い顔をされたら襲ってしまいたくなるではないか。
ここからが本題である。
『そのように、我は他の三神とは違って独占欲も非常に強い。……玄武兄や朱雀兄は我や青龍にも嫉妬することがないと言うが我は違う。そなたはすでに玄武兄、朱雀兄と交わっているから彼らとこれからも交わるのは問題ないのだが、もし我がここでそなたと交わった場合青龍がそなたを抱くことはできなくなる』
『……え』
顔を真っ赤にして白虎の話を聞いていた香子は最後の言葉に首を傾げた。
白虎の説明が下手なのかそれとも香子の理解力が悪いのかそれは判別がつかないが、香子にはピンとこないようだった。
『我はそれでもかまいませぬが』
青龍が涼やかな声で答えるのもまた憎らしい。内心はどうか知らないが、白虎はこんなにも香子を求めてやまないというのに。
『えーと……それはうーん……「マーキング」みたいな……匂いがしない相手はダメとかそういうことですか……』
香子もどう言い表していいのかわからないようで、「マーキング」という言葉を使った。どうも縄張りを主張する時に匂い付けをする行動をその言葉で表すらしい。
『香子の言葉も外れてはいない。香子からは玄武兄、朱雀兄の匂いがする。だが青龍の匂いはせぬ。だから香子が青龍を好ましいと思うならば我よりも先に青龍と交わらねばならぬ。我と先に交わってしまうと青龍と交わることは許せぬのでな……』
香子はまた何やら考えているようだった。
『ええと、それって……今夜白虎様と過ごすにあたってその可能性があるってことですよね……?』
『ないとは言えまい』
『それもそうですね……』
そこまで言って香子は青龍を見た。
『青龍様は私と、その交われなくてもいいんですか?』
青龍は一瞬驚いたような顔をした。
『正直言えば、そなたと交わりたい。だが我はまだ急ぐ立場でもない。白虎兄がそなたを望むならば阻むことはできぬ』
青龍の科白に、香子は嘆息した。
『やっぱり神様って理解できません』
青龍は素直に言ったのだろうがそれが香子としては納得いかないのかもしれない。
『……我の先代の白虎は、張燕が現れた時次代をもっとも必要としていた。それ故に他の四神を敵とみなし昼夜問わず張燕を口説いた。そして半ば強引に口説き落とし一年を待たず領地に連れ帰った。当然のことだが己が消えるまで他の四神を領地には入れなかった。張燕は十年もの間我を育て、そうしてやっと先代の青龍に嫁いだのだ。青龍よりも先に我と交われば、青龍は我が消えるのを待たなくてはならぬ。順当に香子が次代を産んでくれたとしても最低五百年は待たねばならぬであろうな』
『五百年!?』
香子が驚きの声を上げる。そして、
『うーん、でもなー……』
と何やらぶつぶつ呟いている。
『五百年待ったとしても我にはまだ時間はあるかと』
『その前に香子の精神がもたなかった場合は? 張燕のように先に身罷る可能性もないとはいえぬ』
『それは……』
突然香子ががばり、と白虎に覆いかぶさってきた。それと同時に白虎は香子の甘い香りを吸いこんでしまい、あらぬところが反応してしまう。
『香子! そなた我の話を聞いていたのか!?』
『聞いてましたけど……私まだ白虎様のことも青龍様のこともあまり知らないんですよ。それで交わる、交わらないとかの話をされても実感が沸かなくてですね……』
『香子……そなた我らがそなたの香りに反応することを忘れてはいまいか?』
青龍が香子の気だるげな物言いに苦笑して声をかける。香子は体勢を元に戻した。
『ごめんなさい、白虎様。じゃあ今夜は青龍様も一緒に過ごしてください。夜通し話合いましょう』
白虎は大仰にため息をつき、そしてさすがに危険だと人型に姿を変えた。それに香子が少し残念そうな顔をしたのは見なかったことにした。
白虎はまだ香子に伝えていないことを思い出して眉を寄せた。香子はできるだけ白虎の目を見ないようにしていたからそれに気付かない。
『香子、話がある』
そのままの姿で声をかけると、香子は白虎を見た。白虎は青龍が踵を返そうとするのを止める。
『青龍よ、そなたにとっても大事な話だ』
『わかりました』
白虎は元の姿になると声が低くなる。そうするとちょっと気さくなかんじが薄れて威厳が増すのだが、それを白虎自身は知らない。
香子は居住まいを正した。それに白虎は苦笑する。そしてなだめるように前足を香子の膝に置いた。香子の手が無意識に前足を撫でる。
人型でやったら窘められそうだが元の姿のせいか香子は寛容だった。このままきっと口づけても先日のように怒られることはなさそうだと白虎はほくそ笑む。だが目的を忘れてじゃれ、襲いかかってしまっては元も子もない。
白虎は意志の力でどうにか香子から視線を引き剥がした。
『香子、我は他の四神と違って本能が強いことはわかっておるな?』
『はい』
『前にも言った通り、そなたと交わる時はこの姿になってしまうことも覚えておるな』
『はい……』
答えながら香子の頬がうっすらと染まったことに舌打ちしたくなる。そのように可愛い顔をされたら襲ってしまいたくなるではないか。
ここからが本題である。
『そのように、我は他の三神とは違って独占欲も非常に強い。……玄武兄や朱雀兄は我や青龍にも嫉妬することがないと言うが我は違う。そなたはすでに玄武兄、朱雀兄と交わっているから彼らとこれからも交わるのは問題ないのだが、もし我がここでそなたと交わった場合青龍がそなたを抱くことはできなくなる』
『……え』
顔を真っ赤にして白虎の話を聞いていた香子は最後の言葉に首を傾げた。
白虎の説明が下手なのかそれとも香子の理解力が悪いのかそれは判別がつかないが、香子にはピンとこないようだった。
『我はそれでもかまいませぬが』
青龍が涼やかな声で答えるのもまた憎らしい。内心はどうか知らないが、白虎はこんなにも香子を求めてやまないというのに。
『えーと……それはうーん……「マーキング」みたいな……匂いがしない相手はダメとかそういうことですか……』
香子もどう言い表していいのかわからないようで、「マーキング」という言葉を使った。どうも縄張りを主張する時に匂い付けをする行動をその言葉で表すらしい。
『香子の言葉も外れてはいない。香子からは玄武兄、朱雀兄の匂いがする。だが青龍の匂いはせぬ。だから香子が青龍を好ましいと思うならば我よりも先に青龍と交わらねばならぬ。我と先に交わってしまうと青龍と交わることは許せぬのでな……』
香子はまた何やら考えているようだった。
『ええと、それって……今夜白虎様と過ごすにあたってその可能性があるってことですよね……?』
『ないとは言えまい』
『それもそうですね……』
そこまで言って香子は青龍を見た。
『青龍様は私と、その交われなくてもいいんですか?』
青龍は一瞬驚いたような顔をした。
『正直言えば、そなたと交わりたい。だが我はまだ急ぐ立場でもない。白虎兄がそなたを望むならば阻むことはできぬ』
青龍の科白に、香子は嘆息した。
『やっぱり神様って理解できません』
青龍は素直に言ったのだろうがそれが香子としては納得いかないのかもしれない。
『……我の先代の白虎は、張燕が現れた時次代をもっとも必要としていた。それ故に他の四神を敵とみなし昼夜問わず張燕を口説いた。そして半ば強引に口説き落とし一年を待たず領地に連れ帰った。当然のことだが己が消えるまで他の四神を領地には入れなかった。張燕は十年もの間我を育て、そうしてやっと先代の青龍に嫁いだのだ。青龍よりも先に我と交われば、青龍は我が消えるのを待たなくてはならぬ。順当に香子が次代を産んでくれたとしても最低五百年は待たねばならぬであろうな』
『五百年!?』
香子が驚きの声を上げる。そして、
『うーん、でもなー……』
と何やらぶつぶつ呟いている。
『五百年待ったとしても我にはまだ時間はあるかと』
『その前に香子の精神がもたなかった場合は? 張燕のように先に身罷る可能性もないとはいえぬ』
『それは……』
突然香子ががばり、と白虎に覆いかぶさってきた。それと同時に白虎は香子の甘い香りを吸いこんでしまい、あらぬところが反応してしまう。
『香子! そなた我の話を聞いていたのか!?』
『聞いてましたけど……私まだ白虎様のことも青龍様のこともあまり知らないんですよ。それで交わる、交わらないとかの話をされても実感が沸かなくてですね……』
『香子……そなた我らがそなたの香りに反応することを忘れてはいまいか?』
青龍が香子の気だるげな物言いに苦笑して声をかける。香子は体勢を元に戻した。
『ごめんなさい、白虎様。じゃあ今夜は青龍様も一緒に過ごしてください。夜通し話合いましょう』
白虎は大仰にため息をつき、そしてさすがに危険だと人型に姿を変えた。それに香子が少し残念そうな顔をしたのは見なかったことにした。
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