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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

8.食べ物は重要なんです

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 いろいろあったせいかお茶を飲み終わるともう昼だった。
 香子が動ける時は四神と食堂で取るのだが、珍しく白虎と共にいるので判断つきかねたらしい。侍女から白雲へ、白雲から白虎へ、最後に香子に『昼食はどこで取るか』と質問が回ってきた。直接自分に聞いてくれればと思うのだがこれが宮廷の作法というものなのだろう。

『? 食堂でいいんじゃないですか?』

 とさらりと言えば白虎は『ならばそうしよう』と言う。わざわざ聞かれる理由がわからなかった。
 食堂で取るのならお召替えをと黒月に促される。
 香子はげんなりした。
 とはいえ答えたのは自分であるから今更撤回もできない(できないことはないだろうが迷惑だろう)。
 そうして一旦自室に運ばれ着替えをさせられている時、やっと侍女たちが昼食の場所を聞いてきた意味に思い至った。

(でも……四神同士では嫉妬しないって聞いたし……)

 それはそれで意味がわからないのだが、神様なのでそういうものなのかと思うしかない。そこらへんを追及すると根本的なところまで行ってしまうので考えないようにしていた。
 侍女が髪を結いあげながらほぅ……とため息をつく。

「?」

 目の前にいる侍女に何事かと視線を向けると、

『……申し訳ありません。白香さまの御髪おぐしのお色があまりに見事で……』

 と少し恥ずかしそうに言った。

(ああ……)

 朱雀からの熱で赤色が定着したのだった。

『黒かった部分も奇麗に染まっておりますわ』

 髪をいじりながらどういうことかと尋ねたそうではある。追求されてもさすがに答えられないのでごまかすしかなかった。

『……さぁ……なんででしょうね? こちらの食べ物がいいのかしら?』

 苦し紛れにそんなことを言うと侍女たちに微笑まれた。

(ご、ごまかせてない! 絶対ごまかせてないよ!)

 とはいえ相手は貴人であるから侍女風情が追求できるはずもない。

『まぁ……そう言っていただけると料理長も喜びますわ』
『なにか食べたい物がございましたら遠慮なくおっしゃってくださいまし』

 香子は食べることが大好きだ。けれど周りにまで浸透しているというのもまた複雑ではある。
 とはいえここで逆らう必要もないので、香子は『はい……』と答えたのだった。


 食堂に行くと四神が揃っていた。常に黒月は共にいてくれるのでこれで眷族も揃ったことになる。
 香子は青龍と白虎の間の席に案内された。
 元凶である朱雀は涼やかな表情でお茶に手をつけている。それがなんとも憎らしいと香子は思う。
 ただ、並べられていく料理の前に文句を言うのは後だと思った。
 手順に沿って前菜が並べられている。

『一通り取ってよいか?』

 横から白虎に聞かれて香子はびっくりした。どうやら白虎が給仕してくれるらしい。

『あ……ええと、内臓っぽいものだけよけてもらえます?』

 応えると心得たようにひょいひょいと取ってくれる。その中にいつにない色合いのものを見止めて、白虎が給仕する意味を忘れてしまった。

『あれ……これってザーサイですよね?』

 そう言って口に入れると味も歯ごたえもシャキシャキとして新鮮なものである。
 白虎がちら、と白雲を見やる。白雲はそのまま侍女頭を見た。

『そちらはザーサイを軽く漬けたものでございます。一時期しか出回らないものでございますが……』

 香子の知っているザーサイはこんなキレイな緑色はしていない。歯ごたえもあるがこんなにしゃきしゃきしていないのだ。

(ってことは新物? ……でもザーサイの収穫時期って一月下旬から二月いっぱいぐらいじゃないっけ? それとも決まってないのかな?)

 香子は眉を寄せた。

『料理長に聞いて参りましょう』

 侍女頭がそう言って香子が止める前に食堂を出ていく。そこまでしてもらう必要はないのだが気にはなった。
 ぱりぱりとした食感を楽しんでいると、料理長の朱がやってきた。

『ザーサイのことでと伺いましたが』
『わざわざすいません……』
『我もこのように色鮮やかなものは見たことがない。これは普段食べている物とは違うのか?』

 香子の科白に被せるようにして白虎が口を挟んだ。

『こちらは採りたてをそのまま香辛料に漬けたものでございます。日持ちしませんので届いてすぐにお出ししました』

 ということはやはり一般的に食べているザーサイとは違うらしい。

『あいわかった。つまり常にはないのだな』
『はい』
『あの……ありがとうございます。とてもおいしいです……』

 そう言うと朱は苦笑した。

(あ……)

 これは別に朱が作ったものではないのだった。

『花嫁様がおいしいと言ってくだされば作った者も喜びましょう』

 それでいいことにしよう、と香子は思う。
 四神も物珍しげにザーサイの漬けものに手を伸ばした。
 主菜を運ぶのはもう少し後にした方がよさそうだと朱は判断し、入口にいる侍女に声をかけて食堂を辞した。
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