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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
2.いろいろ複雑なんです
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その日はさすがに御花園に行くのは無理だった。
王英明から話を聞いたのがすでに巳の三刻(午前十時頃)を過ぎていたからである。
だが香子は楽観視していた。髪の色が定着したなら、もう朱雀に熱を与えられることはないと思っていたのだ。抱かれる時に熱を与えられなければ朝起きられないなんてことはないはず! と考えていたのだが……。
『朱雀様のバカーーーーーー!!!』
翌朝目を覚ました香子は顔を真っ赤にして朱雀を罵倒した。
『香子……』
『やだって言ったのに! もう髪の色は定着したって言ったじゃない!?』
起床時刻はとっくに辰の刻を過ぎて、もう巳の刻にさしかかっているようだった。玄武の室に射し込む光がそれを教えてくれる。
『香子、我はそなたと熱を共有したいのだ』
『う……』
真面目な表情で色気ダダ漏れの甘いテノールでそんなことを言わないでほしいと香子は思う。
(でも引きさがっちゃいけない!)
なし崩しであんな熱を与えられ続けるのは勘弁してほしかった。
『で、でも髪の色を定着させる為だって……』
だからあの狂おしさも耐えたのに。
朱雀はそれに少し切なそうな表情をした。香子ははっとする。朱雀にとって香子に熱を与えることは”特別”なことなのだと唐突に理解した。
(だけど、でも……)
あの熱のおかげで毎朝香子は起きられないのだから納得はできない。
御花園にどうしても行きたいというわけではない。ただ普通に起きてみんなとごはんを食べて、日が出ている間は普通に暮らしたいだけなのだ。もちろん週に二日ぐらいは自堕落に過ごしてもいいのかもしれないけれど。
『香子、朱雀はそなたがたまらなく愛しいのだ』
玄武が諭すように言う。
わかっている、わかっているけれども毎晩二人を受け入れている身にもなってほしい。もちろん香子だって嫌がっているわけではないからその点については何も言う気はないのだが。
(私だって朱雀様が好きだけど、でも……)
いくつもの”でも”が頭に浮かぶ。
ただ、香子は四神の花嫁で。
だから本当は四神の言うことを聞かなくてはいけない?
香子はそれに身震いした。
『香子?』
そんな香子の様子に異変を感じたのか、朱雀が声をかける。
「う……」
『香子、どうした?』
「……やだ……出てって……お願い……出てってー!!」
その悲痛な感情をいきなり浴びて二神は戸惑った。側に寄ろうとする二神を香子は押しのけようとする。
『1人になりたいの! お願いだから、今は出てって!』
こちらの言葉で改めて言われて二神は仕方なく立ち上がった。顔には出ていなかったが二神はひどくうろたえていた。
『なれば……落ち着いたなら呼んでおくれ。朝食は如何する』
玄武の科白に香子は首を振った。正直おなかはものすごくすいていたが(だからこういう思考になったのかもしれない)、一人では食べたくないし、かといって今は二神と一緒にいたくなかった。
床に横たわりそっぽを向くと、二神が寝室を出ていく気配がした。背中越しでも感じる躊躇するような動きに香子は罪悪感を覚えた。
二神は寝室から出、少しの間居間にいたようだがまた扉の開く音がした。どうやら室から出て行ったらしい。
香子はそこでやっと息をつく。
そして、「おなかすいたなぁ……」と呟いた。
体が動かなくて、おなかがすいていて、そばに誰もいなくて。
「どーしよ……」
自分が招いた結果なのだが、香子は途方に暮れた。
室の外に出た二神が香子と同じように途方に暮れているとも知らずに。
王英明から話を聞いたのがすでに巳の三刻(午前十時頃)を過ぎていたからである。
だが香子は楽観視していた。髪の色が定着したなら、もう朱雀に熱を与えられることはないと思っていたのだ。抱かれる時に熱を与えられなければ朝起きられないなんてことはないはず! と考えていたのだが……。
『朱雀様のバカーーーーーー!!!』
翌朝目を覚ました香子は顔を真っ赤にして朱雀を罵倒した。
『香子……』
『やだって言ったのに! もう髪の色は定着したって言ったじゃない!?』
起床時刻はとっくに辰の刻を過ぎて、もう巳の刻にさしかかっているようだった。玄武の室に射し込む光がそれを教えてくれる。
『香子、我はそなたと熱を共有したいのだ』
『う……』
真面目な表情で色気ダダ漏れの甘いテノールでそんなことを言わないでほしいと香子は思う。
(でも引きさがっちゃいけない!)
なし崩しであんな熱を与えられ続けるのは勘弁してほしかった。
『で、でも髪の色を定着させる為だって……』
だからあの狂おしさも耐えたのに。
朱雀はそれに少し切なそうな表情をした。香子ははっとする。朱雀にとって香子に熱を与えることは”特別”なことなのだと唐突に理解した。
(だけど、でも……)
あの熱のおかげで毎朝香子は起きられないのだから納得はできない。
御花園にどうしても行きたいというわけではない。ただ普通に起きてみんなとごはんを食べて、日が出ている間は普通に暮らしたいだけなのだ。もちろん週に二日ぐらいは自堕落に過ごしてもいいのかもしれないけれど。
『香子、朱雀はそなたがたまらなく愛しいのだ』
玄武が諭すように言う。
わかっている、わかっているけれども毎晩二人を受け入れている身にもなってほしい。もちろん香子だって嫌がっているわけではないからその点については何も言う気はないのだが。
(私だって朱雀様が好きだけど、でも……)
いくつもの”でも”が頭に浮かぶ。
ただ、香子は四神の花嫁で。
だから本当は四神の言うことを聞かなくてはいけない?
香子はそれに身震いした。
『香子?』
そんな香子の様子に異変を感じたのか、朱雀が声をかける。
「う……」
『香子、どうした?』
「……やだ……出てって……お願い……出てってー!!」
その悲痛な感情をいきなり浴びて二神は戸惑った。側に寄ろうとする二神を香子は押しのけようとする。
『1人になりたいの! お願いだから、今は出てって!』
こちらの言葉で改めて言われて二神は仕方なく立ち上がった。顔には出ていなかったが二神はひどくうろたえていた。
『なれば……落ち着いたなら呼んでおくれ。朝食は如何する』
玄武の科白に香子は首を振った。正直おなかはものすごくすいていたが(だからこういう思考になったのかもしれない)、一人では食べたくないし、かといって今は二神と一緒にいたくなかった。
床に横たわりそっぽを向くと、二神が寝室を出ていく気配がした。背中越しでも感じる躊躇するような動きに香子は罪悪感を覚えた。
二神は寝室から出、少しの間居間にいたようだがまた扉の開く音がした。どうやら室から出て行ったらしい。
香子はそこでやっと息をつく。
そして、「おなかすいたなぁ……」と呟いた。
体が動かなくて、おなかがすいていて、そばに誰もいなくて。
「どーしよ……」
自分が招いた結果なのだが、香子は途方に暮れた。
室の外に出た二神が香子と同じように途方に暮れているとも知らずに。
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