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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

1.髪の色が定着したようです

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 二神に抱かれている間に景山へ入る許可期間が過ぎてしまった。それに腹が立ってむーっとした顔をすれば二神は少しうろたえたようだった。そんな様子を見て「好きだな」と思うのだから香子も大概四神には甘いのかもしれない。
 また入山許可をもらえるかどうか黒月に尋ねれば白雲に聞いてくれたらしい。人づてというのは嫌だがその日は身体が動かなかったので仕方なかった。白雲は趙文英に聞いてくれたのだろう。その日中に返事はこないだろうと思っていたら夕食の前にしばらくは許可が下りないと知らされてがっかりした。

『詳しくは明日王英明が説明に参るそうですが……』

 白雲がそこまで言って視線を流す。その先にいた侍女頭がはっとするような顔をした。

『おそれながら……四神と共にいらっしゃれば大丈夫かと』

 その返答に白雲が頷いた。香子は首を傾げる。いったいなんのことだかさっぱりである。

『いつも通りでよかろう』

 朱雀が言い、黒月を見やる。黒月は目礼した。

(なんなんだろう……)

 こういう時聞いてもいいのかどうか悩む。傾げた首がそろそろ肩につきそうなのを見て玄武が柔らかく笑んだ。

『香子、そなたは我らと離れることはない』
『? はい』

 言い含めるような言い方に香子はよくわからないまま返事をする。

『なれば知る必要はない』
『……わかりました』

 ようは四神から万が一離れることがない限り香子が気にすることではないらしい。

(四神から離れるねぇ……)

 実際全く考えられない事柄だと思う。
 それは香子の気持ちの上だけではなく、香子が四神の花嫁である限りありえないことである。今のところ一人でいられる空間といえば四神宮に与えられた自分の部屋だけで。しかも四神宮から一歩でも表に出る時は必ず四神に抱き上げられての移動になる。

(そのうち自力で歩けなくなったりして)

 ありえそうな未来予測に香子はこっそり嘆息した。


 その夜香子はまた二神に抱かれた。もう四神に抱かれてから休むものと決まっているようだ。
 しかもなんだか抱かれる度に快感が増しているような気がするのが困る。
 だが眠りにつく前に朱雀が香子の髪をいじりながら、『やっと定着したようだ』と嬉しそうに言っていたのを聞いて助かったと思った。あんな熱をずっと受け続けていたら頭がおかしくなってしまいそうだったから。
 翌朝は王英明から話を聞くということで手加減してくれたらしい。

(もっと手加減してほしい……)

 毎朝うまく動かない体にげんなりしつつ、香子は切実に思うのだった。


老佛爷ラオフオイエ(皇太后)?』

 そういえば先日西の地にいる皇太后がやってくるというようなことを聞いたような気がした。

(西の地の皇太后も『老佛爷』って呼ばれてるんだっけ……)

 老佛爷と言われると清代の皇帝、もしくは西太后の呼び名かと思う。つまりは皇帝と同等と言われるほどの女傑を香子はイメージしてしまう。

『はい、老佛爷がおいでになるので王城の者たちはその準備に追われております。花嫁様には不便をおかけしますこと誠に申し訳ありません』
『まぁ、そういうことならいいです』

 恐縮されるほどのことでもない。香子としては暇つぶしと気分転換で景山に行けたらいいなというぐらいである。ただ、暇などと言おうものならベッドから出してもらえなさそうな気がするので絶対に口にはできないが。

『代わりに御花園にご案内はできますが如何いたしましょう』
『あ、行きますいきます』

 香子は王英明からの提案に即答した。
 御花園とは王城の中庭である。

『ただ……ご案内できますのが辰の三刻から四刻のみとなりますが……』
(ぐえ……朝八時から一時間てとこかー……)

 朝議の時間も関係してくるのだろうかと香子は考える。大体朝議といえばほぼ日の出から始まり午前中のうちに終るのだろうと香子は認識している。本来王英明もその時間は朝議に出なくてはならないはずだろうが、朝議の中でそこが一番問題ない時間なのかもしれなかった。

『それっていつまでとか決まってますか?』

 聞くと王は少し考えるような顔をした。

『……具体的にはいつまで、とはお答えしかねます。ですが皇太后がおいでになりましたらご案内はできなくなります』

 なるほど、と香子は頷いた。忙しくなるというのもあるだろうが、皇帝は四神と花嫁を誰の目にも止めたくないらしい。

『わかりました。では行きたい時は声をかけさせます』
『ご厚情に感謝いたします』

 謁見の間を後にして香子は皇太后の人となりを想像したが、なんだか嫌な予感しかしなかった。
 皇太后が王城に訪れる二週間ほど前のことである。
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