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第4部 四神を愛しなさいと言われました
68.青龍の領地へ向かう前の準備をするのです
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明日は青龍の領地へ向かうことが決まっている。
本当に丸一日、文字通り二十四時間抱かれて死んだように眠り、やっと香子の腹が満たされたところだ。前回もそうだったが、一日ワープしているのが不思議であった。
皇帝からの文だそうです、と白雲が趙文英から受け取ってきた。趙には本当に苦労をかけているなと香子は同情する。少しは楽しみもあるといいのだが。
と、そんな他人のことを考えている余裕は香子にはなかった。皇太后から、香子宛に手紙も届いていたらしい。
青龍の領地から戻ったら一度顔を出せとのことだった。
『戻り次第また連絡しますと返事を書いておいて』
『かしこまりました』
延夕玲に返事の文を頼んだ。皇太后も正月が明けて退屈しているのだろう。土産話を持っていったら喜んでくれるかもしれない。
『……お土産が必要よね』
しかし上海辺りのお土産だと何があるのだろうか。蘇州杭州が近いといえば近い。そうなるとお茶だろうかと香子は首を傾げた。
杭州の有名なお茶と言えば龍井(緑茶)であり、蘇州であれば碧螺春(緑茶)である。時期的に新茶はまだだが、今の時期でも手に入るだろうかと香子は首を傾げた。
とはいえ、ここは王城である。
国内のありとあらゆるものが集まってくる場所だ。
龍井も碧螺春も中国十大銘茶として名高い。わざわざ現地に行って買わなくてもいいものが届けられているだろう。
(でもなぁ、キーマンティーの質の悪いのを出されたこともあるしなぁ……)
香子はけっこうあの時のことを根に持っていた。確か皇帝の侍女が質の悪い祁門紅(キーマンティー)を香子に淹れたのだ。あれは皇帝の指示だったのだろうと香子は思っている。やはり皇帝のことは嫌いだと改めて香子は思った。(第一部87話参照)
そんなことより今夜も玄武が迎えにきた。
丸一日たっぷりと愛されたはずだが、玄武も朱雀も香子を抱かないという選択肢はないらしい。
(よく飽きないよね……)
薄絹の睡衣はうっすらと身体の線が見えてしまう程に薄い。そんな恰好で玄武に抱き上げられるのだ。香子は頬が熱くなるのを感じた。
(私も……慣れないものだわ)
恥ずかしい。でも嬉しい。玄武の緑の瞳が、香子を愛しくてならないと語っているようだった。
『玄武様』
『如何か』
『明日は青龍様の領地に向かいますから、その……』
『わかっている』
玄武の口元が笑みをはいた。それだけで香子はノックアウトである。玄武の心地いいバリトンとか、どこまでも麗しい容姿とか、香子を抱き上げてもびくともしない逞しさに香子がかなうわけはなかった。
ほう……と香子は息を吐いた。
目を覚ました時、朱雀の腕の中であった。無意識で逞しい胸に頭をすり寄せる。
四神というのは香子に会う前まではほぼ寝て過ごしていたようなことを聞いていたのだが、何故こんなに逞しく香子の好みの身体をしているのだろう。神様も身体を鍛えたりしているのだろうかとか、どうでもいいことをつい香子は考えてしまった。
『香子、如何した?』
ククッと笑うような声が届き、香子ははっとした。どうしてか、朱雀の胸を香子は撫でまわしていた。
(はっ、いけないいけない)
これでは痴女ではないかと香子は手を引っ込めようとしたが、その手は朱雀の大きな手にやんわりと掴まれてしまった。そして指に口づけられる。
(はううっ)
『悪い手だな』
『そ、そうでしょうか……』
『そうでもない。だが今日は出かけるのだろう。誘ってはならぬのではないか?』
『さ、誘ってなんて……』
香子は頬がどんどん熱くなるのを感じた。ちょうどそこでおなかがぐううう~~と音を立てたので、色は一気に霧散した。
朱雀と玄武が笑う。それはそれで恥ずかしいのだが、香子はほっとしたのだった。
朝食を終え、身支度を整える。香子の衣裳は青龍の領地にも揃っているそうなので特に持ち物もない。
青藍は些か機嫌が悪そうだったがそれはしょうがない。夕玲を今回連れて行くわけにはいかないからだ。黒月は今回も連れていけないので、思いっきり不満そうなオーラを全身から漂わせていた。
前回朱雀の領地へ向かった際、紅夏は付いてこなかったが、青藍は共に向かうそうだ。違いはなんだろうと聞いてみた。
『……先代の花嫁さまは青龍様と共に身罷られました。それを目の当たりにした者が領地にはまだ多くいるのです。ですので、花嫁さまを一目見たいと思う眷属は多いかと』
何が起こるかわからないからということらしい。
(そういえば、そうだったよね)
先代の花嫁は夫が己より先に逝くのが耐えられず、先代の青龍と共に身罷った。確かに香子もそんなつらい思いはしたくないと思う。
だからこそ天皇と渡りをつけたいのだ。
欲張りと言われても、香子は四神と最後まで一緒にいたい。
それぐらい望む権利はあるはずだ。
『香子』
青龍に抱き上げられる。共に跳ぶ為に、青藍は青龍に掴まった。そうでないと青藍は領地まで自力で走らないといけない。それはすごいスピードで駆けるのだが、一緒に行けるなら行った方がいいだろう。
玄武と朱雀が青龍の両脇につく。
みなに見送られて、香子は青龍の領地へと跳んだのだった。
本当に丸一日、文字通り二十四時間抱かれて死んだように眠り、やっと香子の腹が満たされたところだ。前回もそうだったが、一日ワープしているのが不思議であった。
皇帝からの文だそうです、と白雲が趙文英から受け取ってきた。趙には本当に苦労をかけているなと香子は同情する。少しは楽しみもあるといいのだが。
と、そんな他人のことを考えている余裕は香子にはなかった。皇太后から、香子宛に手紙も届いていたらしい。
青龍の領地から戻ったら一度顔を出せとのことだった。
『戻り次第また連絡しますと返事を書いておいて』
『かしこまりました』
延夕玲に返事の文を頼んだ。皇太后も正月が明けて退屈しているのだろう。土産話を持っていったら喜んでくれるかもしれない。
『……お土産が必要よね』
しかし上海辺りのお土産だと何があるのだろうか。蘇州杭州が近いといえば近い。そうなるとお茶だろうかと香子は首を傾げた。
杭州の有名なお茶と言えば龍井(緑茶)であり、蘇州であれば碧螺春(緑茶)である。時期的に新茶はまだだが、今の時期でも手に入るだろうかと香子は首を傾げた。
とはいえ、ここは王城である。
国内のありとあらゆるものが集まってくる場所だ。
龍井も碧螺春も中国十大銘茶として名高い。わざわざ現地に行って買わなくてもいいものが届けられているだろう。
(でもなぁ、キーマンティーの質の悪いのを出されたこともあるしなぁ……)
香子はけっこうあの時のことを根に持っていた。確か皇帝の侍女が質の悪い祁門紅(キーマンティー)を香子に淹れたのだ。あれは皇帝の指示だったのだろうと香子は思っている。やはり皇帝のことは嫌いだと改めて香子は思った。(第一部87話参照)
そんなことより今夜も玄武が迎えにきた。
丸一日たっぷりと愛されたはずだが、玄武も朱雀も香子を抱かないという選択肢はないらしい。
(よく飽きないよね……)
薄絹の睡衣はうっすらと身体の線が見えてしまう程に薄い。そんな恰好で玄武に抱き上げられるのだ。香子は頬が熱くなるのを感じた。
(私も……慣れないものだわ)
恥ずかしい。でも嬉しい。玄武の緑の瞳が、香子を愛しくてならないと語っているようだった。
『玄武様』
『如何か』
『明日は青龍様の領地に向かいますから、その……』
『わかっている』
玄武の口元が笑みをはいた。それだけで香子はノックアウトである。玄武の心地いいバリトンとか、どこまでも麗しい容姿とか、香子を抱き上げてもびくともしない逞しさに香子がかなうわけはなかった。
ほう……と香子は息を吐いた。
目を覚ました時、朱雀の腕の中であった。無意識で逞しい胸に頭をすり寄せる。
四神というのは香子に会う前まではほぼ寝て過ごしていたようなことを聞いていたのだが、何故こんなに逞しく香子の好みの身体をしているのだろう。神様も身体を鍛えたりしているのだろうかとか、どうでもいいことをつい香子は考えてしまった。
『香子、如何した?』
ククッと笑うような声が届き、香子ははっとした。どうしてか、朱雀の胸を香子は撫でまわしていた。
(はっ、いけないいけない)
これでは痴女ではないかと香子は手を引っ込めようとしたが、その手は朱雀の大きな手にやんわりと掴まれてしまった。そして指に口づけられる。
(はううっ)
『悪い手だな』
『そ、そうでしょうか……』
『そうでもない。だが今日は出かけるのだろう。誘ってはならぬのではないか?』
『さ、誘ってなんて……』
香子は頬がどんどん熱くなるのを感じた。ちょうどそこでおなかがぐううう~~と音を立てたので、色は一気に霧散した。
朱雀と玄武が笑う。それはそれで恥ずかしいのだが、香子はほっとしたのだった。
朝食を終え、身支度を整える。香子の衣裳は青龍の領地にも揃っているそうなので特に持ち物もない。
青藍は些か機嫌が悪そうだったがそれはしょうがない。夕玲を今回連れて行くわけにはいかないからだ。黒月は今回も連れていけないので、思いっきり不満そうなオーラを全身から漂わせていた。
前回朱雀の領地へ向かった際、紅夏は付いてこなかったが、青藍は共に向かうそうだ。違いはなんだろうと聞いてみた。
『……先代の花嫁さまは青龍様と共に身罷られました。それを目の当たりにした者が領地にはまだ多くいるのです。ですので、花嫁さまを一目見たいと思う眷属は多いかと』
何が起こるかわからないからということらしい。
(そういえば、そうだったよね)
先代の花嫁は夫が己より先に逝くのが耐えられず、先代の青龍と共に身罷った。確かに香子もそんなつらい思いはしたくないと思う。
だからこそ天皇と渡りをつけたいのだ。
欲張りと言われても、香子は四神と最後まで一緒にいたい。
それぐらい望む権利はあるはずだ。
『香子』
青龍に抱き上げられる。共に跳ぶ為に、青藍は青龍に掴まった。そうでないと青藍は領地まで自力で走らないといけない。それはすごいスピードで駆けるのだが、一緒に行けるなら行った方がいいだろう。
玄武と朱雀が青龍の両脇につく。
みなに見送られて、香子は青龍の領地へと跳んだのだった。
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