520 / 597
第4部 四神を愛しなさいと言われました
68.青龍の領地へ向かう前の準備をするのです
しおりを挟む
明日は青龍の領地へ向かうことが決まっている。
本当に丸一日、文字通り二十四時間抱かれて死んだように眠り、やっと香子の腹が満たされたところだ。前回もそうだったが、一日ワープしているのが不思議であった。
皇帝からの文だそうです、と白雲が趙文英から受け取ってきた。趙には本当に苦労をかけているなと香子は同情する。少しは楽しみもあるといいのだが。
と、そんな他人のことを考えている余裕は香子にはなかった。皇太后から、香子宛に手紙も届いていたらしい。
青龍の領地から戻ったら一度顔を出せとのことだった。
『戻り次第また連絡しますと返事を書いておいて』
『かしこまりました』
延夕玲に返事の文を頼んだ。皇太后も正月が明けて退屈しているのだろう。土産話を持っていったら喜んでくれるかもしれない。
『……お土産が必要よね』
しかし上海辺りのお土産だと何があるのだろうか。蘇州杭州が近いといえば近い。そうなるとお茶だろうかと香子は首を傾げた。
杭州の有名なお茶と言えば龍井(緑茶)であり、蘇州であれば碧螺春(緑茶)である。時期的に新茶はまだだが、今の時期でも手に入るだろうかと香子は首を傾げた。
とはいえ、ここは王城である。
国内のありとあらゆるものが集まってくる場所だ。
龍井も碧螺春も中国十大銘茶として名高い。わざわざ現地に行って買わなくてもいいものが届けられているだろう。
(でもなぁ、キーマンティーの質の悪いのを出されたこともあるしなぁ……)
香子はけっこうあの時のことを根に持っていた。確か皇帝の侍女が質の悪い祁門紅(キーマンティー)を香子に淹れたのだ。あれは皇帝の指示だったのだろうと香子は思っている。やはり皇帝のことは嫌いだと改めて香子は思った。(第一部87話参照)
そんなことより今夜も玄武が迎えにきた。
丸一日たっぷりと愛されたはずだが、玄武も朱雀も香子を抱かないという選択肢はないらしい。
(よく飽きないよね……)
薄絹の睡衣はうっすらと身体の線が見えてしまう程に薄い。そんな恰好で玄武に抱き上げられるのだ。香子は頬が熱くなるのを感じた。
(私も……慣れないものだわ)
恥ずかしい。でも嬉しい。玄武の緑の瞳が、香子を愛しくてならないと語っているようだった。
『玄武様』
『如何か』
『明日は青龍様の領地に向かいますから、その……』
『わかっている』
玄武の口元が笑みをはいた。それだけで香子はノックアウトである。玄武の心地いいバリトンとか、どこまでも麗しい容姿とか、香子を抱き上げてもびくともしない逞しさに香子がかなうわけはなかった。
ほう……と香子は息を吐いた。
目を覚ました時、朱雀の腕の中であった。無意識で逞しい胸に頭をすり寄せる。
四神というのは香子に会う前まではほぼ寝て過ごしていたようなことを聞いていたのだが、何故こんなに逞しく香子の好みの身体をしているのだろう。神様も身体を鍛えたりしているのだろうかとか、どうでもいいことをつい香子は考えてしまった。
『香子、如何した?』
ククッと笑うような声が届き、香子ははっとした。どうしてか、朱雀の胸を香子は撫でまわしていた。
(はっ、いけないいけない)
これでは痴女ではないかと香子は手を引っ込めようとしたが、その手は朱雀の大きな手にやんわりと掴まれてしまった。そして指に口づけられる。
(はううっ)
『悪い手だな』
『そ、そうでしょうか……』
『そうでもない。だが今日は出かけるのだろう。誘ってはならぬのではないか?』
『さ、誘ってなんて……』
香子は頬がどんどん熱くなるのを感じた。ちょうどそこでおなかがぐううう~~と音を立てたので、色は一気に霧散した。
朱雀と玄武が笑う。それはそれで恥ずかしいのだが、香子はほっとしたのだった。
朝食を終え、身支度を整える。香子の衣裳は青龍の領地にも揃っているそうなので特に持ち物もない。
青藍は些か機嫌が悪そうだったがそれはしょうがない。夕玲を今回連れて行くわけにはいかないからだ。黒月は今回も連れていけないので、思いっきり不満そうなオーラを全身から漂わせていた。
前回朱雀の領地へ向かった際、紅夏は付いてこなかったが、青藍は共に向かうそうだ。違いはなんだろうと聞いてみた。
『……先代の花嫁さまは青龍様と共に身罷られました。それを目の当たりにした者が領地にはまだ多くいるのです。ですので、花嫁さまを一目見たいと思う眷属は多いかと』
何が起こるかわからないからということらしい。
(そういえば、そうだったよね)
先代の花嫁は夫が己より先に逝くのが耐えられず、先代の青龍と共に身罷った。確かに香子もそんなつらい思いはしたくないと思う。
だからこそ天皇と渡りをつけたいのだ。
欲張りと言われても、香子は四神と最後まで一緒にいたい。
それぐらい望む権利はあるはずだ。
『香子』
青龍に抱き上げられる。共に跳ぶ為に、青藍は青龍に掴まった。そうでないと青藍は領地まで自力で走らないといけない。それはすごいスピードで駆けるのだが、一緒に行けるなら行った方がいいだろう。
玄武と朱雀が青龍の両脇につく。
みなに見送られて、香子は青龍の領地へと跳んだのだった。
本当に丸一日、文字通り二十四時間抱かれて死んだように眠り、やっと香子の腹が満たされたところだ。前回もそうだったが、一日ワープしているのが不思議であった。
皇帝からの文だそうです、と白雲が趙文英から受け取ってきた。趙には本当に苦労をかけているなと香子は同情する。少しは楽しみもあるといいのだが。
と、そんな他人のことを考えている余裕は香子にはなかった。皇太后から、香子宛に手紙も届いていたらしい。
青龍の領地から戻ったら一度顔を出せとのことだった。
『戻り次第また連絡しますと返事を書いておいて』
『かしこまりました』
延夕玲に返事の文を頼んだ。皇太后も正月が明けて退屈しているのだろう。土産話を持っていったら喜んでくれるかもしれない。
『……お土産が必要よね』
しかし上海辺りのお土産だと何があるのだろうか。蘇州杭州が近いといえば近い。そうなるとお茶だろうかと香子は首を傾げた。
杭州の有名なお茶と言えば龍井(緑茶)であり、蘇州であれば碧螺春(緑茶)である。時期的に新茶はまだだが、今の時期でも手に入るだろうかと香子は首を傾げた。
とはいえ、ここは王城である。
国内のありとあらゆるものが集まってくる場所だ。
龍井も碧螺春も中国十大銘茶として名高い。わざわざ現地に行って買わなくてもいいものが届けられているだろう。
(でもなぁ、キーマンティーの質の悪いのを出されたこともあるしなぁ……)
香子はけっこうあの時のことを根に持っていた。確か皇帝の侍女が質の悪い祁門紅(キーマンティー)を香子に淹れたのだ。あれは皇帝の指示だったのだろうと香子は思っている。やはり皇帝のことは嫌いだと改めて香子は思った。(第一部87話参照)
そんなことより今夜も玄武が迎えにきた。
丸一日たっぷりと愛されたはずだが、玄武も朱雀も香子を抱かないという選択肢はないらしい。
(よく飽きないよね……)
薄絹の睡衣はうっすらと身体の線が見えてしまう程に薄い。そんな恰好で玄武に抱き上げられるのだ。香子は頬が熱くなるのを感じた。
(私も……慣れないものだわ)
恥ずかしい。でも嬉しい。玄武の緑の瞳が、香子を愛しくてならないと語っているようだった。
『玄武様』
『如何か』
『明日は青龍様の領地に向かいますから、その……』
『わかっている』
玄武の口元が笑みをはいた。それだけで香子はノックアウトである。玄武の心地いいバリトンとか、どこまでも麗しい容姿とか、香子を抱き上げてもびくともしない逞しさに香子がかなうわけはなかった。
ほう……と香子は息を吐いた。
目を覚ました時、朱雀の腕の中であった。無意識で逞しい胸に頭をすり寄せる。
四神というのは香子に会う前まではほぼ寝て過ごしていたようなことを聞いていたのだが、何故こんなに逞しく香子の好みの身体をしているのだろう。神様も身体を鍛えたりしているのだろうかとか、どうでもいいことをつい香子は考えてしまった。
『香子、如何した?』
ククッと笑うような声が届き、香子ははっとした。どうしてか、朱雀の胸を香子は撫でまわしていた。
(はっ、いけないいけない)
これでは痴女ではないかと香子は手を引っ込めようとしたが、その手は朱雀の大きな手にやんわりと掴まれてしまった。そして指に口づけられる。
(はううっ)
『悪い手だな』
『そ、そうでしょうか……』
『そうでもない。だが今日は出かけるのだろう。誘ってはならぬのではないか?』
『さ、誘ってなんて……』
香子は頬がどんどん熱くなるのを感じた。ちょうどそこでおなかがぐううう~~と音を立てたので、色は一気に霧散した。
朱雀と玄武が笑う。それはそれで恥ずかしいのだが、香子はほっとしたのだった。
朝食を終え、身支度を整える。香子の衣裳は青龍の領地にも揃っているそうなので特に持ち物もない。
青藍は些か機嫌が悪そうだったがそれはしょうがない。夕玲を今回連れて行くわけにはいかないからだ。黒月は今回も連れていけないので、思いっきり不満そうなオーラを全身から漂わせていた。
前回朱雀の領地へ向かった際、紅夏は付いてこなかったが、青藍は共に向かうそうだ。違いはなんだろうと聞いてみた。
『……先代の花嫁さまは青龍様と共に身罷られました。それを目の当たりにした者が領地にはまだ多くいるのです。ですので、花嫁さまを一目見たいと思う眷属は多いかと』
何が起こるかわからないからということらしい。
(そういえば、そうだったよね)
先代の花嫁は夫が己より先に逝くのが耐えられず、先代の青龍と共に身罷った。確かに香子もそんなつらい思いはしたくないと思う。
だからこそ天皇と渡りをつけたいのだ。
欲張りと言われても、香子は四神と最後まで一緒にいたい。
それぐらい望む権利はあるはずだ。
『香子』
青龍に抱き上げられる。共に跳ぶ為に、青藍は青龍に掴まった。そうでないと青藍は領地まで自力で走らないといけない。それはすごいスピードで駆けるのだが、一緒に行けるなら行った方がいいだろう。
玄武と朱雀が青龍の両脇につく。
みなに見送られて、香子は青龍の領地へと跳んだのだった。
24
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる