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第1部 四神と結婚しろと言われました
153.この愛しさを(玄武視点) ※R13
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入浴を終えた頃を見計らって、玄武は部屋に香子を迎えに行った。
入口を守る黒月がすっと扉を開く。居間にはその姿はなかったので寝室に足を向けた。
『香子』
寝台に所在なく腰掛ける香子に声をかけると、びくりとその体が揺れ、顔が上がった。
『玄武様……』
香子の頬はほんのりと赤く上気していた。玄武をひどく意識しているのだろうその無意識の反応を心地よく感じる。
寝台の横に立ち香子を抱き上げると、何故か彼女はガウンの合わせ目をぎゅっと押さえた。その所作に興味を覚えて、
『香子、どうしたのだ?』
と声をかければまたびくりとその身を震わせる。
『……なんでもない、です』
明らかに挙動不審だったがどうせその中身は暴かれる運命にあるのだ。玄武は口端を面白そうにくっと上げるとそのまま部屋を出、己の室に向かった。香子は恥ずかしそうに玄武の胸に顔を埋める。そんな仕草にも愛しさを覚えてつい速足になってしまった。
己の室の扉を開き居間の部分を通りすぎて寝室に入る。その扉を閉めたところで『香子』と声をかけて顔を上げさせ、何事かと問いかけるように半開きになった唇に口づけた。
「……んっ……」
唇を合わせ、優しく香子の唇を舐める。ふるり、と震える小さな体がひどく愛おしい。香子が感じはじめるとこの国の言葉を使えなくなる。彼女は覚えていないようだが、彼女が母国語を使う時その感情が流れてくる。それは大体こういう時であるから、玄武も朱雀もその甘美な感情に酔ってしまうことを香子は知らない。
そうして開きかけた唇の間にするりと舌を差し込んだ。少し引けている舌を絡め取ると、
「んんっ……」
と甘い声が漏れた。
流れ込んでくる感情のなんと甘いことか。
もっと感じさせたくて舌をキュッと吸えばびくびくとその身を震わせる。口づけだけでこんなに感じ、我らを夢中にさせてどうするのだろうかと玄武は思う。
キュッキュッと吸いながらガウンの合わせ目を押さえる手をそっと外した。するとふっとぼやけた感情が霧散した。
「ふ……んんっ……!」
どうしてもガウンの中身を見せたくないらしい。口づけを受けながら玄武の手を払い落そうとする姿は必死だった。そのまま無視して床に押し倒してもよかったが、まだ玄武は冷静だったので仕方なく口づけを解いた。
『……香子』
「はぁ……」
ほっとしたように香子は悩ましいため息をついた。まだ玄武は香子を抱き上げた格好のままである。
香子は自分の置かれた状況を思い出したのか頬を染めて玄武を見た。そして何かとんでもない物を見たかのように体を固くした。
共にいて目が合った時、香子はよくこういう状態になる。
そんなに怖い顔をしているのだろうかと玄武は不思議に思う。ただ香子は玄武以外の四神と目が合った時なども同じように固まり赤くなるのでよくわからなかった。
『あ、あのっ……! 玄武様はお風呂とかって普段はどうしているんですか!?』
玄武は目を丸くした。本当に香子は面白い。
『……普段、というと領地では、ということでいいのか?』
『はいっ!』
好奇心が強いのは悪いことではないと玄武は思う。
『我は……風呂というより水の中にいることが多いな……』
その答えに香子はああ、と納得したような顔をしたが、また疑問が頭をもたげたらしい。
『それって……人の姿でいるわけではないのですか?』
『そうだな……一日の大半は人の姿ではなかったな』
やっぱり、と香子の顔が言っていた。
『でも今は人の姿でずっといるわけでしょう? たいへんではないのですか?』
少し心配そうな色を浮かべて言うのが愛らしいと思う。玄武は笑みを浮かべた。
今まで己をこんな風に心配する者などいなかった。だから香子はとても面白いと思う。
香子にとって四神は神ではないのだ。
だから。
『たいへんではない。そなたが共にあるならば』
そう言うと、香子は一瞬ぽかんとした表情を浮かべ、そして真っ赤になった。
いつまでもそのままでいてほしい。
玄武が寝室の扉を見やると、その扉が開いた。
朱雀だった。
そして玄武は香子をそっと床に下ろし、再び優しく口づけた。
今は朱雀と共にでもいい。だができれば己を選んでほしいと玄武は切に願った。
入口を守る黒月がすっと扉を開く。居間にはその姿はなかったので寝室に足を向けた。
『香子』
寝台に所在なく腰掛ける香子に声をかけると、びくりとその体が揺れ、顔が上がった。
『玄武様……』
香子の頬はほんのりと赤く上気していた。玄武をひどく意識しているのだろうその無意識の反応を心地よく感じる。
寝台の横に立ち香子を抱き上げると、何故か彼女はガウンの合わせ目をぎゅっと押さえた。その所作に興味を覚えて、
『香子、どうしたのだ?』
と声をかければまたびくりとその身を震わせる。
『……なんでもない、です』
明らかに挙動不審だったがどうせその中身は暴かれる運命にあるのだ。玄武は口端を面白そうにくっと上げるとそのまま部屋を出、己の室に向かった。香子は恥ずかしそうに玄武の胸に顔を埋める。そんな仕草にも愛しさを覚えてつい速足になってしまった。
己の室の扉を開き居間の部分を通りすぎて寝室に入る。その扉を閉めたところで『香子』と声をかけて顔を上げさせ、何事かと問いかけるように半開きになった唇に口づけた。
「……んっ……」
唇を合わせ、優しく香子の唇を舐める。ふるり、と震える小さな体がひどく愛おしい。香子が感じはじめるとこの国の言葉を使えなくなる。彼女は覚えていないようだが、彼女が母国語を使う時その感情が流れてくる。それは大体こういう時であるから、玄武も朱雀もその甘美な感情に酔ってしまうことを香子は知らない。
そうして開きかけた唇の間にするりと舌を差し込んだ。少し引けている舌を絡め取ると、
「んんっ……」
と甘い声が漏れた。
流れ込んでくる感情のなんと甘いことか。
もっと感じさせたくて舌をキュッと吸えばびくびくとその身を震わせる。口づけだけでこんなに感じ、我らを夢中にさせてどうするのだろうかと玄武は思う。
キュッキュッと吸いながらガウンの合わせ目を押さえる手をそっと外した。するとふっとぼやけた感情が霧散した。
「ふ……んんっ……!」
どうしてもガウンの中身を見せたくないらしい。口づけを受けながら玄武の手を払い落そうとする姿は必死だった。そのまま無視して床に押し倒してもよかったが、まだ玄武は冷静だったので仕方なく口づけを解いた。
『……香子』
「はぁ……」
ほっとしたように香子は悩ましいため息をついた。まだ玄武は香子を抱き上げた格好のままである。
香子は自分の置かれた状況を思い出したのか頬を染めて玄武を見た。そして何かとんでもない物を見たかのように体を固くした。
共にいて目が合った時、香子はよくこういう状態になる。
そんなに怖い顔をしているのだろうかと玄武は不思議に思う。ただ香子は玄武以外の四神と目が合った時なども同じように固まり赤くなるのでよくわからなかった。
『あ、あのっ……! 玄武様はお風呂とかって普段はどうしているんですか!?』
玄武は目を丸くした。本当に香子は面白い。
『……普段、というと領地では、ということでいいのか?』
『はいっ!』
好奇心が強いのは悪いことではないと玄武は思う。
『我は……風呂というより水の中にいることが多いな……』
その答えに香子はああ、と納得したような顔をしたが、また疑問が頭をもたげたらしい。
『それって……人の姿でいるわけではないのですか?』
『そうだな……一日の大半は人の姿ではなかったな』
やっぱり、と香子の顔が言っていた。
『でも今は人の姿でずっといるわけでしょう? たいへんではないのですか?』
少し心配そうな色を浮かべて言うのが愛らしいと思う。玄武は笑みを浮かべた。
今まで己をこんな風に心配する者などいなかった。だから香子はとても面白いと思う。
香子にとって四神は神ではないのだ。
だから。
『たいへんではない。そなたが共にあるならば』
そう言うと、香子は一瞬ぽかんとした表情を浮かべ、そして真っ赤になった。
いつまでもそのままでいてほしい。
玄武が寝室の扉を見やると、その扉が開いた。
朱雀だった。
そして玄武は香子をそっと床に下ろし、再び優しく口づけた。
今は朱雀と共にでもいい。だができれば己を選んでほしいと玄武は切に願った。
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