519 / 608
第4部 四神を愛しなさいと言われました
67.おいしいものを食べるのは至福なのです(現実逃避)
しおりを挟む
丸一日で済むのだろうかと、香子は冷汗が止まらなかった。
(も~力の譲渡とかってなんなのよ! 本当にそれが必要かどうかなんて私にはわからないし!)
しかしそれが口実だとしたら、四神は香子をただひたすらに抱きたいということだけが残るわけで。どちらにせよ香子が身もだえるのは変わらないらしかった。
(やっぱり、嫁いだらベッドから出られる気がしない……)
そう考えると、やりたいことはここにいる間にやるしかないと香子は思うのだ。
今夜から一晩青龍たちに抱かれて、翌日も目覚めるのは夕方だろう。夕飯を食べて玄武と朱雀に抱かれて、とスケジュールを香子は考えてみた。
『ん? 三日後?』
首を傾げる。一日余る気がする。
『ああそうだ。今宵は本気で抱くからな』
青龍にそう言われて、香子はギギギと音がするようにぎこちなく青龍の方を見た。
『本気?』
『うむ。我との交わりは最低でも丸一日だと伝えたはずだ』
そんな当たり前のように言わないでほしいと香子は思う。ということは、今までのことはなんだったのか。これまでだって一日は潰れていたではないか。
『……確認をさせてください。では今までは、なんだったのですか?』
『半日だな』
『えええええ!?』
聞きたくはなかった。そんなこと、香子は知りたくもなかった。確かに以前そんなようなことを言っていた気がする。だが香子はしっかり忘れていた。
『……そんなことをされたら私、死んでしまいます』
二十四時間も抱かれ続けたら空腹と睡眠不足で死ぬ、と香子は青龍を睨んだ。
『死なぬ』
そういうことじゃなくて、と香子は思う。青龍の言う丸一日はとても無理だ。身体が持たない。
『じゃあこう言いましょう。そんなきついの嫌です』
『出会った頃であれば不可能であったやもしれぬが、そなたの身体は耐えられるよう変わっている。問題はない』
『……でも、ごはん』
どこまでも香子は香子だった。
『途中で飲み物と食べ物を用意しよう。今宵から明日の夜までだ。それは譲れない』
青龍はきっぱりと答えた。
『そんなー……』
香子は心底止めると言いたかった。実際に言葉が喉元まで出かかったが、それはあまりにも無責任だろうと飲み込んだのだ。
『香子、それが最善だ』
渋る香子の手を、青龍がやんわりと捕らえ、口づけを落とした。香子は途端に頬を染める。メンクイな己を香子は呪うことしかできなかった。
『香子、頼む。優しくする……』
縋られたら、逆らうことなんてできるはずがなかった。
……ええ、チョロインですよ。文句あっか。
散々抱き潰されて、香子はやさぐれていた。何が力の譲渡だと、もう全てを呪いたくなっていた。
確かにところどころ記憶はあり、水分も食べ物も口にしていたことは香子もわかっている。しかし夜から次の夜まで愛されて、これでやっと終わったの? と意識を失った後に気が付いた。
次に目覚めた時、四神宮の厨師たちが働いている時間なのかと。
『おなかすいたぁ……』
あまりの空腹に指先一つ動かすこともできず、香子は泣いていた。
青龍に優しく抱き起こされ、どうにか白湯を飲む。そんな少しの白湯で足りるはずもなく、香子はまた泣いた。
『香子、もうすぐ来る。今しばらく……』
『青龍様の馬鹿あああ……』
そんなひどい空腹を覚えたのは初めてだった。青龍のたおやかな指すらおいしそうに見える。しかし香子は全く身体が動かせないのだ。こんなひどい話はなかった。
『これを』
干果(ドライフルーツ)を半開きの口に押し込まれた。香子はその指ごと必死にしゃぶった。なんならもうその指ごと食べてしまう勢いだった。
青龍が苦笑する。
『さすがに我も空腹だ』
香子はキッと青龍を睨みつけながら、料理が来るまでの間干果をしゃぶっていた。
そうしてやっと料理が運ばれてきた。青龍の室の居間の長椅子に移動する。香子はもちろん青龍の膝の上だ。今回は玄武と朱雀も共にいる。
青藍が先に厨房へ用意させていたらしく、前菜もそうだが肉包(肉まん)や春巻など腹に溜まりそうな物からどんどん用意される。味わうヒマもないぐらい次から次へと食べていく三神と香子の様子を見て、侍女は一瞬目を見張った。だが侍女たちもプロである。気づかれないように表情を戻し、空いた皿を片付け、料理を何度も運んだ。
『っはー……生き返った……』
酸辣湯(サンラータン)を飲み終えて、香子はようやくため息混じりに呟いた。酸辣湯は香子の好物である。黒酢と唐辛子で味付けしているスープはクセになる。具は卵、きくらげ、人参、豆腐など様々だ。最初は細切りの肉も入っていたが、香子ができれば肉は……というようなことを言ったら入らなくなった。改めて言うまでもないが、四神宮の料理は香子の為に作られているようだった。
『このスープ大好き。いくらでも飲めるわ……』
香子はやっと胃が落ち着いたことで、思わずそんなことを呟いてしまった。侍女がスッと席を外す。
そうしてから香子は気づいた。
『あ』
『我らも飲む故問題ないぞ』
朱雀にいたずらっ子のような笑みを浮かべられて、香子はやらかしたーと肩を落としたのだった。(スープのお代わりはしっかりたいらげた)
ーーーーー
エールとっても嬉しいです。ありがとうございまーす!
(も~力の譲渡とかってなんなのよ! 本当にそれが必要かどうかなんて私にはわからないし!)
しかしそれが口実だとしたら、四神は香子をただひたすらに抱きたいということだけが残るわけで。どちらにせよ香子が身もだえるのは変わらないらしかった。
(やっぱり、嫁いだらベッドから出られる気がしない……)
そう考えると、やりたいことはここにいる間にやるしかないと香子は思うのだ。
今夜から一晩青龍たちに抱かれて、翌日も目覚めるのは夕方だろう。夕飯を食べて玄武と朱雀に抱かれて、とスケジュールを香子は考えてみた。
『ん? 三日後?』
首を傾げる。一日余る気がする。
『ああそうだ。今宵は本気で抱くからな』
青龍にそう言われて、香子はギギギと音がするようにぎこちなく青龍の方を見た。
『本気?』
『うむ。我との交わりは最低でも丸一日だと伝えたはずだ』
そんな当たり前のように言わないでほしいと香子は思う。ということは、今までのことはなんだったのか。これまでだって一日は潰れていたではないか。
『……確認をさせてください。では今までは、なんだったのですか?』
『半日だな』
『えええええ!?』
聞きたくはなかった。そんなこと、香子は知りたくもなかった。確かに以前そんなようなことを言っていた気がする。だが香子はしっかり忘れていた。
『……そんなことをされたら私、死んでしまいます』
二十四時間も抱かれ続けたら空腹と睡眠不足で死ぬ、と香子は青龍を睨んだ。
『死なぬ』
そういうことじゃなくて、と香子は思う。青龍の言う丸一日はとても無理だ。身体が持たない。
『じゃあこう言いましょう。そんなきついの嫌です』
『出会った頃であれば不可能であったやもしれぬが、そなたの身体は耐えられるよう変わっている。問題はない』
『……でも、ごはん』
どこまでも香子は香子だった。
『途中で飲み物と食べ物を用意しよう。今宵から明日の夜までだ。それは譲れない』
青龍はきっぱりと答えた。
『そんなー……』
香子は心底止めると言いたかった。実際に言葉が喉元まで出かかったが、それはあまりにも無責任だろうと飲み込んだのだ。
『香子、それが最善だ』
渋る香子の手を、青龍がやんわりと捕らえ、口づけを落とした。香子は途端に頬を染める。メンクイな己を香子は呪うことしかできなかった。
『香子、頼む。優しくする……』
縋られたら、逆らうことなんてできるはずがなかった。
……ええ、チョロインですよ。文句あっか。
散々抱き潰されて、香子はやさぐれていた。何が力の譲渡だと、もう全てを呪いたくなっていた。
確かにところどころ記憶はあり、水分も食べ物も口にしていたことは香子もわかっている。しかし夜から次の夜まで愛されて、これでやっと終わったの? と意識を失った後に気が付いた。
次に目覚めた時、四神宮の厨師たちが働いている時間なのかと。
『おなかすいたぁ……』
あまりの空腹に指先一つ動かすこともできず、香子は泣いていた。
青龍に優しく抱き起こされ、どうにか白湯を飲む。そんな少しの白湯で足りるはずもなく、香子はまた泣いた。
『香子、もうすぐ来る。今しばらく……』
『青龍様の馬鹿あああ……』
そんなひどい空腹を覚えたのは初めてだった。青龍のたおやかな指すらおいしそうに見える。しかし香子は全く身体が動かせないのだ。こんなひどい話はなかった。
『これを』
干果(ドライフルーツ)を半開きの口に押し込まれた。香子はその指ごと必死にしゃぶった。なんならもうその指ごと食べてしまう勢いだった。
青龍が苦笑する。
『さすがに我も空腹だ』
香子はキッと青龍を睨みつけながら、料理が来るまでの間干果をしゃぶっていた。
そうしてやっと料理が運ばれてきた。青龍の室の居間の長椅子に移動する。香子はもちろん青龍の膝の上だ。今回は玄武と朱雀も共にいる。
青藍が先に厨房へ用意させていたらしく、前菜もそうだが肉包(肉まん)や春巻など腹に溜まりそうな物からどんどん用意される。味わうヒマもないぐらい次から次へと食べていく三神と香子の様子を見て、侍女は一瞬目を見張った。だが侍女たちもプロである。気づかれないように表情を戻し、空いた皿を片付け、料理を何度も運んだ。
『っはー……生き返った……』
酸辣湯(サンラータン)を飲み終えて、香子はようやくため息混じりに呟いた。酸辣湯は香子の好物である。黒酢と唐辛子で味付けしているスープはクセになる。具は卵、きくらげ、人参、豆腐など様々だ。最初は細切りの肉も入っていたが、香子ができれば肉は……というようなことを言ったら入らなくなった。改めて言うまでもないが、四神宮の料理は香子の為に作られているようだった。
『このスープ大好き。いくらでも飲めるわ……』
香子はやっと胃が落ち着いたことで、思わずそんなことを呟いてしまった。侍女がスッと席を外す。
そうしてから香子は気づいた。
『あ』
『我らも飲む故問題ないぞ』
朱雀にいたずらっ子のような笑みを浮かべられて、香子はやらかしたーと肩を落としたのだった。(スープのお代わりはしっかりたいらげた)
ーーーーー
エールとっても嬉しいです。ありがとうございまーす!
33
お気に入りに追加
4,026
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。


完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)


玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
王様の恥かきっ娘
青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。
本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。
孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます
物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります
これもショートショートで書く予定です。
【完結】虐げられて自己肯定感を失った令嬢は、周囲からの愛を受け取れない
春風由実
恋愛
事情があって伯爵家で長く虐げられてきたオリヴィアは、公爵家に嫁ぐも、同じく虐げられる日々が続くものだと信じていた。
願わくば、公爵家では邪魔にならず、ひっそりと生かして貰えたら。
そんなオリヴィアの小さな願いを、夫となった公爵レオンは容赦なく打ち砕く。
※完結まで毎日1話更新します。最終話は2/15の投稿です。
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる