145 / 608
第1部 四神と結婚しろと言われました
145.色気より食い気なのです
しおりを挟む
昭正公主が己の勘違いからしてしまったことを後悔して青くなっている頃、香子は玄武と朱雀に食べられかけていた。
さすがに昼間から最後まで抱かれることはなかったし、朱雀に熱を与えられることもなかったが気持ちとしてはぐったりである。
(全然休めてない、休めてないよー……)
景山には行けることになった。ただ思ったよりも昼が近かったらしく、昼ごはんを食べてから出発することになった。
(もっと早く伝えればよかったなぁ)
人を使うことに慣れていない香子はすぐに申し訳なく思う。
そして与えられた快感にまだふわふわしている体を玄武に抱き上げられ、食堂に向かった。食堂ではすでに白虎と青龍がくつろいでいた。そんな姿を見るのは久しぶりのような気がする。実際は今朝も食堂ではないが顔を見たし、知り合った期間だってまだ短い。
(毎日が濃すぎだわ……)
この世界に来てからの日数を指折り数えてみると、実際今日で十日目か十一日目というところである。
『香子、如何した?』
椅子に下ろそうとした玄武がそれを見とがめた。
『あ、いえ……まだこちらに来てそんなに日が経ってないなと思いまして……』
それに玄武が柔らかく笑んだ。
(至近距離で微笑むの禁止ーーーー!!)
四神と知り合ってからやっと一週間といったところ。それなのにもう玄武と朱雀に想いを寄せ、身体まで重ねている自分に頭を抱えたくなる。
時間の流れが違うわけではない。ただ何もかもが目新しくて日々が濃密なのである。
玄武は名残惜しそうに香子を椅子に下ろし、
『そうだな』
と応えて隣に座った。その動きもスマートで、見ていると目を奪われてしまう。
それから玄武は香子に体を寄せ、『だが想いを返すには時間は関係ないだろう?』と囁いた。甘いバリトンに香子は一瞬ふるりと身を震わせた。顔が真っ赤になっているに違いないと香子は思う。
『……はい』
どうにか消え入りそうな声で返事をし、香子は両手で自分の両頬を包んだ。
顔は好みだし声もぞくぞくするぐらいいいし体格も素敵で、しかも自分にべた惚れなんてありえない。
(まるで醒めない夢を見ているみたい……)
そうぼんやりと思ってふふっと笑った。
その様子を四神や眷族はただ見守っている。本当は香子の思考も何もかも独占したいと四神は思っているのだが、その教育係に当たる眷族から”過ぎた干渉はうっとおしがられる”と言われているので耐えているのだった。けれど四神は基本あまり顔の表情が動かない為、まさかそんなことを彼らが考えているなんて香子は露ほども思っていなかった。
そうしている間に茶器にお茶を注がれ料理が運ばれてきた。
毎日料理人がいろんなものを作ってくれるので香子はうきうきである。
(ごはんがおいしいって幸せよね!)
今日の昼も豪華だった。その中に炸酱面と春巻が二種類あるのが目を引いた。
炸酱面といえば日本では盛岡が有名である。戦前旧満州に移住していた人が、日本に帰国して日本人の口に合うように作ったものが盛岡じゃじゃ麺である。韓国人の友人からは韓国にも炸酱面があると教えてもらった。国によってその口に合うように味付けは変わっているのだろうが同じ物があるというだけで親近感を覚えたりしたものである。
さて、中国の炸酱面は肉味噌にきゅうりの千切りや枝豆などが入っており(店による)、麺はかんすいを使っていないこしのないうどんのような麺が一般的である。日本のラーメンをイメージしているとがっかりする人も多いらしいが、香子はそれはそれで好きだった。
ただ肉味噌が飛ばないように食べるのが難しいと袖を押さえつつ、その日の昼食に舌鼓を打つ。次に狙うのは二種類の春巻である。
中華料理は全般的に好きだが、香子にとって春巻は特別な食べ物の一つだった。
香子の知る中華料理屋というのはラーメン屋ではなく、誕生日の時だけ連れて行ってもらえる本格的な中国料理のお店だった。香子の家では誰かの誕生日になると毎回同じお店に行って祝った。その店の春巻は上品で揚げたてで、一皿に五本しか乗っていなかった。香子の家族は四人家族だったから二本目は誕生日の人が食べることになっていた。あつあつの大きい一本の春巻をトマトケチャップにつけて食べる、というのが子どもの頃の香子にとってとんでもない贅沢だった。
それが中国に行ったら一本一元(約15円)で食べることができ、とにかく感動したものだった。
そんなわけで香子にとって春巻というのは高い物でもあり、また安い物でもある。
一皿に十本以上は載せられた春巻。一皿のはキレイに包まれており絵に描いたような狐色をしている。もう一皿は形があまり整っておらず物によっては端っこが焦げて黒くなっていた。おそらく前者は四神宮付の料理人が作り、後者は馬遼が作ってくれたのだろう。
香子は嬉しくて両方から一本ずつ取っていただいた。
(どちらも捨てがたい……)
高級な食材がふんだんに使われた春巻もおいしいが、もやし、にんじん、ピーマンなど庶民的な具材が詰め込まれている春巻もシャキシャキの歯ごたえが嬉しい。
そんなふうに思いながら食べていたせいか、ついつい食べ過ぎてしまった。
そんな香子をみな微笑ましそうに見ていたのに、もちろん彼女は気付いてはいなかった。
さすがに昼間から最後まで抱かれることはなかったし、朱雀に熱を与えられることもなかったが気持ちとしてはぐったりである。
(全然休めてない、休めてないよー……)
景山には行けることになった。ただ思ったよりも昼が近かったらしく、昼ごはんを食べてから出発することになった。
(もっと早く伝えればよかったなぁ)
人を使うことに慣れていない香子はすぐに申し訳なく思う。
そして与えられた快感にまだふわふわしている体を玄武に抱き上げられ、食堂に向かった。食堂ではすでに白虎と青龍がくつろいでいた。そんな姿を見るのは久しぶりのような気がする。実際は今朝も食堂ではないが顔を見たし、知り合った期間だってまだ短い。
(毎日が濃すぎだわ……)
この世界に来てからの日数を指折り数えてみると、実際今日で十日目か十一日目というところである。
『香子、如何した?』
椅子に下ろそうとした玄武がそれを見とがめた。
『あ、いえ……まだこちらに来てそんなに日が経ってないなと思いまして……』
それに玄武が柔らかく笑んだ。
(至近距離で微笑むの禁止ーーーー!!)
四神と知り合ってからやっと一週間といったところ。それなのにもう玄武と朱雀に想いを寄せ、身体まで重ねている自分に頭を抱えたくなる。
時間の流れが違うわけではない。ただ何もかもが目新しくて日々が濃密なのである。
玄武は名残惜しそうに香子を椅子に下ろし、
『そうだな』
と応えて隣に座った。その動きもスマートで、見ていると目を奪われてしまう。
それから玄武は香子に体を寄せ、『だが想いを返すには時間は関係ないだろう?』と囁いた。甘いバリトンに香子は一瞬ふるりと身を震わせた。顔が真っ赤になっているに違いないと香子は思う。
『……はい』
どうにか消え入りそうな声で返事をし、香子は両手で自分の両頬を包んだ。
顔は好みだし声もぞくぞくするぐらいいいし体格も素敵で、しかも自分にべた惚れなんてありえない。
(まるで醒めない夢を見ているみたい……)
そうぼんやりと思ってふふっと笑った。
その様子を四神や眷族はただ見守っている。本当は香子の思考も何もかも独占したいと四神は思っているのだが、その教育係に当たる眷族から”過ぎた干渉はうっとおしがられる”と言われているので耐えているのだった。けれど四神は基本あまり顔の表情が動かない為、まさかそんなことを彼らが考えているなんて香子は露ほども思っていなかった。
そうしている間に茶器にお茶を注がれ料理が運ばれてきた。
毎日料理人がいろんなものを作ってくれるので香子はうきうきである。
(ごはんがおいしいって幸せよね!)
今日の昼も豪華だった。その中に炸酱面と春巻が二種類あるのが目を引いた。
炸酱面といえば日本では盛岡が有名である。戦前旧満州に移住していた人が、日本に帰国して日本人の口に合うように作ったものが盛岡じゃじゃ麺である。韓国人の友人からは韓国にも炸酱面があると教えてもらった。国によってその口に合うように味付けは変わっているのだろうが同じ物があるというだけで親近感を覚えたりしたものである。
さて、中国の炸酱面は肉味噌にきゅうりの千切りや枝豆などが入っており(店による)、麺はかんすいを使っていないこしのないうどんのような麺が一般的である。日本のラーメンをイメージしているとがっかりする人も多いらしいが、香子はそれはそれで好きだった。
ただ肉味噌が飛ばないように食べるのが難しいと袖を押さえつつ、その日の昼食に舌鼓を打つ。次に狙うのは二種類の春巻である。
中華料理は全般的に好きだが、香子にとって春巻は特別な食べ物の一つだった。
香子の知る中華料理屋というのはラーメン屋ではなく、誕生日の時だけ連れて行ってもらえる本格的な中国料理のお店だった。香子の家では誰かの誕生日になると毎回同じお店に行って祝った。その店の春巻は上品で揚げたてで、一皿に五本しか乗っていなかった。香子の家族は四人家族だったから二本目は誕生日の人が食べることになっていた。あつあつの大きい一本の春巻をトマトケチャップにつけて食べる、というのが子どもの頃の香子にとってとんでもない贅沢だった。
それが中国に行ったら一本一元(約15円)で食べることができ、とにかく感動したものだった。
そんなわけで香子にとって春巻というのは高い物でもあり、また安い物でもある。
一皿に十本以上は載せられた春巻。一皿のはキレイに包まれており絵に描いたような狐色をしている。もう一皿は形があまり整っておらず物によっては端っこが焦げて黒くなっていた。おそらく前者は四神宮付の料理人が作り、後者は馬遼が作ってくれたのだろう。
香子は嬉しくて両方から一本ずつ取っていただいた。
(どちらも捨てがたい……)
高級な食材がふんだんに使われた春巻もおいしいが、もやし、にんじん、ピーマンなど庶民的な具材が詰め込まれている春巻もシャキシャキの歯ごたえが嬉しい。
そんなふうに思いながら食べていたせいか、ついつい食べ過ぎてしまった。
そんな香子をみな微笑ましそうに見ていたのに、もちろん彼女は気付いてはいなかった。
22
お気に入りに追加
4,026
あなたにおすすめの小説
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです
新条 カイ
恋愛
ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。
それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?
将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!?
婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。
■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…)
■■

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。
昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。
入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。
その甲斐あってか学年首位となったある日。
「君のことが好きだから」…まさかの告白!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる