異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第1部 四神と結婚しろと言われました

145.色気より食い気なのです

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 昭正公主が己の勘違いからしてしまったことを後悔して青くなっている頃、香子は玄武と朱雀に食べられかけていた。
 さすがに昼間から最後まで抱かれることはなかったし、朱雀に熱を与えられることもなかったが気持ちとしてはぐったりである。

(全然休めてない、休めてないよー……)

 景山には行けることになった。ただ思ったよりも昼が近かったらしく、昼ごはんを食べてから出発することになった。

(もっと早く伝えればよかったなぁ)

 人を使うことに慣れていない香子はすぐに申し訳なく思う。
 そして与えられた快感にまだふわふわしている体を玄武に抱き上げられ、食堂に向かった。食堂ではすでに白虎と青龍がくつろいでいた。そんな姿を見るのは久しぶりのような気がする。実際は今朝も食堂ではないが顔を見たし、知り合った期間だってまだ短い。

(毎日が濃すぎだわ……)

 この世界に来てからの日数を指折り数えてみると、実際今日で十日目か十一日目というところである。

『香子、如何した?』

 椅子に下ろそうとした玄武がそれを見とがめた。

『あ、いえ……まだこちらに来てそんなに日が経ってないなと思いまして……』

 それに玄武が柔らかく笑んだ。

(至近距離で微笑むの禁止ーーーー!!)

 四神と知り合ってからやっと一週間といったところ。それなのにもう玄武と朱雀に想いを寄せ、身体まで重ねている自分に頭を抱えたくなる。
 時間の流れが違うわけではない。ただ何もかもが目新しくて日々が濃密なのである。
 玄武は名残惜しそうに香子を椅子に下ろし、

『そうだな』

 と応えて隣に座った。その動きもスマートで、見ていると目を奪われてしまう。
 それから玄武は香子に体を寄せ、『だが想いを返すには時間は関係ないだろう?』と囁いた。甘いバリトンに香子は一瞬ふるりと身を震わせた。顔が真っ赤になっているに違いないと香子は思う。

『……はい』

 どうにか消え入りそうな声で返事をし、香子は両手で自分の両頬を包んだ。
 顔は好みだし声もぞくぞくするぐらいいいし体格も素敵で、しかも自分にべた惚れなんてありえない。

(まるで醒めない夢を見ているみたい……)

 そうぼんやりと思ってふふっと笑った。
 その様子を四神や眷族はただ見守っている。本当は香子の思考も何もかも独占したいと四神は思っているのだが、その教育係に当たる眷族から”過ぎた干渉はうっとおしがられる”と言われているので耐えているのだった。けれど四神は基本あまり顔の表情が動かない為、まさかそんなことを彼らが考えているなんて香子は露ほども思っていなかった。
 そうしている間に茶器にお茶を注がれ料理が運ばれてきた。
 毎日料理人がいろんなものを作ってくれるので香子はうきうきである。

(ごはんがおいしいって幸せよね!)

 今日の昼も豪華だった。その中に炸酱面ジャージャーメンと春巻が二種類あるのが目を引いた。
 炸酱面といえば日本では盛岡が有名である。戦前旧満州に移住していた人が、日本に帰国して日本人の口に合うように作ったものが盛岡じゃじゃ麺である。韓国人の友人からは韓国にも炸酱面があると教えてもらった。国によってその口に合うように味付けは変わっているのだろうが同じ物があるというだけで親近感を覚えたりしたものである。
 さて、中国の炸酱面は肉味噌にきゅうりの千切りや枝豆などが入っており(店による)、麺はかんすいを使っていないこしのないうどんのような麺が一般的である。日本のラーメンをイメージしているとがっかりする人も多いらしいが、香子はそれはそれで好きだった。
 ただ肉味噌が飛ばないように食べるのが難しいと袖を押さえつつ、その日の昼食に舌鼓を打つ。次に狙うのは二種類の春巻である。
 中華料理は全般的に好きだが、香子にとって春巻は特別な食べ物の一つだった。
 香子の知る中華料理屋というのはラーメン屋ではなく、誕生日の時だけ連れて行ってもらえる本格的な中国料理のお店だった。香子の家では誰かの誕生日になると毎回同じお店に行って祝った。その店の春巻は上品で揚げたてで、一皿に五本しか乗っていなかった。香子の家族は四人家族だったから二本目は誕生日の人が食べることになっていた。あつあつの大きい一本の春巻をトマトケチャップにつけて食べる、というのが子どもの頃の香子にとってとんでもない贅沢だった。
 それが中国に行ったら一本一元(約15円)で食べることができ、とにかく感動したものだった。
 そんなわけで香子にとって春巻というのは高い物でもあり、また安い物でもある。
 一皿に十本以上は載せられた春巻。一皿のはキレイに包まれており絵に描いたような狐色をしている。もう一皿は形があまり整っておらず物によっては端っこが焦げて黒くなっていた。おそらく前者は四神宮付の料理人が作り、後者は馬遼が作ってくれたのだろう。
 香子は嬉しくて両方から一本ずつ取っていただいた。

(どちらも捨てがたい……)

 高級な食材がふんだんに使われた春巻もおいしいが、もやし、にんじん、ピーマンなど庶民的な具材が詰め込まれている春巻もシャキシャキの歯ごたえが嬉しい。
 そんなふうに思いながら食べていたせいか、ついつい食べ過ぎてしまった。
 そんな香子をみな微笑ましそうに見ていたのに、もちろん彼女は気付いてはいなかった。
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