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第1部 四神と結婚しろと言われました
140.予想通りでがっかりです
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謁見の間に来る前のやりとりを香子はぼんやりと思い出していた。
自分が思っていたよりも四神や眷族、そして四神宮に仕えている者たちの憤りは激しかった。白雲に話をした後、眷族たちは四神に話をしてくれたらしい。
四神全てが顔を出す必要はないが、威光は示しておかなければならないということで朱雀が出ることにしたようだった。それは香子が朱雀と同じように赤い髪をしているから、寵愛のほどを示すという意味合いもあったのだろうと香子も思う。しかもそれだけではなく黒月が香子の目の前で跪いた。何事かと香子が立ち上がろうとすると朱雀がそれを制した。
『朱雀様、花嫁様、どうか我を花嫁様の守護に』
香子は何を言われているのかわからなかった。困って朱雀を見ると、彼は優しい目で微笑みかけてきた。そして黒月を見やる。
『いついかなる時も香子を優先すると誓えるか』
『是』
黒月の返事に迷いはなかった。
朱雀はそっと嘆息した。
『ならばまずこの王宮にいる一年、香子を守り抜くがいい』
『ありがたき幸せに存じます』
香子はどうしたらいいのかわからなかった。そんな重要なことが自分を通り越して決められていくのに違和感を覚えた。
『朱雀様……』
そっと朱雀の腕に手をかける。
『そなたが気にかけることではない』
口調は優しかったが、それは断固とした響きを持っていて。
香子は黙るしかなかった。
何を思って黒月がそんなことを言い出したのかわからなかった。
香子としては、ここにいる間だけでなくその後も自身に直接的な危害が加えられることは考えにくかった。それは四神に守られているということだけでなく、香子自身も己の安全に関しては非常に気をつけているからだった。だが黒月がそんなことを言い出すということは、この王宮というところは余程危険な場所とみえる。それかもしくは先程四神宮に皇后たちを通してしまったということからきているのかもしれない。
どちらにせよ香子が口を出せないなら今まで以上に香子自身も気をつける必要はありそうだった。
香子の身支度を整えさせる為に黒月が侍女たちを呼び入れた。侍女たちはいつになく張りきった様子で香子を飾り立てた。
(頭重いなぁ……)
何本も差された簪や髪飾りが重いのである。しかもあまりしたくない化粧までほどこされてもうどうにでもしてくれという気分だった。それでもその姿を目にした四神に『着飾ったそなたも美しいな』と言われれば悪い気はしない。例えそれが花嫁であるというだけの欲目ではあっても。
そうして朱雀に抱き上げられ謁見の間に移動したのだった。
『……それはできませぬ』
硬い声で答えたのは皇后だった。
それは予想していた答えだった。
仮にも皇族がそう簡単に庶民に対して謝罪をするわけにはいかないということだろう。
それならば謝らないで済むような行いをしてもらいたいものである。
『ならばどうするつもりか』
その問いに皇后は眉をひそめた。庶民に対して何をする必要があるのかとでも言いたげである。
『……金子を……その者たちが求めるだけ渡しましょう……』
それでも問われたことに答えなければいけないだろうと考えたのか、絞り出すような声で言った。
嘆かわしい、と香子は思った。
いつの世も身分の高い者が不祥事を起こした時の解決法は一緒らしい。しかもその金がどこから出るのかわかっているのだろうか。
香子は呆れたと言うように深く嘆息した。
白雲が香子を見やり、軽く頷いた。そして向き直る。
『……そなたらには失望した。此度の件については皇帝よりおって沙汰があろう』
皇后と公主の顔がさっと蒼褪めた。
朱雀が立ち上がった。その後ろに白雲と黒月が付き従う。
もう何も話すことはないという意思表示に、公主が跪いたまま顔を上げて叫んだ。
『なっ、何故です!? どうして妾だけが……!!』
朱雀は一切構わず謁見の間を出、四神宮に戻っていった。香子もまた振り返ることはなかった。
自分が思っていたよりも四神や眷族、そして四神宮に仕えている者たちの憤りは激しかった。白雲に話をした後、眷族たちは四神に話をしてくれたらしい。
四神全てが顔を出す必要はないが、威光は示しておかなければならないということで朱雀が出ることにしたようだった。それは香子が朱雀と同じように赤い髪をしているから、寵愛のほどを示すという意味合いもあったのだろうと香子も思う。しかもそれだけではなく黒月が香子の目の前で跪いた。何事かと香子が立ち上がろうとすると朱雀がそれを制した。
『朱雀様、花嫁様、どうか我を花嫁様の守護に』
香子は何を言われているのかわからなかった。困って朱雀を見ると、彼は優しい目で微笑みかけてきた。そして黒月を見やる。
『いついかなる時も香子を優先すると誓えるか』
『是』
黒月の返事に迷いはなかった。
朱雀はそっと嘆息した。
『ならばまずこの王宮にいる一年、香子を守り抜くがいい』
『ありがたき幸せに存じます』
香子はどうしたらいいのかわからなかった。そんな重要なことが自分を通り越して決められていくのに違和感を覚えた。
『朱雀様……』
そっと朱雀の腕に手をかける。
『そなたが気にかけることではない』
口調は優しかったが、それは断固とした響きを持っていて。
香子は黙るしかなかった。
何を思って黒月がそんなことを言い出したのかわからなかった。
香子としては、ここにいる間だけでなくその後も自身に直接的な危害が加えられることは考えにくかった。それは四神に守られているということだけでなく、香子自身も己の安全に関しては非常に気をつけているからだった。だが黒月がそんなことを言い出すということは、この王宮というところは余程危険な場所とみえる。それかもしくは先程四神宮に皇后たちを通してしまったということからきているのかもしれない。
どちらにせよ香子が口を出せないなら今まで以上に香子自身も気をつける必要はありそうだった。
香子の身支度を整えさせる為に黒月が侍女たちを呼び入れた。侍女たちはいつになく張りきった様子で香子を飾り立てた。
(頭重いなぁ……)
何本も差された簪や髪飾りが重いのである。しかもあまりしたくない化粧までほどこされてもうどうにでもしてくれという気分だった。それでもその姿を目にした四神に『着飾ったそなたも美しいな』と言われれば悪い気はしない。例えそれが花嫁であるというだけの欲目ではあっても。
そうして朱雀に抱き上げられ謁見の間に移動したのだった。
『……それはできませぬ』
硬い声で答えたのは皇后だった。
それは予想していた答えだった。
仮にも皇族がそう簡単に庶民に対して謝罪をするわけにはいかないということだろう。
それならば謝らないで済むような行いをしてもらいたいものである。
『ならばどうするつもりか』
その問いに皇后は眉をひそめた。庶民に対して何をする必要があるのかとでも言いたげである。
『……金子を……その者たちが求めるだけ渡しましょう……』
それでも問われたことに答えなければいけないだろうと考えたのか、絞り出すような声で言った。
嘆かわしい、と香子は思った。
いつの世も身分の高い者が不祥事を起こした時の解決法は一緒らしい。しかもその金がどこから出るのかわかっているのだろうか。
香子は呆れたと言うように深く嘆息した。
白雲が香子を見やり、軽く頷いた。そして向き直る。
『……そなたらには失望した。此度の件については皇帝よりおって沙汰があろう』
皇后と公主の顔がさっと蒼褪めた。
朱雀が立ち上がった。その後ろに白雲と黒月が付き従う。
もう何も話すことはないという意思表示に、公主が跪いたまま顔を上げて叫んだ。
『なっ、何故です!? どうして妾だけが……!!』
朱雀は一切構わず謁見の間を出、四神宮に戻っていった。香子もまた振り返ることはなかった。
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