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第1部 四神と結婚しろと言われました

138.派手なぐらいがちょうどいいらしいです(趙他視点)

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 謁見の間には四神と香子の為の椅子しか用意されていない為、趙文英は急遽皇后と公主に椅子を用意した。ただ、本来からすればそれらも用意する必要はないと言える。王英明は当然のように椅子に腰掛ける皇后と公主に、一瞬眉を上げたがそれを気取られるような真似はしなかった。
 彼女らの侍女たちが大振りの扇子を出し、二人を仰ぐ。女官は趙や四神宮付の侍女たちを睥睨した。まるで彼女たちをもてなすのが当然と言わんばかりに。
 だが趙はそれらを一切取り合うことはなかった。
 趙は王宮に勤めてはいるし、現皇帝に仕えていることは間違いないが、直属は香子個人である。香子に対して害になりそうな相手をもてなすほどおめでたくはできていない。
 皇后はさすがに表情に出すことはないが、公主は違った。趙や王、四神宮付の侍女たちに対してあからさまに不満そうな色を隠しはしなかった。

「ああ、暑いわ。ここではお茶の一杯も用意することができないのかしら」
「公主」

 皇后がそれを嗜める。皇后に据えられているだけに、立場は一応理解しているのかもしれなかった。だがそれは表面上のことだと誰しもわかっていた。皇后はできるだけ表情を出さないようにしていたが、待たされる時間が長くなるほど多少焦りの色を見せるようになった。
 趙と王はそれに一切構わなかった。
 それよりも四神宮の守衛に問題がある。今までは四神宮に尋ねてくるような者がいなかっただけにわからなかったが、もしかしたら権力におもねるような人間が守衛を任されているのかもしれなかった。
 守衛や四神宮付の武官の出自はそれほど身分が高いとはいえない。だからこそ今回皇后と公主を通してしまったのかもしれないがそんなことでは困る。皇后や公主に四神宮付の者をどうこうする力はない。ここは皇帝の力も及ばないいわゆる治外法権なのだ。
 ただ、家族をどうこうすると脅されてしまえば言うことを聞かないわけにもいかないだろう。そこらへんも含めて料理を運んできた侍女たちを通した者、そして今回皇后や公主を通してしまった者をはっきりさせる必要はある。それから、趙がこの場を離れる時間を教えた者についても。
 そんなことを無表情の下で考えているうちに、朱雀に抱き上げられた香子がやってきた。

『陵光神君与白香娘娘驾到!!』(朱雀様と花嫁様がいらっしゃいました!)

 侍女たちは心得たもので朱雀に合わせて簪や化粧、衣装を調えたらしく、まるでその姿は美しい絵のようにも見えた。
 趙は心の中でその姿に感嘆し、後ろにつき従う白雲と黒月に軽く頷いた。
 今回は四神全てが出てくるほどではないと判断したのか、それとも朱雀と共にあることで寵愛ぶりをはっきりさせることに重点を置いたのかはその時点ではわからない。ただ朱雀と香子の髪色は非常に似通った鮮やかな暗赤色をしており、それだけでも香子はただの人間には見えなかった。
 四神は普段その長い髪を後ろでゆったりと紐で結んでいるか、またはそのまま流しているのだがその時は違った。鮮やかな赤い髪は頭のてっぺんで結わえられ、背中に流れている。黒い長袍は光沢も鮮やかで、朱雀の文様が赤い糸で刺繍されている。内側の袍は金色で、朱雀の魅力を最大限に引き出していた。そしてその腕の中に抱かれている香子はといえば、髪を結い上げられ、金や銀の鳥を意匠した簪をつけている。衣装は薄桃色を基本とし、胸元は赤い布で覆われていた。それとなく鳥を意匠したアクセサリをつけられ、唇もまた鮮やかな紅をはかれた香子には匂い立つような色気があった。
 皇后と公主たちもその姿にしばらく目を奪われたらしく、椅子から立ち上がろうとしない。それに朱雀はあからさまに不快な表情をした。

『跪下』(跪け)

 白雲が冷たい目で皇后と公主以下に命じた。
 彼女たちは一瞬驚愕の表情を浮かべたが、朱雀のひどく冷たい表情を見るとのろのろと椅子から降り、その場に跪いた。

「何用か」

 再び白雲が声をかける。
 皇后や公主たちはそれに全身から冷や汗が流れるのを感じた。
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