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第1部 四神と結婚しろと言われました

135.部屋に戻るのも一苦労です

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 自分の部屋に戻るのかと思っていたが、玄武はそのまま香子を再び己の室に運んだ。

『玄武様、その……一応身支度を整えたいのですが……』

 玄武によってざっと身なりは整えてもらったが、この格好で表に出るのはいただけない。趙文英や王英明から昭正公主についての話も聞きたいのでできれば彼らに会っても恥ずかしくないぐらいには整えてほしかった(すでに趙には会っているが、馬親子の後ろに控えていたのであまりまじまじとは見られていない……と思いたい)
 玄武は少し考えるような顔をした。そして心底残念そうに、

『……公主とやらの話はそんなに重要か』

 と聞いた。

(わ、忘れてた!? もしかして玄武様忘れてました!?)

 正確には記憶の隅に都合よく追いやっていたのかもしれないが、さすがにこちらに言われてなし崩しにすることはやめたらしい。
 とはいえ、またベッドに連れ込む意志はあったってことですよね? という視線でじーっと玄武を見ると、何故か微笑まれて抱き込まれた。

「なっ、なっ、なんでーーーーーーーーーーっっ!?」

 思わず日本語で叫んじゃうぐらいの衝撃で。

『そなたが気にすることはない。彼らからなれば眷族に話をさせればよかろう』
『あ、あのっ! 一応又聞きの又聞きはしたくないのでっ!』

 絶対に本人から話が聞けるわけはないのだから、せめて趙や王からは直接聞きたいと思うのは間違っているだろうか。

『……なれば仕方ない』

 玄武は嘆息すると香子を部屋まで運んだ。そして侍女たちが慌ただしく準備をしようと席を外したところでそっと香子に口づける。

『後ほど迎えにくる』

 そう言ってさっと踵を返す。部屋を出ていかれたところで香子はへなへなとその場に座り込んだ。
 顔がとんでもなく熱い。

(もうもうもうっ! なんでああ素敵なのかしら……ってゆーかもうどストライクで困るーーーーーっっ!)

 両手で顔を押さえて悶えていると、

『……花嫁様……?』

 控えめに声をかけられた。そういえば侍女たちが自分の支度の為に準備をしていたということを思い出し、本気で穴を掘って埋まりたくなった。とはいえそのままでいるわけにもいかないのでのろのろと立ち上がる。
 さすが侍女というべきか彼女たちはそれ以上は追及しないで身支度を整えてくれた。
 今日も赤い髪に似合う衣装と必要最低限の装飾品を纏わされる。四神宮にいる間はこの程度でいい。めったにあることではないだろうが誰かに呼び出された時や四神宮を出る時はけっこう面倒だった。
 後ろから手鏡を示されて最終確認をし、香子は満足そうに頷いた。

『ありがとう』

 お礼を言うと侍女たちの顔がほころぶ。

(この髪色に似合う格好っていうと、寒色系を着るってことはもうないのかな……)

 ふとそんなことを考えてちょっと残念だなとは思った。
 でもまだ今はこの髪が必要で。
 戻そうと思えば戻せるようだから、しばらくはこのままでいようと思う。
 お茶を入れて侍女たちは一旦退出した。
 身分の高い人の部屋には常に侍女が隅に控えていたりするようだが、ここでは四神や香子の意を汲んで退出してくれる。うまれたときから人に傅かれているなら気にならないかもしれないが香子は庶民である。自分でできることを人にやってもらおうとは思わない。
 ぼーっとお茶を飲んでいたら、部屋の外から狼狽したような声がかかった。

『花嫁様! 皇后娘娘と昭正公主がお見えになりました!』
(…………は?)

 香子は一瞬何を言われたのかわからなかった。
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