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第4部 四神を愛しなさいと言われました

64.四神のことは好きだけど、流されすぎもよくないのです

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 日中に触れ合うのは勘弁してほしいと香子はいつも思っている。
 四神はもう香子がどこを触れられれば感じるのかわかっていて、どうにかして香子を陥落させようとするのだ。

「ぁ……ああっ……」
香子シャンズ……香子……』

 そんな涼やかな声で切なく囁かないでほしいと香子は思う。青龍は龍なのだが、香子に絡みつくさまはまるで蛇のようだ。
 捕らえたらもう決して離さないというような想いに、香子は甘く蕩かされた。


 夕飯の時間まで甘く触れられ、今夜は共に過ごすことを香子は約束させられてしまった。
 ねっとりとした愛撫を施され、それに慣れた身体は簡単に陥落する。

(意志が弱すぎる……)

 香子は自己嫌悪した。けれど香子を娶る為に日々努力を続けている四神に香子がかなうわけがないのだ。
 青龍と過ごすことが決まったので、夕飯は量を多めに用意してもらうことにした。そうでなければとても相手はできないだろうと香子は危機感を覚えていた。青龍に抱かれるのはかまわないが、起きた時の飢えは耐えがたいのである。色気がないと言われようがそれはもうどうしようもなかった。
 夕飯の量を増やしてほしいということは青龍に言わせた。己が抱かれる準備を香子がするのはためらいがある。これだけ抱かれていても香子は恥ずかしい。今更恥ずかしがることでもないとも香子も思うのだが、こればっかりはしょうがなかった。
 夕飯をこれでもかと食べた後、茶室での食休み中に今宵の予定を話す。
 今夜も玄武と朱雀とも一緒に過ごすことになるらしいということがわかって、香子は頬を赤らめた。
 青龍と過ごす時はいつもそうである。

『その……青龍様と過ごすのに……ええと……』

 玄武と朱雀も共にということはつまり。

『……我と二人きりで過ごしたいと、そういうことか?』

 青龍に聞かれ、香子はそういうことではないと首を振る。青龍と二人きりで夜を過ごすのはまだリスクが高い。どんなリスクがあるのかといえば、青龍が本気で香子を求めてしまう可能性があるということだ。
 青龍の本気、それは少なくとも二晩は放してもらえなくなるということである。いくら四神に抱かれることに慣れてきた香子であっても、ずっと抱かれ続けるのは勘弁してほしいのだった。

『そなに首を振らずともよかろう』

 青龍はほんの少しだけ口元を動かした。苦笑しているようである。

『いえ、その……熱を下さるのでしたら朱雀様だけでも、と思ったのです。玄武様、朱雀様と共に過ごしたくないわけではありません……』

 口にするのも恥ずかしくて、香子の顔はいつまでも真っ赤だった。
 その、いつまでも慣れない様子に四神が閉じ込めたいと思っていることは香子が気づくはずもない。

『……まだ青龍だけには任せておけぬ』

 玄武が呟くように言葉を発した。

『我はいつもそなたを抱きたい』

 そして玄武はストレートにこう言った。

『は、はい……』

 香子はとうとう両手を自分の頬に当てた。熱い、と香子は思った。

『香子の世話もしたい。我はまだ人の世話をするということに慣れてはいないが、そなたに水を飲ませたりすることはできる』
『わ、わかりました……わかりましたから……』

 どこまでも甘くて、香子は止めることしかできなかった。両手を出してもう言わなくてもいいと意思表示をすれば、斜め横からその手を玄武に奪われる。

『香子は我らの想いをまだ理解していないようだ』
『そ、そんなことはないです……』

 四神の愛が重いことは香子も理解している。玄武は香子の指に口づけた。

『えええ』

 予想はしていたが実際そうされるとうろたえてしまう。メンクイということもあるが、大好きな相手にそんなことをされてしまっては、香子の心臓が持ちそうもなかった。

(でも、四神の花嫁だからそう簡単には死なない、はず……)

 そんなことを考えなければいられない程、香子は動揺していた。

『我も同感だ』
『え』

 それに追い打ちをかけるように、反対側の斜め横からもう片方の手を朱雀に奪われてしまった。そして玄武と同じように指に口づけられてしまう。

『わ、わかりましたから……』

 甘すぎて困るなんて、香子は想像もしていなかった。胸が何度もきゅううっと苦しくなって涙まで浮かんできた。それを見た玄武と朱雀が口元に笑みをはいた。
 香子はもうどうとでもしてと言いたくなったが、どうにかこらえた。
 ここで思考を放棄すれば、このまま誰かの寝室に連れ込まれてなし崩しになってしまう。
 あれ? でも、と香子は思う。
 今更もうなし崩しでもいいのではないかと。
 しかし香子は首を振った。
 なんの心構えもなく連れ込まれて困るのは香子である。

『玄武様、朱雀様、青龍様、私、入浴がしたいです!』
『では我らと……』
『いいえ、身をしっかり清めたいので侍女たちに頼みますから!』

 これ以上四神にお世話をされたら間違いなく心臓が止まってしまうだろう。香子はそんな危機感を覚えた。
 四神の表情はほとんど動かないのだが、なんだか残念そうに見えた。しかしここで絆されてはいけないのである。
 茶室の隅に控えている白雲に、侍女たちに風呂の準備をしてもらうよう頼んでもらった。これで入浴の時間は確保できた。
 できるだけ流されないようにしようと、香子は強く思ったのだった。


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エールとっても嬉しいです。ありがとうございまーす!
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