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第1部 四神と結婚しろと言われました

133.やっと迎えが来たようです

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 今朝も二神は優雅な仕草で食事をとった。あまり食事を必要としない四神だが箸さばきはきれいである。
 左利きの香子とはえらい違いだ(左利きだから箸の使い方がおかしいというのではなく、親が右利きだったのでうまく教われなかっただけである)と思う。
 食べている量は明らかに普段より多いし、すごい早さで料理が減っているのだが全然がっついているように見えない。
 ただもちろんそれを香子が確認できたのはそろそろおなかいっぱいになってきたかな、という頃である。

(こういうのを有口福ヨウコウフー(おいしいものを食べて幸せになる)と言うんだろうなぁ)

 香子もとんでもない量を食べたが、二神に抱かれているせいか全く太る気配がない。
 Hしてダイエットという話もあるが、これは規格外といえよう。というかここのところ毎晩息も絶え絶えである。
 今朝はそれでもまだ体に余裕があった。昨夜も濃厚ではあったが長時間ではなかったから。

『花嫁様、料理人の家族が来たそうです』

 扉の外から紅夏の声がして、香子は顔を上げた。馬遼には本当に悪いことをしたと思う。

『わかりました、行きます』

 そう答えて立ち上がろうとしたが、その前に玄武に抱き上げられてしまった。当り前のように抱かれて運ばれるのに、香子はクスッと笑ってしまう。それを玄武が不思議そうな表情で見た。

『あ、いえ……。今更なんですけど、元の世界ではこんな風に抱き上げてくれる人はいなかったので……』

 バツが悪くなってそう答えると、

『そなたの世界の男は非力なのか?』

 と返された。その如何にも玄武らしい返しに香子は思わず吹き出してしまった。

『ぶっ! ご、ごめんなさい……!』

 四神程体格がよければもしかしたら抱き上げてくれた(いわゆる「お姫様だっこ」)かもしれないが、一般的に日本の男はそんな女性の夢は叶えてくれない。欧米系の男ならわからないが、残念ながら香子は欧米人と付き合ったことはなかった。
 玄武は何故笑われるのかわからないといった風情であったが、朱雀はなんとなく察したらしい。

『おそらく香子の世界の男というのは甲斐性がないのでしょう』

 とわかったようなわからないような答えをくれた。
 そんなことを話しながら謁見の間に行くと、趙文英、馬遼、それから若い娘が平伏していた。

『面を上げよ』

 朱雀の声に趙が先に顔を上げ、馬と娘はおそるおそる、というようにゆっくりと顔を上げた。娘は四神を目にするとぽおっと頬を染め、そして改めて香子を見やり、ほんの少しだけ首を傾げた。
 娘の反応にさもありなんと香子は思う。なんでこんな美丈夫たちに髪が赤いだけの平凡な女が抱かれているのだろうと思ったのだろう。

(そんなこと私が聞きたいデス)

 若干やさぐれた気持ちで香子はそんなことを思った。

馬遼マーリャオとその娘、馬蝉マーチャン(日本の音読みで「バセン」どちらでもお好みでどうぞ)です。父親を引き取りにきたと言っております』

 趙の説明に朱雀が頷いた。

『そなたたちには不自由を強いてすまなかった。二度とこのようなことが起こらぬようきつく申し渡しておく故怒りは納めてほしい』

 どう言おうかと香子が考えているうちに朱雀が言いたいことを言ってしまった。全く以て自分を甘やかすにもほどがあると香子はむーっとする。
 朱雀の科白に、馬蝉は頬を染めたままためらいながらもこんなことを言った。

『……あの……たいへん失礼かとは思うんですが、花嫁様は父の作るものをお気に召していただいたようで……それで、あの……よろしければアタシをこちらで雇っていただけないかと……』

 朱雀は香子の顔を見る。確かに決定権は香子にあるのだろうが、そんなことをいきなり言われても困る。仕方なく困ったような表情をしている趙に尋ねることにした。

『……趙さん、四神宮の厨房はどうなっていますか? 一応料理長さんに聞かないとわかりませんよね?』

 そう言うと、趙はほっとした顔をした。趙に聞いたのは間違いではなかったようだった。
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