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第1部 四神と結婚しろと言われました
130.皇帝の怒り(皇帝視点)
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大分前に入れられた茶はすでに冷めていた。それを替えたいと女官は思っていたが、皇帝から伝わるぴりぴりとした空気に身動ぎ一つできなかった。
「……あれは一体何を考えている」
皇帝の口からひどく低い声が発せられた。
目の前に傅いている豪奢な衣裳を着た女性は、震えそうになるのをどうにか堪えて答えた。
「妾がお尋ねしましたところ、それほどまでに高貴な方ならばぜひご挨拶をしたいとおっしゃられて……」
「愚かな……!!」
皇帝の目がカッと見開かれ、卓に置かれていた茶器が勢いよく振り払われた。
「……きゃあっっ……!?」
パリーン! と音がして茶器が粉々に砕ける。
「皇后娘娘!(皇后様!)」
皇后付の侍女が思わず声を上げた。皇帝の目の前に傅いていたのは皇后だった。
「目障りだ……侍女たちを下がらせろ!」
「は、はい……! お、お前たち、ここはいいから、さ、下がりなさい!」
侍女たちは一瞬どうしたらいいのかと視線を彷徨わせたが、皇帝の命令に逆らうこともできず心配そうな面持ちでそろそろと室を出て行った。
「そなた、朕に嫁いできて何年経った」
皇后は震える声で答えた。
「ご、五年にございます……」
皇帝がゆらりと立ち上がる。皇后はあまりの恐ろしさに顔を上げることができないでいた。
皇帝は穏やかな男ではなかったが、ここまで怒りを露わにしたことも嘗てなかった。そんな皇帝がジャリジャリと割れた茶器の残骸を踏みながら近づいてくる。そしていきなり皇后の髪飾りを鷲掴んだ。
「…………っっっ!!!」
「……五年もいて子の一人もできず、後宮の抑えもきかぬ。いくら朕の妹とはいえ昭正のすることも止められぬとは、なんの為の皇后か?」
「も、申し訳ありませ……っっっ!!!」
皇后は上げそうになる悲鳴をどうにか抑えた。しかし皇帝は無慈悲だった。
皇后は無残にぐちゃぐちゃに乱れた髪型もそのままで平伏していることしかできない。
「あと半月程で皇太后が訪れるだろう。皇后よ、今のそなたに皇太后を抑えることができるのか?」
「……おそれながら……」
皇太后が四神の花嫁を見る為にやってくるのは間違いない。皇太后は四神好きで有名である。その花嫁が現れたと聞けば駆けつけてくるのは必至であった。
皇帝とて皇后に皇太后を止められるとは思っていない。だが後宮の関係者が起こしたことといい、妹のしたことを止められなかったことで怒りが溜っていた。
「明日にでもそなたが四神宮に謝罪に参れ。昭正から直接謝罪をするように言われたら昭正も連れていくように」
「……承知しました」
皇后は身を震わせた。皇后である自分が皇族以外に頭を下げなくてはならないということに屈辱を感じた。つまり皇后もまた四神の花嫁の立ち位置を理解していなかった。
「そのまま昭正のところへ行くがいい。朕がどれだけ立腹しているか正しく伝えろ」
「こ、このままでございますか……」
皇后はさすがに戸惑った。皇帝によって髪型がぐちゃぐちゃになっている。すると皇帝が眉を潜めた。
「そなたに逆らう権利があるとでも?」
「も、申し訳ありません!」
今は髪だけで済んでいるがこれ以上怒らせたらどうなるか想像がつかなかった。皇后は青ざめながらもどうにか立ち上がり、昭正公主の室に向かった。その姿に、皇后としての威厳も何もあったものではなかった。
一人残された皇帝は深くため息をついた。
「どいつもこいつも……」
この国を潰すつもりなのだろうか。
「……あれは一体何を考えている」
皇帝の口からひどく低い声が発せられた。
目の前に傅いている豪奢な衣裳を着た女性は、震えそうになるのをどうにか堪えて答えた。
「妾がお尋ねしましたところ、それほどまでに高貴な方ならばぜひご挨拶をしたいとおっしゃられて……」
「愚かな……!!」
皇帝の目がカッと見開かれ、卓に置かれていた茶器が勢いよく振り払われた。
「……きゃあっっ……!?」
パリーン! と音がして茶器が粉々に砕ける。
「皇后娘娘!(皇后様!)」
皇后付の侍女が思わず声を上げた。皇帝の目の前に傅いていたのは皇后だった。
「目障りだ……侍女たちを下がらせろ!」
「は、はい……! お、お前たち、ここはいいから、さ、下がりなさい!」
侍女たちは一瞬どうしたらいいのかと視線を彷徨わせたが、皇帝の命令に逆らうこともできず心配そうな面持ちでそろそろと室を出て行った。
「そなた、朕に嫁いできて何年経った」
皇后は震える声で答えた。
「ご、五年にございます……」
皇帝がゆらりと立ち上がる。皇后はあまりの恐ろしさに顔を上げることができないでいた。
皇帝は穏やかな男ではなかったが、ここまで怒りを露わにしたことも嘗てなかった。そんな皇帝がジャリジャリと割れた茶器の残骸を踏みながら近づいてくる。そしていきなり皇后の髪飾りを鷲掴んだ。
「…………っっっ!!!」
「……五年もいて子の一人もできず、後宮の抑えもきかぬ。いくら朕の妹とはいえ昭正のすることも止められぬとは、なんの為の皇后か?」
「も、申し訳ありませ……っっっ!!!」
皇后は上げそうになる悲鳴をどうにか抑えた。しかし皇帝は無慈悲だった。
皇后は無残にぐちゃぐちゃに乱れた髪型もそのままで平伏していることしかできない。
「あと半月程で皇太后が訪れるだろう。皇后よ、今のそなたに皇太后を抑えることができるのか?」
「……おそれながら……」
皇太后が四神の花嫁を見る為にやってくるのは間違いない。皇太后は四神好きで有名である。その花嫁が現れたと聞けば駆けつけてくるのは必至であった。
皇帝とて皇后に皇太后を止められるとは思っていない。だが後宮の関係者が起こしたことといい、妹のしたことを止められなかったことで怒りが溜っていた。
「明日にでもそなたが四神宮に謝罪に参れ。昭正から直接謝罪をするように言われたら昭正も連れていくように」
「……承知しました」
皇后は身を震わせた。皇后である自分が皇族以外に頭を下げなくてはならないということに屈辱を感じた。つまり皇后もまた四神の花嫁の立ち位置を理解していなかった。
「そのまま昭正のところへ行くがいい。朕がどれだけ立腹しているか正しく伝えろ」
「こ、このままでございますか……」
皇后はさすがに戸惑った。皇帝によって髪型がぐちゃぐちゃになっている。すると皇帝が眉を潜めた。
「そなたに逆らう権利があるとでも?」
「も、申し訳ありません!」
今は髪だけで済んでいるがこれ以上怒らせたらどうなるか想像がつかなかった。皇后は青ざめながらもどうにか立ち上がり、昭正公主の室に向かった。その姿に、皇后としての威厳も何もあったものではなかった。
一人残された皇帝は深くため息をついた。
「どいつもこいつも……」
この国を潰すつもりなのだろうか。
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