128 / 608
第1部 四神と結婚しろと言われました
128.あれもこれも後回しにしておきます
しおりを挟む
どうやら馬遼が香子を気に入って調理してくれたらしかった。宮廷の料理に不満はないが、たまにはこういった屋台でしか食べられない物が食べたくなる。
鶏肉や羊肉、牛肉、イカの串もあって香子はにまにましてしまった。これらの串は日本でいう焼鳥とは違い、鉄板に油を引いて焼くという形の物である。鶏肉、羊肉、牛肉等にはクミンや唐辛子などがまぶしてあり、イカは専用のたれ(甘辛いのだが材料は不明)のようなものがついていた。内臓系には手が出ないがいずれも屋台で食べていた物だけにこれでもかと食べてしまった。
香子の食べっぷりを見て気を利かせてくれたのか、馬遼が再び連れて来られた。恐縮しているようではあったが、
『すっごくおいしいです、ありがとうございます』
と香子が礼を言うと、『こ、こんなんでよけりゃいくらでも作ってやんよ……いや、作ります……』と少し照れたような顔を見せた。
詳しい話は馬遼の家族が来てからすることになっているので、彼はすぐに食堂を退出していった。
とはいえ四神宮にもコックはいる。その人たちの仕事を奪うようなことはできないだろうということぐらい香子にもわかっていた。ただそれは今考えても仕方ないことなので置いておくことにした。
それにしても、である。
(わざわざ巷の人まで攫ってやることなのかしら?)
皇帝の末の妹ということだからかなり甘やかされて育ってきているに違いない。
食後のお茶を啜りながら難しい顔をしていたらしい。
『香子、如何した?』
玄武に声をかけられた。
『……いえ、なんでもないです……』
と答えながらも香子はふつふつと怒りがこみ上げてくるのを感じていた。こちらについても理由如何によっては許すまじ! と思いながらも実際に昭正公主と会うことは可能なのだろうか。
(ま、今考えても仕方ないよねー)
何もはっきりしたことがわかっていない状態でいろいろ考えても仕方ない。
夕飯も終えて目下考えなければいけないことといえば……。
(今夜どうしよう……)
香子は横目でちら、と玄武と朱雀を窺った。彼らは香子からの視線を感じたのか、優しい笑みを返してきた。
(……う……)
その笑顔は反則だと香子は思う。
(ほ、他に考えなきゃいけないことーーーーーっっっ!!)
と頭をフル回転させて思い出したのは、元の世界のことだった。一応玄武が天皇に伝えてはくれているようだがその結果を聞いていない。そうはいっても相手は神様なのでそんなに早く対処してくれるかどうかもわからない。
なにせ天皇は何千年、いや、もしかしたら何万年も存在している神様である。そんな一週間や十日で対処してくれるとは考えにくい。けれど思い出したら聞かずにはいられなかった。
『あの……玄武様。お願いしたことは、ええと、天皇から返事とか来てないですよね……?』
声を届けることはできると言っていたが、一方通行のようなことも言っていたから返事はないのかもしれない。けれど戻れないならせめてそれぐらい叶えてくれてもいいのではないかと思う。
そうしたらきっと覚悟ができるのも早くなると思うから。
『すまぬ。おそらく声は届いているはずだが返答はまだない』
玄武が本当にすまなさそうに言うから、香子は悪いことをしたと思った。
『ご、ごめんなさい。返答がくるにしてもこんなに早くくるわけないですよね? 私、せっかちで……』
『そなたが謝ることではない。そなたが召喚されたのはこの世界の為。そなたには怒る権利がある』
そう言って玄武はそっと香子の手を取った。
(怒る、かぁ……)
大きくてキレイな手だなと玄武の手を見ながらぼんやりと思った。
こんなふうに大事にされて怒るなんてとんでもない。元の世界にいたら絶対こんな美丈夫に求愛されることなんてなかっただろう。
(そこらへんは役得っていうのかな)
香子はふふっと笑った。それだけで少し気が楽になったように、思えた。
鶏肉や羊肉、牛肉、イカの串もあって香子はにまにましてしまった。これらの串は日本でいう焼鳥とは違い、鉄板に油を引いて焼くという形の物である。鶏肉、羊肉、牛肉等にはクミンや唐辛子などがまぶしてあり、イカは専用のたれ(甘辛いのだが材料は不明)のようなものがついていた。内臓系には手が出ないがいずれも屋台で食べていた物だけにこれでもかと食べてしまった。
香子の食べっぷりを見て気を利かせてくれたのか、馬遼が再び連れて来られた。恐縮しているようではあったが、
『すっごくおいしいです、ありがとうございます』
と香子が礼を言うと、『こ、こんなんでよけりゃいくらでも作ってやんよ……いや、作ります……』と少し照れたような顔を見せた。
詳しい話は馬遼の家族が来てからすることになっているので、彼はすぐに食堂を退出していった。
とはいえ四神宮にもコックはいる。その人たちの仕事を奪うようなことはできないだろうということぐらい香子にもわかっていた。ただそれは今考えても仕方ないことなので置いておくことにした。
それにしても、である。
(わざわざ巷の人まで攫ってやることなのかしら?)
皇帝の末の妹ということだからかなり甘やかされて育ってきているに違いない。
食後のお茶を啜りながら難しい顔をしていたらしい。
『香子、如何した?』
玄武に声をかけられた。
『……いえ、なんでもないです……』
と答えながらも香子はふつふつと怒りがこみ上げてくるのを感じていた。こちらについても理由如何によっては許すまじ! と思いながらも実際に昭正公主と会うことは可能なのだろうか。
(ま、今考えても仕方ないよねー)
何もはっきりしたことがわかっていない状態でいろいろ考えても仕方ない。
夕飯も終えて目下考えなければいけないことといえば……。
(今夜どうしよう……)
香子は横目でちら、と玄武と朱雀を窺った。彼らは香子からの視線を感じたのか、優しい笑みを返してきた。
(……う……)
その笑顔は反則だと香子は思う。
(ほ、他に考えなきゃいけないことーーーーーっっっ!!)
と頭をフル回転させて思い出したのは、元の世界のことだった。一応玄武が天皇に伝えてはくれているようだがその結果を聞いていない。そうはいっても相手は神様なのでそんなに早く対処してくれるかどうかもわからない。
なにせ天皇は何千年、いや、もしかしたら何万年も存在している神様である。そんな一週間や十日で対処してくれるとは考えにくい。けれど思い出したら聞かずにはいられなかった。
『あの……玄武様。お願いしたことは、ええと、天皇から返事とか来てないですよね……?』
声を届けることはできると言っていたが、一方通行のようなことも言っていたから返事はないのかもしれない。けれど戻れないならせめてそれぐらい叶えてくれてもいいのではないかと思う。
そうしたらきっと覚悟ができるのも早くなると思うから。
『すまぬ。おそらく声は届いているはずだが返答はまだない』
玄武が本当にすまなさそうに言うから、香子は悪いことをしたと思った。
『ご、ごめんなさい。返答がくるにしてもこんなに早くくるわけないですよね? 私、せっかちで……』
『そなたが謝ることではない。そなたが召喚されたのはこの世界の為。そなたには怒る権利がある』
そう言って玄武はそっと香子の手を取った。
(怒る、かぁ……)
大きくてキレイな手だなと玄武の手を見ながらぼんやりと思った。
こんなふうに大事にされて怒るなんてとんでもない。元の世界にいたら絶対こんな美丈夫に求愛されることなんてなかっただろう。
(そこらへんは役得っていうのかな)
香子はふふっと笑った。それだけで少し気が楽になったように、思えた。
22
お気に入りに追加
4,026
あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初恋の人と再会したら、妹の取り巻きになっていました
山科ひさき
恋愛
物心ついた頃から美しい双子の妹の陰に隠れ、実の両親にすら愛されることのなかったエミリー。彼女は妹のみの誕生日会を開いている最中の家から抜け出し、その先で出会った少年に恋をする。
だが再会した彼は美しい妹の言葉を信じ、エミリーを「妹を執拗にいじめる最低な姉」だと思い込んでいた。
なろうにも投稿しています。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる