異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第1部 四神と結婚しろと言われました

128.あれもこれも後回しにしておきます

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 どうやら馬遼マーリャオが香子を気に入って調理してくれたらしかった。宮廷の料理に不満はないが、たまにはこういった屋台でしか食べられない物が食べたくなる。
 鶏肉や羊肉、牛肉、イカの串もあって香子はにまにましてしまった。これらの串は日本でいう焼鳥とは違い、鉄板に油を引いて焼くという形の物である。鶏肉、羊肉、牛肉等にはクミンや唐辛子などがまぶしてあり、イカは専用のたれ(甘辛いのだが材料は不明)のようなものがついていた。内臓系には手が出ないがいずれも屋台で食べていた物だけにこれでもかと食べてしまった。
 香子の食べっぷりを見て気を利かせてくれたのか、馬遼が再び連れて来られた。恐縮しているようではあったが、

『すっごくおいしいです、ありがとうございます』

 と香子が礼を言うと、『こ、こんなんでよけりゃいくらでも作ってやんよ……いや、作ります……』と少し照れたような顔を見せた。
 詳しい話は馬遼の家族が来てからすることになっているので、彼はすぐに食堂を退出していった。
 とはいえ四神宮にもコックはいる。その人たちの仕事を奪うようなことはできないだろうということぐらい香子にもわかっていた。ただそれは今考えても仕方ないことなので置いておくことにした。
 それにしても、である。

(わざわざ巷の人まで攫ってやることなのかしら?)

 皇帝の末の妹ということだからかなり甘やかされて育ってきているに違いない。
 食後のお茶を啜りながら難しい顔をしていたらしい。

『香子、如何した?』

 玄武に声をかけられた。

『……いえ、なんでもないです……』

 と答えながらも香子はふつふつと怒りがこみ上げてくるのを感じていた。こちらについても理由如何によっては許すまじ! と思いながらも実際に昭正公主と会うことは可能なのだろうか。

(ま、今考えても仕方ないよねー)

 何もはっきりしたことがわかっていない状態でいろいろ考えても仕方ない。
 夕飯も終えて目下考えなければいけないことといえば……。

(今夜どうしよう……)

 香子は横目でちら、と玄武と朱雀を窺った。彼らは香子からの視線を感じたのか、優しい笑みを返してきた。

(……う……)

 その笑顔は反則だと香子は思う。

(ほ、他に考えなきゃいけないことーーーーーっっっ!!)

 と頭をフル回転させて思い出したのは、元の世界のことだった。一応玄武が天皇に伝えてはくれているようだがその結果を聞いていない。そうはいっても相手は神様なのでそんなに早く対処してくれるかどうかもわからない。
 なにせ天皇は何千年、いや、もしかしたら何万年も存在している神様である。そんな一週間や十日で対処してくれるとは考えにくい。けれど思い出したら聞かずにはいられなかった。

『あの……玄武様。お願いしたことは、ええと、天皇から返事とか来てないですよね……?』

 声を届けることはできると言っていたが、一方通行のようなことも言っていたから返事はないのかもしれない。けれど戻れないならせめてそれぐらい叶えてくれてもいいのではないかと思う。
 そうしたらきっと覚悟ができるのも早くなると思うから。

『すまぬ。おそらく声は届いているはずだが返答はまだない』

 玄武が本当にすまなさそうに言うから、香子は悪いことをしたと思った。

『ご、ごめんなさい。返答がくるにしてもこんなに早くくるわけないですよね? 私、せっかちで……』
『そなたが謝ることではない。そなたが召喚されたのはこの世界の為。そなたには怒る権利がある』

 そう言って玄武はそっと香子の手を取った。

(怒る、かぁ……)

 大きくてキレイな手だなと玄武の手を見ながらぼんやりと思った。
 こんなふうに大事にされて怒るなんてとんでもない。元の世界にいたら絶対こんな美丈夫に求愛されることなんてなかっただろう。

(そこらへんは役得っていうのかな)

 香子はふふっと笑った。それだけで少し気が楽になったように、思えた。
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