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第1部 四神と結婚しろと言われました

123.揺れる想い、揺れない想い(前半侍女頭、後半白雲視点) ※R13

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 朱雀の室を出て趙文英と少しばかり話した後、陳秀美は白雲に捕まった。

「花嫁様のご様子は?」

 その真剣な面持ちに陳は戸惑いながらも答えられる範囲で応えた。

「お元気そうでした……見る限り昨日よりあやうさが落ち着いたように思います」
「他の侍女たちも大丈夫そうか? 趙たちに関しては?」

 考えながら陳は慎重に言葉を探した。

「あの……うまくは言えないのですが、昨日の花嫁様を見て欲情しない男性はいないように感じられました。ですが先ほどの花嫁様は女の私でもわかる程度の色気におさまっています。周りに注意すれば外出も可能かと……」

 白雲は少し考えるような表情をしたが、すぐに人の悪い笑みを浮かべた。

「ふむ……それは我が昨夜そなたを抱いてしまうほどまでには影響がないという解釈でいいのだな?」

 思わず頬を染めた陳を抱き寄せ、白雲は自然にその唇を奪う。
 柱の陰で隠れているとはいえ、誰かが好奇心で覗けば見られてしまうような位置でされる口づけに陳は戸惑った。

「……あっ……はぁ……」

 ざらりとした長い舌を絡められ溢れる唾液を飲み干されて、ようやく陳は解放された。

「おたわむれを……」

 まだ仕事中だというのに、と抗議の眼差しを向けると白雲は悠然と笑んだ。

「……夜が待ち遠しいな。今宵からは我の室で過ごすように」
「……えっ……!?」

 言うだけ言って白雲は踵を返した。一人残された陳は両手で自分の頬を覆う。

「……なんなの……?」

 頬が熱い。
 相手は人ではなく神の眷族。逆らうことなどできようはずはないが、何故出戻りである自分を? と陳は思ってしまう。
 ただ、少なくとも今宵からは白雲の室で過ごすことにはなりそうだった。


 四神の立てた仮説は間違っていなかったらしい。
 朝食後香子はまた朱雀の寝室に連れ去られてしまったが、それまで給仕をしていた侍女たちの様子を見るに昨日のような危うさは消えているようだった。一番いいのは香子が四神全てに抱かれてしまうことなのだが、さすがにそこまで奔放にはなれないのだろう。
 白雲は玄武の室に寄り、人間が感じる色香は確実に薄まっていることを伝えた。

「ふむ……そなたたちには一切感じられぬのであったな」
「はい。色香と言われましても……」

 ただ、昨夜陳を抱いた時に嗅いだ甘い香りは脳裏に残っている。あれを香子が身にまとっていたとしたら確かに危ういというのも納得ができた。

「侍女頭の陳が言うには注意すれば外出も可能かと」
「そうだな……。少し様子を見て考えよう」

 玄武は落ち着きが増したように白雲には見えた。香子を抱いたことで余裕がでてきたのだろう。

「調理人の件はどうなさいますか?」
「……我らが会おう。もし人となりが悪くなければこちらで使ってもいいやもしれぬ」

 白雲は一瞬眉をひそめかけたが、それもおそらく香子の為なのだろうと思い表情を元に戻した。それに気付いたのか玄武が苦笑する。

「……形はいびつであったが、香子が嬉しそうに食べていたのでな……」

 そういえば香子は庶民であったということを白雲も思い出した。ということは宮廷の豪奢な料理よりちまたの食べ物などの方が口に合うのかもしれない。
 白雲たち第一世代はあまり食事を必要としないが、昨夜陳を抱いたことで珍しく空腹を感じていた。細々とした用事を片付けた後、思わず使用人たちの食堂でまかないを食べてしまったぐらいである。たまたまそこで黒月も朝食を取っていた為目を丸くしていたが、それは余談である。ただ、眷族もそうなのだが基本的に彼らは性交をしたところで空腹を覚えることはまずない。空腹を覚えるということはすなわち相手に精を与えたということである。
 無意識のうちに陳に精を与えたことで、白雲は彼女を妻にすることに決めた。子はなかなか授からないだろうが、白雲の精を受けたことで陳の体は少しずつ造り変わる。第一世代である白雲は長命だ。少なくともあと二百年ほどは生きるだろうと自分でもわかっている。その二百年を陳と共にいられるのならと思うだけで、少し楽しくなった。

「ところで趙はどうしましょう? 全くこちらに足を踏み入れさせないというのも……」
「できるだけ香子に接触させないように気をつければ大丈夫だろう。護衛の者たちは引き続き中に入れないように」
「かしこまりました」

 いくつか相談し遺漏がないことを確認すると白雲は玄武の室を辞した。まずは眷族たちに伝える必要があり、趙への連絡は後回しにすることにした。
 なんとも忙しいことである。
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