異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第1部 四神と結婚しろと言われました

116.血圧が急上昇している気がします(113話からの続き)

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 玄武の言葉に香子はなんと答えていいのかわからなかった。
 そんな難しいこと、真面目に考えられるだけの余裕が今はなくて。
 でも玄武が好きだから、香子はそっと手を伸ばした。その手を切なそうに笑んだ玄武が受け取る。

『……すまぬ、酷な質問であったな……』

 両手で持っていた茶杯を取り上げられてテーブルに置かれ、香子はそのまま玄武の腕の中に捕らわれた。四神はみな背が高いが、そのすっきりした面と体が長袍に隠されているせいかあまりがっしりとした印象を受けない。けれど香子を抱きしめる腕は力強く、頭をもたせかけた胸もひどく逞しい。

『好き、なのは間違いないんです……きっと幸せなんだと思うし……』

 呟くように必死で言葉を紡ぐと、唇に指先が当てられた。

『我が悪かった。……ただ、我らがそなたを狂おしいほど愛しているということだけ覚えておいておくれ』

 その科白に香子は真っ赤になる。

(なんて科白が似合うんですか!?)

 そんな科白は物語の中だから様になるのだと香子は今まで思っていた。実際今までの彼氏にそんなことを言われたら絶対しらけるか噴き出していたに違いない。

『香子、返事は?』
『は、はい!』

 と答えてから返事を促した声が違うことに首を傾げる。その声のした方に顔を向けると、そこには朱雀が柔和な笑みを浮かべて立っていた。
 その姿もひどく眩しくて香子はくらくらする。
 あれだけ身体を触れられているというのに未だ香子は四神に慣れない。それもこれも己が重度のメンクイであることは香子にもわかっている。

『香子、今宵は我の室で……』

 朱雀の甘いテノールに香子はまた頬が熱くなった。
 やはり今夜は朱雀においしくいただかれてしまうらしい。縋るように自分を抱きしめている玄武を窺うと、『我にも共に愛させておくれ』とバリトンに囁かれて頭がおかしくなりそうだった。

『その前に……何がそなたをそなに泣かせたのだ?』

 心配そうな玄武の声に、香子は卓を見やる。そこにはポケットアルバムが置かれていた。

『中を見ても?』

 朱雀の問いに香子はコクン、と頷いた。どうせだからもう共有してもらった方がいい。
 朱雀が長椅子に腰かけ、玄武と香子が見えるようにめくった。

『ほう……これは見たことがない格好だな……』

 一番最初には香子の成人式の時の写真を入れてあった。

『これは、日本の伝統的な民族衣装です。振袖と言って、独身の女性が着る物で……あ、昔の服装なので今は行事の時ぐらいしか着ることはないですけど』
『ほほう、では既婚女性は何を着るのだ?』

 玄武も朱雀も興味津津である。

『既婚女性は、留袖、といってこの振袖より袖が短い着物を着ます。と言っても実は私恥ずかしながら自国の文化にはさっぱりなので……もしかしたら間違ったこと言ってるかも……』

 香子は首を傾げた。
 既婚者が振袖を着ない理由としては、振袖は女性が男性に告白されたり求婚されたりした時に返事によって袖の振り方を変えたという話がある。つまり既婚なら袖を振る必要がない為振袖は着ないということだ。

『こういう格好のそなたもきれいだな』

 香子は赤くなりっぱなしである。

『あの……これが私だってよくわかりましたね?』

 成人式までは髪を結いあげたりする為染めないでいたのだ。そのせいかこの写真を見せた人見せた人に、

「うわー、きれい! でもこれ誰?」

 と真顔で聞かれていたのである。香子からしたら他の人の写真を見せてどうするんだとツッコミを入れたかったが、現在の赤い髪をした香子とは誰も結びつかなかったらしい。全く面妖な話である。

『? そなた以外の誰だというのだ?』

 玄武と朱雀に真顔で聞かれて、とうとう香子は自分の頬を両手で挟んだ。

(だからどうしてそういうツボなことを言うかな、この方々は!)

 それからも一枚一枚写真の説明を乞われ、素直に答えているうちに香子の顔に笑顔が戻っていった。
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