異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
上 下
109 / 608
第1部 四神と結婚しろと言われました

109.爆弾発言はご遠慮願います(白雲、香子視点)

しおりを挟む
 香子が食事を終え四神と茶室へ移動した後、侍女頭はためらいながらも白雲に声をかけた。
 四神も眷族もある程度まで成長すると、見た目は二十代後半ぐらいの人間と変わらなくなる為誰に声をかけたものかと思うのだが、さすがに侍女頭は全体を観察しているだけあって眷族の中で誰が一番年長かは察しているようだった。
 白雲は青藍に、自分に構わず四神に着いていくように言い、侍女頭に向き直った。

『何か?』
『たいへん申し上げにくいことなのですが……』

 と侍女頭が言いにくそうに告げた内容は、白雲をはっとさせるには十分だった。

(困ったことになったな……)

 趙文英や王英明には四神宮に足を踏み入れないよう今日のところは伝えてあるという。だが王はともかく趙は四神宮付の官吏である。全く香子の前に顔を見せないというわけにもいくまい。
 ここで白雲は四神と香子の状態を正しく理解した。自分たち眷族には全く感じられないが、四神の誰かに抱かれた花嫁というのは人間にとっても魅力的に映るらしい。
 人間の男は論外だが、もし花嫁が人間の女に襲われたらどうなのだろう。香子からしたらふざけるな! と言いたくなるような思考だが、本来四神も眷族も性に関しては奔放である。ただこれと決まった相手ができればそれ以外には全く見向きもしないという極端さはあった。
 自分であればどうだろうと白雲は想像する。
 もし愛しい人ができ、その人が人間の女に甘く啼かされているのを目にしたら。

(それはそれでいいかもしれぬ……)

 眷族とて男である。頭の腐ったことを考えて、目の前で困っている侍女頭を見やった。
 眷属にとって決まった人、といえば”つがい”である。全身全霊をかけて一生愛し抜く相手が、己の目線より低い位置で困り顔をしている女性と重なった。

『よく知らせてくれた。ところでそなたは決まった相手はおるのか?』
『いえ……は……?』

 侍女頭は思いがけない問いに顔を上げた。白銀の髪の金の瞳を持った美丈夫が彼女を見ている。
 真正面からその姿を見てしまったことで侍女頭は思わず頬を染めた。

『あ、いえ……特にそういう方はおりませんが……』
『後ほど迎えに行く。相手をせよ』

 その科白に彼女は固まった。白雲はそれに構わず茶室へ向かう。
 後に残された侍女頭は赤くなったり青くなったりとしばらくその場で百面相をしていた。


 遅れてやってきた白雲を見て、香子は軽く会釈する。本当はそんなことはしなくてもいいらしいが自分より遥かに年長であることは間違いないし、いろいろお世話になっているのである。会釈ぐらいしても罰は当たらないと思うのだ。
 白雲はまっすぐ白虎の元に戻ると何やら白虎に耳打ちした。

『ほう……それはすっかり忘れていたな……』

 そう呟くように言って白虎は頭を掻いた。

『どうしたものかな……』

 何か厄介事でも持ちあがったのだろうか。香子は軽く首を傾げる。
 白虎は三神を見やり、すっと目を閉じた。それに三神も軽く頷く。どうやら何かあったらしいということは香子にもわかった。
 ここで念話を使うということはおそらく相談事が済めば香子にも知らせてくれるに違いないだろうと、彼女はまた何杯目かのお茶を注ぎ、啜った。
 やっぱり中国茶はおいしいなと再認識している間に話がまとまったらしい。四神の視線が香子に集中する。
 この場合はどうしたものかと香子はまた首を傾げた。
 先に口を開いたのは朱雀だった。
 だがそれはとんでもない爆弾であった。
 朱雀はあろうことか、

香子シャンズ、そなた試しに我ら全てと交わってはみぬか?』

 と、まるで近所に買い物に行かないかと誘うような口調でのたまったのだった。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

処理中です...