異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
上 下
107 / 608
第1部 四神と結婚しろと言われました

107.眷族たちの苦労(白雲視点)

しおりを挟む
 眷族たちは正直頭を抱えたかった。
 前の花嫁から産まれた眷族である白雲、紅夏、青藍は花嫁に対する四神の盲目さを大体理解している。
 四神や眷族からすれば食べ物を相手に渡す(食べさせる)ということが求愛行動であることは当り前なのだが、どう見ても花嫁がそんなことを意図しているとは眷族には思えない。しかしおそらく四神の頭の中は薔薇色に違いなかった。
 下手すると今夜四神全てが襲いかかりそうな勢いである。
 白雲は嘆息した。

『花嫁様、今宵はどなたとお過ごしになりますか?』

 北京ダックの包みを食べ終えた後に声をかけると、香子はカァッと頬を染めた。

『ど、どどどどなたとって……』

 香子の目が泳ぐ。だがこれは花嫁の身を守る為に必要なことである。

『我とに決まっておろう』
『昨夜と同じく玄武兄と共にでよかろうに』
『せっかくだから今宵は我と』
『誘われてしまっては断ることはできぬな』

 四神(上から玄武、朱雀、白虎、青龍)の答えに香子は目を白黒させた。やはり全くわかっていないらしい。

『花嫁様、四神や我ら眷族にとって食べ物を渡すという行為はとても大事なことなのです』
『はぁ……』

 香子が少しまずいことをしたかなという表情をした。
 全く以てその通りである。

『花嫁様は先ほど四神にダックを包んだ物をお渡しになりました。それは”一生共にありたい”という求愛行動に相当するのです』

 香子は目を見開いた。そして自分の行動を振り返ったのか、いきなり真っ赤になった。

『そ、それって私から四神にプロポーズしたってこと……じゃあ……』

 確認するように言って四神を窺う。四神は満面の笑みを浮かべて香子を見ている。

『……う……』

 白雲はそっと嘆息した。

『……たいへん失礼ですが、花嫁様は我らの求愛行動を理解していらっしゃらないかと。これからは夜を共にされたいと思う方以外には食べ物をお渡しにはならないよう……』
『……は、はい……』

 香子は真っ赤になりながらどうにか返事をした。

『理解しているとは思わなんだが』
香子シャンズ、我のことは求めてくれよう?』
『やっぱりそんなことじゃないかとは思っていたけどな』
『短い夢でしたな……』

 四神の呟きに白雲はうろんな眼差しをあさっての方向に向けた。さすがに四神に向けるわけにはいかない。
 本当に花嫁に対しては神の威厳もなにもあったものではない。
 母親であった前の花嫁と先代の白虎の様子を思い出す。ほんの少しでも花嫁に対して悪意が向けられそうになった時、先代は荒れ狂いそして吠えた。花嫁と先代は誰から見ても愛し合っていたが、より愛していたのは先代の方だろう。残していく花嫁を最後まで心配し、世界と同化するその日まで離そうとしなかった。それが花嫁にとってよかったのか悪かったのかはわからない。
 ただ、その後十年花嫁は白虎を育てることだけに心血を注いだ。それは先代への愛だったのだろうと白雲は思う。

『……どうしようかな……』

 もぐもぐと食べながら香子はなにやら考えているようだった。
 玄武、朱雀を交互に見ては首を傾げる。一応誰と過ごすのか真面目に思案しているらしい。

(随分と無垢な御方だ)

 食べることと歴史が好きで、時折こちらがはっとするようなことを言う香子は眷族たちから見ても面白い。昨夜玄武を受け入れたことは間違いなさそうだから、他の三神は落ち着いているのだろう。その分玄武は色香に誘われてたいへんなことになっているだろうが、元々花嫁に対してそういう香りなどを感じることのない眷族には想像することしかできない。
 だから眷族たちもすっかり忘れていた。
 花嫁が四神に抱かれたことによって纏う色香が人間を惹きつけるということを。
 侍女たちが香子を見てほんのりと頬を染めているという事実を、見逃してしまっていた。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

巻き戻ったから切れてみた

こもろう
恋愛
昔からの恋人を隠していた婚約者に断罪された私。気がついたら巻き戻っていたからブチ切れた! 軽~く読み飛ばし推奨です。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。が、その結果こうして幸せになれたのかもしれない。

四季
恋愛
王家に生まれたエリーザはまだ幼い頃に城の前に捨てられた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...