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第1部 四神と結婚しろと言われました
107.眷族たちの苦労(白雲視点)
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眷族たちは正直頭を抱えたかった。
前の花嫁から産まれた眷族である白雲、紅夏、青藍は花嫁に対する四神の盲目さを大体理解している。
四神や眷族からすれば食べ物を相手に渡す(食べさせる)ということが求愛行動であることは当り前なのだが、どう見ても花嫁がそんなことを意図しているとは眷族には思えない。しかしおそらく四神の頭の中は薔薇色に違いなかった。
下手すると今夜四神全てが襲いかかりそうな勢いである。
白雲は嘆息した。
『花嫁様、今宵はどなたとお過ごしになりますか?』
北京ダックの包みを食べ終えた後に声をかけると、香子はカァッと頬を染めた。
『ど、どどどどなたとって……』
香子の目が泳ぐ。だがこれは花嫁の身を守る為に必要なことである。
『我とに決まっておろう』
『昨夜と同じく玄武兄と共にでよかろうに』
『せっかくだから今宵は我と』
『誘われてしまっては断ることはできぬな』
四神(上から玄武、朱雀、白虎、青龍)の答えに香子は目を白黒させた。やはり全くわかっていないらしい。
『花嫁様、四神や我ら眷族にとって食べ物を渡すという行為はとても大事なことなのです』
『はぁ……』
香子が少しまずいことをしたかなという表情をした。
全く以てその通りである。
『花嫁様は先ほど四神にダックを包んだ物をお渡しになりました。それは”一生共にありたい”という求愛行動に相当するのです』
香子は目を見開いた。そして自分の行動を振り返ったのか、いきなり真っ赤になった。
『そ、それって私から四神にプロポーズしたってこと……じゃあ……』
確認するように言って四神を窺う。四神は満面の笑みを浮かべて香子を見ている。
『……う……』
白雲はそっと嘆息した。
『……たいへん失礼ですが、花嫁様は我らの求愛行動を理解していらっしゃらないかと。これからは夜を共にされたいと思う方以外には食べ物をお渡しにはならないよう……』
『……は、はい……』
香子は真っ赤になりながらどうにか返事をした。
『理解しているとは思わなんだが』
『香子、我のことは求めてくれよう?』
『やっぱりそんなことじゃないかとは思っていたけどな』
『短い夢でしたな……』
四神の呟きに白雲はうろんな眼差しをあさっての方向に向けた。さすがに四神に向けるわけにはいかない。
本当に花嫁に対しては神の威厳もなにもあったものではない。
母親であった前の花嫁と先代の白虎の様子を思い出す。ほんの少しでも花嫁に対して悪意が向けられそうになった時、先代は荒れ狂いそして吠えた。花嫁と先代は誰から見ても愛し合っていたが、より愛していたのは先代の方だろう。残していく花嫁を最後まで心配し、世界と同化するその日まで離そうとしなかった。それが花嫁にとってよかったのか悪かったのかはわからない。
ただ、その後十年花嫁は白虎を育てることだけに心血を注いだ。それは先代への愛だったのだろうと白雲は思う。
『……どうしようかな……』
もぐもぐと食べながら香子はなにやら考えているようだった。
玄武、朱雀を交互に見ては首を傾げる。一応誰と過ごすのか真面目に思案しているらしい。
(随分と無垢な御方だ)
食べることと歴史が好きで、時折こちらがはっとするようなことを言う香子は眷族たちから見ても面白い。昨夜玄武を受け入れたことは間違いなさそうだから、他の三神は落ち着いているのだろう。その分玄武は色香に誘われてたいへんなことになっているだろうが、元々花嫁に対してそういう香りなどを感じることのない眷族には想像することしかできない。
だから眷族たちもすっかり忘れていた。
花嫁が四神に抱かれたことによって纏う色香が人間を惹きつけるということを。
侍女たちが香子を見てほんのりと頬を染めているという事実を、見逃してしまっていた。
前の花嫁から産まれた眷族である白雲、紅夏、青藍は花嫁に対する四神の盲目さを大体理解している。
四神や眷族からすれば食べ物を相手に渡す(食べさせる)ということが求愛行動であることは当り前なのだが、どう見ても花嫁がそんなことを意図しているとは眷族には思えない。しかしおそらく四神の頭の中は薔薇色に違いなかった。
下手すると今夜四神全てが襲いかかりそうな勢いである。
白雲は嘆息した。
『花嫁様、今宵はどなたとお過ごしになりますか?』
北京ダックの包みを食べ終えた後に声をかけると、香子はカァッと頬を染めた。
『ど、どどどどなたとって……』
香子の目が泳ぐ。だがこれは花嫁の身を守る為に必要なことである。
『我とに決まっておろう』
『昨夜と同じく玄武兄と共にでよかろうに』
『せっかくだから今宵は我と』
『誘われてしまっては断ることはできぬな』
四神(上から玄武、朱雀、白虎、青龍)の答えに香子は目を白黒させた。やはり全くわかっていないらしい。
『花嫁様、四神や我ら眷族にとって食べ物を渡すという行為はとても大事なことなのです』
『はぁ……』
香子が少しまずいことをしたかなという表情をした。
全く以てその通りである。
『花嫁様は先ほど四神にダックを包んだ物をお渡しになりました。それは”一生共にありたい”という求愛行動に相当するのです』
香子は目を見開いた。そして自分の行動を振り返ったのか、いきなり真っ赤になった。
『そ、それって私から四神にプロポーズしたってこと……じゃあ……』
確認するように言って四神を窺う。四神は満面の笑みを浮かべて香子を見ている。
『……う……』
白雲はそっと嘆息した。
『……たいへん失礼ですが、花嫁様は我らの求愛行動を理解していらっしゃらないかと。これからは夜を共にされたいと思う方以外には食べ物をお渡しにはならないよう……』
『……は、はい……』
香子は真っ赤になりながらどうにか返事をした。
『理解しているとは思わなんだが』
『香子、我のことは求めてくれよう?』
『やっぱりそんなことじゃないかとは思っていたけどな』
『短い夢でしたな……』
四神の呟きに白雲はうろんな眼差しをあさっての方向に向けた。さすがに四神に向けるわけにはいかない。
本当に花嫁に対しては神の威厳もなにもあったものではない。
母親であった前の花嫁と先代の白虎の様子を思い出す。ほんの少しでも花嫁に対して悪意が向けられそうになった時、先代は荒れ狂いそして吠えた。花嫁と先代は誰から見ても愛し合っていたが、より愛していたのは先代の方だろう。残していく花嫁を最後まで心配し、世界と同化するその日まで離そうとしなかった。それが花嫁にとってよかったのか悪かったのかはわからない。
ただ、その後十年花嫁は白虎を育てることだけに心血を注いだ。それは先代への愛だったのだろうと白雲は思う。
『……どうしようかな……』
もぐもぐと食べながら香子はなにやら考えているようだった。
玄武、朱雀を交互に見ては首を傾げる。一応誰と過ごすのか真面目に思案しているらしい。
(随分と無垢な御方だ)
食べることと歴史が好きで、時折こちらがはっとするようなことを言う香子は眷族たちから見ても面白い。昨夜玄武を受け入れたことは間違いなさそうだから、他の三神は落ち着いているのだろう。その分玄武は色香に誘われてたいへんなことになっているだろうが、元々花嫁に対してそういう香りなどを感じることのない眷族には想像することしかできない。
だから眷族たちもすっかり忘れていた。
花嫁が四神に抱かれたことによって纏う色香が人間を惹きつけるということを。
侍女たちが香子を見てほんのりと頬を染めているという事実を、見逃してしまっていた。
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