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第1部 四神と結婚しろと言われました

98.揺れる心、ぶれない想い

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 部屋に戻って、まず香子は大きく伸びをした。玄武の腕の中でリラックスできていないわけではないが、今日は別の意味で体がぐにゃぐにゃしている気がする。少しはしゃきっとしないとこのまま自分の足で一歩も歩くことができなくなってしまいそうだ。
 そうなったらそうなったで一番怖いのは、四神が嬉々として何もかもお世話してくれそうなことである。

(玄武様や朱雀様なら本当にやりかねない……)

 本気で下の世話までされそうなところが嫌だ。
 それにしても、一体いつまで抱き上げられて移動の生活が続くのだろうか。四神宮にいる間の一年で足腰がかなり弱ってしまいそうな気がする。
 領地に行ってまで延々その生活はさすがに勘弁してもらいたい。
 と、そこまで考えて他にも直近でどうにかしなければならないことがあることを思い出した。

(今夜どうしよう……)

 夕食の支度ができるまでと、着替えさせられて一人になった香子は顔を真っ赤に染めた。
 やはり朱雀の熱だけを受けて二時間一人でやりすごすなんてことは無謀だったのだ。


(わかってたなら言ってくれればよかったのに……)
 そうしたらいくらなんでも試してみようなどという気にはならなかったと思う。この赤い髪は惜しいが、その為に毎日あんな熱を受け続けるのは論外である。
 ただ、とも考える。

(朱雀様と一緒になったらあの熱を毎晩受けることになるんだよね……?)
「わーっ、わーっ、わーっっ!」

 想像しそうになってどうにかそれを阻止しようとわめく。傍から見たら間違いなく変な人確定である。

「うー……」
(全部玄武様が悪い!)

 どうしようもないので責任転嫁する。
 今日一日の玄武の密度はものすごかったと香子は思う。
 朝から始まって、皇帝のところから戻ってからのこと、そして植物園での時間といい玄武でいっぱいだったと言ってもおかしくはない。
 正確に言えば昨夜から香子は翻弄され続けている。
 とにかく朱雀から熱を受けるのだけはお断りしないといけない。
 そしてまだよくわかっていない未来のこともいろいろ話し合わなければ。
 ある程度考えがまとまったところで侍女に呼ばれ、香子は食堂へ向かった。
 いつも通り自分が一番遅いのは何故なのだろうと香子は思う。なんだかこれではまるでえらい人のようではないか。
 香子が席に着くと同時に給仕をされる。
 四神はそんな香子の一挙手一投足を優しく見守っている。ふと顔を上げて四神の誰かを見れば必ず目が合うというのも不思議だった。

『あの……なんでいつも食事の時間に呼ばれるのは私が一番最後なのでしょうか?』

 気になったことは聞かないと気が済まない。

『不満か?』

 朱雀に聞かれて首を振る。不満とかそういうことではないのだ。
 目の端で侍女たちが困惑したような表情をしているのが見えた。

『いえ……ただ食事等に一番最後に来る、というのは一番身分が高い人のようなイメージがあるのです。関係なければそれでいいです』

 それに四神は面白そうな顔をした。眷族は沈黙を守っているが、黒月はあからさまに頭の弱い子を見るような目を香子に向けた。

(頭悪くてすいませんねぇ……)

 香子は早くも口から出た言葉を取り消してしまいたくなった。どんだけ自意識過剰なのだ自分は。

『身分という考え方はわからぬが、優先される者という意味では確かにそなたが一番であろう』

 玄武の科白に香子は伏せかけていた顔を上げた。

『優先される者?』

 それに四神が頷く。

『少なくとも我らにとってそなた以上に大事な存在はおらぬ』

 朱雀が答える。

『正確に言えば、そなた以外はどうでもいいのだ』

 白虎も言う。青龍はそれにただ頷くばかり。
 香子は唖然とした。
 はっきりとそう言いきれる彼らが羨ましいと香子は思う。
 香子にはまだ誰が一番なのかわかっていないから。
 だが四神の言葉が嬉しくてたまらない。香子は頬を染め、それをごまかすように言った。

『わ、わかりました……。とりあえずごはんにしましょう!』

 それに四神は笑んだ。
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