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第1部 四神と結婚しろと言われました
95.厄介事が多すぎる(趙、王の会話他)
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お茶の準備の為に先を歩く趙文英と王英明も、声を潜めながら話していた。
彼らもこの景山には沢山の人間が配備されているのは理解している。だがこの禁域に勤める者は全て皇帝や中書令の息がかかっているし、敷地内に宿舎があるのでめったなことで表に出てくることはない。それだけ重要な場所であるのだが、それを知っている者は少ない。
だから先日香子が万春亭から景色を見て呟いた科白に彼らは驚いたのだ。
皇帝の血族もこの庭園に足を踏み入れることはあるが、基本は皇帝と共にかまたは許可を取らなければそう簡単に入ることはできない。だが血族であっても万春亭からの景色を正しく理解するものは少ないだろう。
『……厄介なことになりそうだ』
『しかし何故あのようなことを……』
王の科白に趙は眉を寄せた。香子が気づかなければそのままだったかもしれないが、果たして彼女は気づいてしまった。それ故にそれが侍女の独断であるということがわかり、侍女の出自も調べられた。その侍女は後宮にいる安妃の遠縁に当たる者だったと聞いた。
安妃は女児を一人産んでいる。最近はどうなっているのかわからないが、特に寵愛の深い妃ではなかったはずである。後宮にいる者の縁戚者が宮廷に多く勤めているのは周知の事実だが、四神の不興を買うようなことをしてただで済むと思っているのだろうか。
『皇帝を侮っているのか、それとも神への敬意を忘れているのか』
『なんと畏れ多い……』
『しかも既に噂は広がっている』
趙は目を見張った。
『馬鹿な……!』
噂の内容に思い至り、趙の顔が怒りで真っ赤になった。
『落ち着け。我らは四神と花嫁の関係を比較的正しく理解しているだろうが、他の者たちから見ればそうではないのだ』
『だが、白香様が四神以外に目を向けるなどありえないだろう……』
趙の科白に後ろに控えている侍女たちは心の中で大いに頷いた。趙と王の会話を聞く限り、皇帝に請われて香子が訪ねたことであらぬ噂が広がりつつあるらしい。
『ありえないと思うのは我らだからだ。邪推しようと思えばいくらでも邪推できる。近づいてくる者が増えるかもしれないが知らぬ存ぜぬを通せ』
『そうしよう』
王の言っていることが本当なら、四神宮に勤める侍女たちにも後宮の関係者が接触してくる危険性はある。
(花嫁様が皇帝に懸想するなんてありえないわ!)
侍女たちもまたお茶の準備をしながら内心ひどく憤っていた。
玄武に抱き上げられて恥ずかしそうに頬を染めている香子が、皇帝になど目を向けるはずがないと侍女たちは確信していた。どんな悪女を想像しているのか知らないが、実際の香子は四神に迫られて戸惑っているようにしか見えない。
顔を寄せる玄武を恥じらいながらも必死で押しのけようとする姿はなんとも愛らしく映った。
(後宮の女狐たちと花嫁様を一緒にしないでちょうだい!)
いつのまにか侍女たちが香子に対して庇護欲を持ち始めていることを、もちろん香子は全く知らないでいた。
その頃玄武は香子に言われるがまま、南国に生えているような植物が見える方へ足を進めていた。そしていつのまにかガラス張りの建物の中に足を踏み入れていた。
どうやらそこは温室のようである。
とはいっても暑いというかんじはなく、寒風から植物を遮る為に建物を作ったようだった。温室の中ほどに小さな四阿があり、そこに玄武は香子を抱いたまま腰を下ろした。
『この植物園って、どれぐらいの広さがあるんでしょうね?』
香子の言葉に玄武は笑んだ。
『見た目ほどの広さはあるまい。確かこの裏で珍しい動物も飼っているはずだ』
『はー……動物園まであるんだ……』
しかも皇帝の為だけに。
やはり大国の皇帝の庭園というのはスケールが違うと香子は思う。
『すごいですね……』
香子の呟きに玄武は複雑そうな顔をした。それに香子はおや? と思う。
また玄武は余計なことを考えているらしい。
『見たいか?』
『見たいことは見たいですよ。でも庶民なんで所有したいとは思いません』
そう言ってくるんとした目で見上げてきた香子を、玄武はやはり愛しいと思った。
彼らもこの景山には沢山の人間が配備されているのは理解している。だがこの禁域に勤める者は全て皇帝や中書令の息がかかっているし、敷地内に宿舎があるのでめったなことで表に出てくることはない。それだけ重要な場所であるのだが、それを知っている者は少ない。
だから先日香子が万春亭から景色を見て呟いた科白に彼らは驚いたのだ。
皇帝の血族もこの庭園に足を踏み入れることはあるが、基本は皇帝と共にかまたは許可を取らなければそう簡単に入ることはできない。だが血族であっても万春亭からの景色を正しく理解するものは少ないだろう。
『……厄介なことになりそうだ』
『しかし何故あのようなことを……』
王の科白に趙は眉を寄せた。香子が気づかなければそのままだったかもしれないが、果たして彼女は気づいてしまった。それ故にそれが侍女の独断であるということがわかり、侍女の出自も調べられた。その侍女は後宮にいる安妃の遠縁に当たる者だったと聞いた。
安妃は女児を一人産んでいる。最近はどうなっているのかわからないが、特に寵愛の深い妃ではなかったはずである。後宮にいる者の縁戚者が宮廷に多く勤めているのは周知の事実だが、四神の不興を買うようなことをしてただで済むと思っているのだろうか。
『皇帝を侮っているのか、それとも神への敬意を忘れているのか』
『なんと畏れ多い……』
『しかも既に噂は広がっている』
趙は目を見張った。
『馬鹿な……!』
噂の内容に思い至り、趙の顔が怒りで真っ赤になった。
『落ち着け。我らは四神と花嫁の関係を比較的正しく理解しているだろうが、他の者たちから見ればそうではないのだ』
『だが、白香様が四神以外に目を向けるなどありえないだろう……』
趙の科白に後ろに控えている侍女たちは心の中で大いに頷いた。趙と王の会話を聞く限り、皇帝に請われて香子が訪ねたことであらぬ噂が広がりつつあるらしい。
『ありえないと思うのは我らだからだ。邪推しようと思えばいくらでも邪推できる。近づいてくる者が増えるかもしれないが知らぬ存ぜぬを通せ』
『そうしよう』
王の言っていることが本当なら、四神宮に勤める侍女たちにも後宮の関係者が接触してくる危険性はある。
(花嫁様が皇帝に懸想するなんてありえないわ!)
侍女たちもまたお茶の準備をしながら内心ひどく憤っていた。
玄武に抱き上げられて恥ずかしそうに頬を染めている香子が、皇帝になど目を向けるはずがないと侍女たちは確信していた。どんな悪女を想像しているのか知らないが、実際の香子は四神に迫られて戸惑っているようにしか見えない。
顔を寄せる玄武を恥じらいながらも必死で押しのけようとする姿はなんとも愛らしく映った。
(後宮の女狐たちと花嫁様を一緒にしないでちょうだい!)
いつのまにか侍女たちが香子に対して庇護欲を持ち始めていることを、もちろん香子は全く知らないでいた。
その頃玄武は香子に言われるがまま、南国に生えているような植物が見える方へ足を進めていた。そしていつのまにかガラス張りの建物の中に足を踏み入れていた。
どうやらそこは温室のようである。
とはいっても暑いというかんじはなく、寒風から植物を遮る為に建物を作ったようだった。温室の中ほどに小さな四阿があり、そこに玄武は香子を抱いたまま腰を下ろした。
『この植物園って、どれぐらいの広さがあるんでしょうね?』
香子の言葉に玄武は笑んだ。
『見た目ほどの広さはあるまい。確かこの裏で珍しい動物も飼っているはずだ』
『はー……動物園まであるんだ……』
しかも皇帝の為だけに。
やはり大国の皇帝の庭園というのはスケールが違うと香子は思う。
『すごいですね……』
香子の呟きに玄武は複雑そうな顔をした。それに香子はおや? と思う。
また玄武は余計なことを考えているらしい。
『見たいか?』
『見たいことは見たいですよ。でも庶民なんで所有したいとは思いません』
そう言ってくるんとした目で見上げてきた香子を、玄武はやはり愛しいと思った。
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