異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
上 下
94 / 608
第1部 四神と結婚しろと言われました

94.決意(三神たちの会話)

しおりを挟む
 玄武と香子から離れた三神と眷族は木々が集まる場所に足を進めた。
 木々には若芽が見られ、春の訪れを優しく告げている。冬は厳しい寒さに見舞われる北京だが、こうしてきちんと毎年春が訪れるのだ。
 景山のあるこの庭園の中に人の姿は見えないが、かなりの人数が配備されていることが四神やその眷族にはわかっていた。庭園の維持管理と禁域であることでの護衛に沢山の人間がいる。彼らはこの禁域に足を踏み入れることができる貴人の前にはできるだけ姿を現さない。彼らが姿を現す時というのは侵入者を排除する時と貴人に危険が迫った場合のみである。一応庭園の維持管理を行っている庭師などは貴人に請われれば説明などに出てくることはあるが、それも極めてまれである。
 朱雀は木々を見るようなそぶりで歩きながら結界を張った。これから話すことは香子に関係のあることだったから、万が一にも第三者に聞かれないようにする為である。

『……二人きりにして大丈夫なのでしょうか……』

 呟くような小声の黒月に、朱雀は口元に笑みを浮かべた。

『あれだけはっきりと皇帝に興味がないと答えたのだ。玄武兄が襲うことはあるまい』
『あれから何があったのですか?』

 青龍の問いに、淡々と朱雀が答える。

『そなたたちが予想していた通りだ。玄武兄は香子シャンズを襲おうとし、それを黒月が止めに入った。香子はその後皇帝には全く興味がないと弁明していたのだが……くっ……』

 そこまで言って香子の言を思い出したらしい。笑いをこらえるような朱雀の様子に、理由を知らない面々は目を丸くした。

『……花嫁様は、皇帝の相手など金を積まれてもごめんだとおっしゃったらしいです』

 紅夏が後を引き取る。白虎と青龍はその言葉の意味を正しく理解すると、朱雀と同じように笑い出した。

『だめだ、面白すぎる!』

 白虎がたまらないというように声を上げる。
 ここに香子がいたらまたむーっとした顔をするだろうが、皇帝は人間の最高位であるだけに、そこまで嫌がる者というのはこの国では存在しない。むしろ積極的に自分の売り込みをしたがるだろう。だから四神や眷族にとっても香子の言というのは爆弾発言としかいいようがなかった。

『……しかもその理由がかなりふるっていてな……』

 そう言って、朱雀が香子の言を一字一句漏らさずに披露すると、さすがに白雲や青藍まで噴き出してしまった。

『……花嫁様に対して失礼かとは存じますが……随分と、その……』

 青藍が言いづらそうに言葉を紡ぐのに朱雀は頷いた。

『ただ、香子が言っていたことはあながち間違いとも言えぬ。後宮には悪い気が淀みやすい。皇帝がいくら賢明であろうとも、そこに住まう女たちの争いは絶えぬものだ』
『然り』

 白虎と青龍が同意する。

『皇帝と話をさせたのは早計だったでしょうか……』

 青龍の言葉に朱雀は首を振った。

『香子の知識や聡明さを隠すことはできぬ。遅かれ早かれ皇帝と言葉を交わすことにはなっただろう。不穏な芽は早めに摘んでおいた方がいいことは間違いないが……あの皇帝、些か人望がなさそうではあるな……』
『余計な芽まで出ているように我には思われますが』

 青龍が眉を寄せて言い募る。
 それに朱雀はふっと笑った。

『しばらくほおっておいても構わぬだろう。我らが側にいる限り香子に手を出せる者はおらぬ』
『ですが……』
『花嫁一人守れずして神を名乗れようか』
『否』

 それには白虎も青龍も同意した。

『それに我らが思っているよりも香子は脆く、しかし強くもある』

 眷族たちは首を傾げたが、白虎と青龍には思い当たるところがあるようだった。

『我らは我らのやり方で香子を守ればいい。どうせこの国に未練などないだろう?』

 朱雀の科白に彼らは頷いた。
 最悪の場合、四神がこの国を捨てることも視野に入れているとはきっとこの国の誰も思ってはいないだろう。それぐらい長く四神はこの国に留まり続けている。
 だがそうしてもいいぐらい四神にとって花嫁という存在はかえがたいものなのだった。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

できれば穏便に修道院生活へ移行したいのです

新条 カイ
恋愛
 ここは魔法…魔術がある世界。魔力持ちが優位な世界。そんな世界に日本から転生した私だったけれど…魔力持ちではなかった。  それでも、貴族の次女として生まれたから、なんとかなると思っていたのに…逆に、悲惨な将来になる可能性があるですって!?貴族の妾!?嫌よそんなもの。それなら、女の幸せより、悠々自適…かはわからないけれど、修道院での生活がいいに決まってる、はず?  将来の夢は修道院での生活!と、息巻いていたのに、あれ。なんで婚約を申し込まれてるの!?え、第二王子様の護衛騎士様!?接点どこ!? 婚約から逃れたい元日本人、現貴族のお嬢様の、逃れられない恋模様をお送りします。  ■■両翼の守り人のヒロイン側の話です。乳母兄弟のあいつが暴走してとんでもない方向にいくので、ストッパーとしてヒロイン側をちょいちょい設定やら会話文書いてたら、なんかこれもUPできそう。と…いう事で、UPしました。よろしくお願いします。(ストッパーになれればいいなぁ…) ■■

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

誰でもイイけど、お前は無いわw

猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。 同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。 見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、 「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」 と言われてしまう。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

玉の輿を狙う妹から「邪魔しないで!」と言われているので学業に没頭していたら、王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
王立学園四年生のリーリャには、一学年下の妹アーシャがいる。 昔から王子様との結婚を夢見ていたアーシャは自分磨きに余念がない可愛いらしい娘で、六年生である第一王子リュカリウスを狙っているらしい。 入学当時から、「私が王子と結婚するんだからね!お姉ちゃんは邪魔しないで!」と言われていたリーリャは学業に専念していた。 その甲斐あってか学年首位となったある日。 「君のことが好きだから」…まさかの告白!

処理中です...