上 下
88 / 598
第1部 四神と結婚しろと言われました

88.固い話は苦手なのです

しおりを挟む
 香子はバイトぐらいはしたことがあるがまだ本格的に働いたことはない。だから福利厚生等はほとんどわからない。
 ただ先日四神の前で話したようなことであれば説明できないこともなかった。

『私のいた世界では、仕事をすれば給金がもらえるのは同じでしょうが、その他に時間外労働ですとか、特別な仕事をすれば更にその分の給金が上乗せされていました』
『ほほう……』

 中書令、王、趙がそれを記録する。
 そして四神宮に勤めている人たちの現状を説く。

『つまり仕事量が増えるからその分上乗せする、ということか』
『はい。それから販売や分配、寄付するにあたっての事務等の人件費も不要品販売で得た利益から出していただければと思っています』
『そうすると寄付する分が減ってしまうがそれでもいいのか?』

 所詮は不要品の処分をどうするかで思いついたことなのでこだわってはいない。ただ溜めこんでおくよりはいいかなと思っただけの話である。

『うーん、正直言うと思いつきを言っただけなので深く考えていないのです。言っちゃ悪いですけど、贈り物をするってことはなんらかの下心があるわけでしょう? だからただもらいっぱなしにするよりは、活用してどこそこに寄付しましたとか礼状を出せば下手な考えは起こさせないですむかなと』

 みな目を丸くした。香子は首を傾げる。またなにかおかしなことを言っただろうか。
 香子の椅子代わりになっていた玄武の腕が動き、香子をきつく抱きしめる。茶器を持っていなくてよかったと香子は思った。

『……大学に通っていたと聞いた』

 皇帝が考えるような表情で呟くように言った。

『卒業はしてきましたが』

 それが何か? と再び首を傾げる。

(そんなあほなこと言ったかしら?)

 でも自分を抱きしめる玄武の腕はとても優しいし、みなに呆れたような色もない。

『そなたの国の教育制度はどうなっている?』

 話が随分と飛んだなーと思いつつ素直に答える。

『ええと、七歳になる年に小学校に入ります。小学が六年、その後中学三年までが男女共に義務教育。その後に高等学校三年、大学が四年あります。通うかどうかは家の経済状況や子どもの学力レベルによります。ただ大体の者は高等学校までは通いますし、大学に行く者も増えてはいます』
『男女共に最低九年も学ぶことができるのか』
『はい』

 中国でも六・三・三制だから間違ったことは言っていないと思う。日本では大卒の人は珍しくもなんともないが、中国ではまだ一部である。都市部ならそれほど珍しくはなくても農村部となるとまだまだ少ない。

『その高等学校や大学というのも女子は通うことが可能なのか?』
『はい、試験はありますしお金もかかりますからそれさえクリアできれば誰でも通うことは可能です』
『……そなたの世界は随分と進んでいるようだな』

 やっぱり女子が学校に行くというのは珍しいのだろう。そうなると識字率は随分と低いのではなかろうか。

『こちらの国の制度などはわからないので私にはなんとも言えません』

 遅れていると考えるのはたやすいが、これで国が回ってきているのだから間違っているとは思えない。

『興味深い話であった。またそなたの世界の話を聞かせてもらいたいと思うのだが如何だろうか』

 皇帝の言葉に、香子は自分を抱きしめている玄武を見やる。
 ようは四神が耐えられるかどうかにかかっている。玄武は香子の意図を理解して苦笑した。

『我らが必ず同席するという条件でならそなたの好きにするといい』

 それに香子は頷く。いくらなんでも四神のいないところで話をする気にはなれなかった。
 香子は皇帝に向き直った。

『かまいませんけど、そんなに難しい話はできませんよ?』

 香子が知っているのは中国の歴史・お茶・経済状況や簡単な地理ぐらいのものである。日本人であることは知られていないから日本のことを話す必要がないのは助かる。何度も言うようだが香子は日本のことの方がよくわかっていないのである。

『もちろん雑談程度で構わぬ』
『それならかまいません』

 香子が頷くと皇帝は満足したような顔をした。
 不要品の販路や寄付先等のリストは明日にでも用意してくれるらしい。
 皇帝の執務室を出るといきなり景色がぶれた。帰りまで歩く気はなかったようだった。
 せめて趙か王に一言言ってしかるべきだろうと香子は嘆息した。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

私の部屋で兄と不倫相手の女が寝ていた。

ほったげな
恋愛
私が家に帰ってきたら、私の部屋のベッドで兄と不倫相手の女が寝ていた。私は不倫の証拠を見つけ、両親と兄嫁に話すと…?!

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

処理中です...