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第1部 四神と結婚しろと言われました
80.そろそろ試してみようと思います
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そんなことを朱雀が考えているとは全く思ってもいない香子は、食後のお茶でひとごこちついていた。
食事時に出されるお茶は茉莉花茶である。最初のうちは緑茶であったが、中華料理には茉莉花茶が飲みたいようなことを言ったら、それからごはんのお供は茉莉花茶になった。
だが実際のところ香子は茉莉花茶が好きなわけではない。留学中表でごはんを食べる時はお茶といえば茉莉花茶というぐらい当たり前についてきた。その為中華料理には茉莉花茶というように習慣化してしまったのである。なので今でも茉莉花茶は好きではないが、中華料理と一緒なら飲む。ただその習慣のおかげで茉莉花茶が好きなのだろうという誤解は受けやすい。部屋に持って来られる大きい茶壺の中身まで茉莉花茶に替えられた時は、さすがに他のお茶にしてほしいとお願いした。
それよりも黒月とやりあっていたこともあり今日は夕食の時間が遅かった。香子としては昼寝もしたことだし、この後またお茶でも飲んでからお風呂かなというところなのだが、侍女たちの仕事の関係もあるのでどうしたものかと首を傾げた。
(先に熱をもらってからお風呂とか?)
香子は朱雀の熱を受けることを忘れてはいなかった。熱を受けた後は体が熱くなって、それこそ汗を山ほどかくに違いない。だったら先に熱を受けてからお風呂に入った方がすっきりと眠れるように思われた。
『朱雀様、お風呂の前にお願いしてもいいですか?』
朱雀に目を向けて香子が言うと、朱雀は一瞬驚いたような顔をした。
『かまわぬが……本当によいのか?』
いいもなにもそういう話になっていたはずと香子が不審そうな顔をすると、
『最低でも一時辰(二時間)は熱に浮かされることになろう。その後に浴室を使ってもよいが、そなた自身が動けるかどうか……』
(……ん?)
二時間も熱に浮かされ続けるというのもげんなりだが、その際に随分とエネルギー消費をしてしまうことになるようだ。
『なら先に湯を使っておいた方がいいのでしょうか?』
『後がいいというなら我が入れよう』
そう朱雀に言われてそれはさすがに困ると香子は思う。
『わかりました。先にお風呂へ行ってきます』
仕方ないが後で濡らした布でももらって体を拭くことにしよう。そう決めて一旦部屋に戻った。
浴室はいつでも入れるようにしてあるらしいが、女性の支度というのはとにかく時間がかかるものらしい。侍女が準備をしている間香子はぼうっと部屋でまたお茶を飲んでいた。
やがて用意が整い浴室へ連れていかれる。体を洗われ、湯に香油を垂らされて、浴槽を出れば洗い場で丁寧に体を揉まれる。あまりのいたれりつくせりさ加減に、香子は自分がえらい人になったような勘違いまでしてしまいそうだと思う。
(危険、危険……)
決して自分はえらくなんかない。ただ異世界に召喚されたというだけである。
侍女たちは香子に、昨日と同じような薄絹の夜着を着せてガウンのようなものを羽織らせた。部屋に戻ってしばらくもしないうちに朱雀が玄武を伴ってやってきた。
香子は首を傾げる。
何故玄武も一緒なのだろう。
その疑問に気付いたのか、朱雀が嘆息するように言った。
『熱だけ与える、というのはしたことがないのでな。一応何があってもいいように玄武兄に同行してもらった』
(何があってもって、何があるんですかー?)
やっぱり熱をもらうということを決めたのは間違っていたのだろうか。香子は少し不安になる。
『香子、我は居間の方にいる。特に何もなければ戻る故気にするな』
玄武が淡々と告げた。眷族である紅夏と黒月は部屋の外に控えているという。
一体何があるというのだろうか。
香子の瞳が少しだけ不安そうに揺らめいたが、朱雀はそれにかまわず香子を抱き上げた。
食事時に出されるお茶は茉莉花茶である。最初のうちは緑茶であったが、中華料理には茉莉花茶が飲みたいようなことを言ったら、それからごはんのお供は茉莉花茶になった。
だが実際のところ香子は茉莉花茶が好きなわけではない。留学中表でごはんを食べる時はお茶といえば茉莉花茶というぐらい当たり前についてきた。その為中華料理には茉莉花茶というように習慣化してしまったのである。なので今でも茉莉花茶は好きではないが、中華料理と一緒なら飲む。ただその習慣のおかげで茉莉花茶が好きなのだろうという誤解は受けやすい。部屋に持って来られる大きい茶壺の中身まで茉莉花茶に替えられた時は、さすがに他のお茶にしてほしいとお願いした。
それよりも黒月とやりあっていたこともあり今日は夕食の時間が遅かった。香子としては昼寝もしたことだし、この後またお茶でも飲んでからお風呂かなというところなのだが、侍女たちの仕事の関係もあるのでどうしたものかと首を傾げた。
(先に熱をもらってからお風呂とか?)
香子は朱雀の熱を受けることを忘れてはいなかった。熱を受けた後は体が熱くなって、それこそ汗を山ほどかくに違いない。だったら先に熱を受けてからお風呂に入った方がすっきりと眠れるように思われた。
『朱雀様、お風呂の前にお願いしてもいいですか?』
朱雀に目を向けて香子が言うと、朱雀は一瞬驚いたような顔をした。
『かまわぬが……本当によいのか?』
いいもなにもそういう話になっていたはずと香子が不審そうな顔をすると、
『最低でも一時辰(二時間)は熱に浮かされることになろう。その後に浴室を使ってもよいが、そなた自身が動けるかどうか……』
(……ん?)
二時間も熱に浮かされ続けるというのもげんなりだが、その際に随分とエネルギー消費をしてしまうことになるようだ。
『なら先に湯を使っておいた方がいいのでしょうか?』
『後がいいというなら我が入れよう』
そう朱雀に言われてそれはさすがに困ると香子は思う。
『わかりました。先にお風呂へ行ってきます』
仕方ないが後で濡らした布でももらって体を拭くことにしよう。そう決めて一旦部屋に戻った。
浴室はいつでも入れるようにしてあるらしいが、女性の支度というのはとにかく時間がかかるものらしい。侍女が準備をしている間香子はぼうっと部屋でまたお茶を飲んでいた。
やがて用意が整い浴室へ連れていかれる。体を洗われ、湯に香油を垂らされて、浴槽を出れば洗い場で丁寧に体を揉まれる。あまりのいたれりつくせりさ加減に、香子は自分がえらい人になったような勘違いまでしてしまいそうだと思う。
(危険、危険……)
決して自分はえらくなんかない。ただ異世界に召喚されたというだけである。
侍女たちは香子に、昨日と同じような薄絹の夜着を着せてガウンのようなものを羽織らせた。部屋に戻ってしばらくもしないうちに朱雀が玄武を伴ってやってきた。
香子は首を傾げる。
何故玄武も一緒なのだろう。
その疑問に気付いたのか、朱雀が嘆息するように言った。
『熱だけ与える、というのはしたことがないのでな。一応何があってもいいように玄武兄に同行してもらった』
(何があってもって、何があるんですかー?)
やっぱり熱をもらうということを決めたのは間違っていたのだろうか。香子は少し不安になる。
『香子、我は居間の方にいる。特に何もなければ戻る故気にするな』
玄武が淡々と告げた。眷族である紅夏と黒月は部屋の外に控えているという。
一体何があるというのだろうか。
香子の瞳が少しだけ不安そうに揺らめいたが、朱雀はそれにかまわず香子を抱き上げた。
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