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第4部 四神を愛しなさいと言われました

54.首をつっこむのもほどほどにした方がいいみたいです

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 夕飯の席である。
 青龍が連絡をしてくれたのだろう。今夜の夕飯はこれ以上ないというぐらいの量が用意されている。
 今更隠してもしょうがないのと、青龍と過ごす夜は起きてからの空腹がつらすぎるので香子はこれでもかと食べた。
 四神宮のごはんはとにかくおいしい。凍石ドンシーの発見により海鮮料理が出されることも増えた。海老がふんだんに入った水餃子は絶品である。

(北京でこんなぷりっぷりの海老餃子が食べられるなんて……!)

 香子としては感動ものだった。
 香子が北京にいた頃は、内陸だからとまず海鮮モノは勧められなかった。新鮮ではないと飯館(レストラン)のウエイトレスに言われていた程である。夏はあんなに暑いのにエアコンがほとんどきいてない店もあったし、電力が逼迫しているからと学生寮のブレイカーは落とされるしでとても海鮮がふんだんに食べられるような環境ではなかった。
 こちらに来た時は更にひどい状態であったが、凍石の存在に香子が気づいたことで海産物の輸送が楽になった。
 おかげで香子は海老春巻も海老餃子も沢山食べることができているのである。でっかい清蒸魚も出てきた。四神も食べるのだけど、香子が食べたいという部位は率先して香子に食べさせるので、香子はもう頬が緩んでしかたなかった。

『……私、甘やかされてますよね』

 ぽつりと香子は呟いた。
 四神の花嫁だから、こんなにおいしい料理もふんだんに食べられるし、大きな湯舟にも浸かれるし、とても大事にされている。だからなんだと言われそうなのだが、香子は自分を戒めなければならないとも思った。

(甘やかされることに慣れてはいけないよね)
『甘やかしてなどいないだろう。そなたには無理ばかりさせている』

 玄武に手を取られて、その手に口づけられる。香子はぼんっと音がしたように一気に赤くなった。

『そ、それは、私が花嫁だから……』
『そうだ。我らはそなたを求めてやまない。愛しすぎてずっと閉じ込めてしまいたい……』
『ううう……』

 香子が好きなバリトンでそんなことを言われたら、今すぐにでも陥落してしまいそうだった。

(ほ、他のことを考えないとっ! あれ、そういえば……)

 香子は趙文英のことを思い出した。確か側にいてやってほしいと、黒月を送り出したはずである。

『あ。そ、そういえば青龍様が本性を現わしたことで、趙になにか迷惑をかけなかったかしら……』
『恐れながら申し上げます』

 それに応えたのは白雲だった。

『趙の元にはいくつか問い合わせが入ったようでしたので、我と黒月で対応いたしました。趙にも説明はさせていただきました』
『ありがとう』

 やっぱり白雲は頼りになる。香子はほっとして頷いた。

『恐れながら申し上げます。青龍様、花嫁様の希望を聞かれるのはかまいませんが、事前に一言伝えていただけるようお願いします』

 青藍が冷たい目を青龍に向けた。それに気づいた香子が慄いたが、青龍はどこ吹く風である。

『善処しよう』

 それ聞く気ないやつ! と香子は思ったが、自分のせいなので何も言わないことにした。

『……ごめんなさいね。趙が困らなかったなら、いいのだけど……』
『……困ってなどおりますまい』

 そう呟いたのは紅炎だった。紅夏が紅児と結婚してからは紅炎が朱雀に仕えている。

『それならいいのよ』
『仲睦まじく、連れ立って食堂へ向かっておりました』
『え、ナニソレ見たい』

 紅炎が楽しそうに言う。香子はそれに素で答えた。

『見たいのですか?』
『……仲良くしてる姿を見るのって幸せじゃない?』

 香子はきょとんとした。食堂の隅に控えている侍女たちが内心高速で頷いていることは誰も気づいていない。彼女たちも表情をできるだけ動かさないように努めるのがたいへんである。

『では、我が雪紅シュエホンと共にいることも祝福していただけないでしょうか』
『えええ?』

 香子は嫌そうな顔をした。
 雪紅とは、香子の部屋付きの侍女である林雪紅のことである。彼女は紅児が紅夏と一度港へ向かった際、どさくさに紛れて紅炎に口説かれたらしい。まだ戸惑いの方が強いらしく、迫られても泣きそうになっているという話を香子は聞いていた。

『……雪紅が自分から紅炎を好いているというなら祝福するけど、まだ口説いてる最中ではなかったかしら?』
『番(つがい)だというのに、何故人はわからぬのでしょうか』
『……人は四神の眷属ではないからよ。番なんて唯一無二の存在は人にはないの。……番だと言うなら説明もしっかりしてあげてほしいし、不安になんかさせないであげて? 番になるのが当たり前なんて態度だから怖がられるんでしょう』

 まったくもって本当に情緒がないと香子は嘆息した。

『人というのは面倒なものですな』
『そう思うなら口説くのを止めたら?』

 香子は冷たい声を発した。
 確かにこの国では女性は男の持ち物というような立ち位置である。父に従い、嫁いでからは夫に従うのが当たり前だし、自由恋愛ができるのは都会の、ごく一部の層ぐらいだ。それでも、香子の目の届くところぐらいは自分の意志で恋愛をさせてあげたいと香子は思っている。
 趙の元へ黒月を行かせたことを棚に上げているのは間違いないが、可能性まで潰す気は香子にはなかった。

『花嫁様はまるで……小姑のようですね』

 紅炎が呟く。香子はさすがにカチンときた。
 絶対に紅炎を応援なんかしてやるものかと、決意した瞬間だった。


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※香子が北京で大学に通っていたのは90年代後半~2001年頃です。

エールありがとうございます! 本当に嬉しいです!
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