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第1部 四神と結婚しろと言われました
79.こんなかんじになりました
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食堂に現れた闖入者に香子はひどく腹を立てたが、不意に笑い声が聞えてきてそちらに目を向けた。
黒月が笑っていた。
背の高い美人の笑顔というのはなかなかに迫力があると香子は思う。これで未成年とはにわかに信じがたい。
香子は人間の感覚で黒月を未成年だと思っていた。そこらへんの誤解はいずれ解けるのだが、今はその笑顔にほっとした。せっかく美人なのにしかめっつらばかりしていたらもったいない。
黒月もひとしきり笑って吹っ切れたようだった。まっすぐに香子を見る。
『……貴女のことを好きになれるかどうかはわからない』
正直な答えに香子は頷く。玄武が何か言いたげな表情をするのを睨んで黙らせる。はっきり言って玄武は邪魔者だ。
『だが、努力はしようと思う。少なくとも貴女は、私の気持ちを否定はしないでくれた』
『はい、またなにかあれば遠慮なく言ってください。私は知らないことが多いので黒月さんにいろいろ教えてもらえると助かります』
女性は女性同士にしかわからないことが沢山ある。
香子の科白に黒月は一瞬目を見開いたが、仕方ないというように苦笑した。
それを扉にへばりついて聞いていた眷族や侍女たちは、ほうっと安堵のため息をついたのだった。
ことここにいたって、香子はどうして目が覚めたのかをようやく思い出した。
『玄武様、おなかがすきました』
未だ自分を抱き上げたままでいる玄武に顔を向けて言う。玄武はそれに柔らかく笑んだ。
『では用意させることにしよう』
そう言って食堂を出る。遠慮するように少し離れて着き従った黒月に、玄武は振り返らずに声をかけた。
『此度のことは香子に免じて不問に付す。今後は誠心誠意仕えよ』
『……はっ、ありがたき幸せに存じます』
黒月は自分の神に仕えることを許可され、胸をそっと押さえた。
香子のことをそう簡単には好きになれそうもないが、もう睨むようなことはないだろう。
黒月は近くで佇んでいる青藍に『花嫁様が夕食をご所望だそうです』と伝えた。青藍は内心驚いたが顔には出さずその旨侍女たちに伝えにいった。
その日の夕食もとてもおいしかった。香子はそこで気になったことを黒月に聞いてみた。
『黒月さんはごはんってどうしてるんですか?』
『我に敬語は不要です。食事は大体空き時間にいただくようにしています』
香子はそれに首を傾げる。それでは毎日簡単な食事しかできないはずだ。
『……せっかく黒月さんもごはんを食べられるのですから、一緒に食べたら……』
『そんなおそれおおいことはできません!』
黒月の言葉はもっともかもしれないが香子はむーっとした。四神とごはんを食べているとなんだか自分一人だけぱかぱか食べているようでいたたまれないのだ。
(うーん……)
これからも楽しい食生活を送るには誰かを引きずりこんでしまうことが一番なのだが、この計画も長期で練らないといけないようである。
それでも普通に話してくれるだけすごい進歩だ。前は話しかけられるような雰囲気が一切なかっただけに香子はにまにましてしまう。そんな香子の様子を四神が不思議そうに見ていたが、彼女は全く気付いていなかった。
香子は自分が全くモテないわけではなかったがとんでもないメンクイである。そのメンクイっぷりは男女問わずで、美人のお姉さんと仲良くなれたらもうときめいてしまう。もちろんそこに恋愛感情は一切ないがそれでも美人さんが側にいるというだけで幸せな気持ちになれるのだ。だから美人の黒月に睨まれているのが本当はきつかった。
(絶対仲良くなってやるー)
幸い一年一緒にいるのだ。何が何でも仲良くなっていずれは一緒にガールズトークをするのが香子の目標である。
そんなことを香子が考えている横で、朱雀は今夜のことを考えていた。
寝る前に香子に熱を与えて、そのまま朱雀は立ち去れる自信がない。
(玄武兄に付き添ってもらうことにするか……)
もし香子が熱に浮かされるだけならよし、だが鎮めなければならなくなった時、朱雀だけでは最後まで奪わない保証がない。
(厄介なものだ)
朱雀は苦笑した。
黒月が笑っていた。
背の高い美人の笑顔というのはなかなかに迫力があると香子は思う。これで未成年とはにわかに信じがたい。
香子は人間の感覚で黒月を未成年だと思っていた。そこらへんの誤解はいずれ解けるのだが、今はその笑顔にほっとした。せっかく美人なのにしかめっつらばかりしていたらもったいない。
黒月もひとしきり笑って吹っ切れたようだった。まっすぐに香子を見る。
『……貴女のことを好きになれるかどうかはわからない』
正直な答えに香子は頷く。玄武が何か言いたげな表情をするのを睨んで黙らせる。はっきり言って玄武は邪魔者だ。
『だが、努力はしようと思う。少なくとも貴女は、私の気持ちを否定はしないでくれた』
『はい、またなにかあれば遠慮なく言ってください。私は知らないことが多いので黒月さんにいろいろ教えてもらえると助かります』
女性は女性同士にしかわからないことが沢山ある。
香子の科白に黒月は一瞬目を見開いたが、仕方ないというように苦笑した。
それを扉にへばりついて聞いていた眷族や侍女たちは、ほうっと安堵のため息をついたのだった。
ことここにいたって、香子はどうして目が覚めたのかをようやく思い出した。
『玄武様、おなかがすきました』
未だ自分を抱き上げたままでいる玄武に顔を向けて言う。玄武はそれに柔らかく笑んだ。
『では用意させることにしよう』
そう言って食堂を出る。遠慮するように少し離れて着き従った黒月に、玄武は振り返らずに声をかけた。
『此度のことは香子に免じて不問に付す。今後は誠心誠意仕えよ』
『……はっ、ありがたき幸せに存じます』
黒月は自分の神に仕えることを許可され、胸をそっと押さえた。
香子のことをそう簡単には好きになれそうもないが、もう睨むようなことはないだろう。
黒月は近くで佇んでいる青藍に『花嫁様が夕食をご所望だそうです』と伝えた。青藍は内心驚いたが顔には出さずその旨侍女たちに伝えにいった。
その日の夕食もとてもおいしかった。香子はそこで気になったことを黒月に聞いてみた。
『黒月さんはごはんってどうしてるんですか?』
『我に敬語は不要です。食事は大体空き時間にいただくようにしています』
香子はそれに首を傾げる。それでは毎日簡単な食事しかできないはずだ。
『……せっかく黒月さんもごはんを食べられるのですから、一緒に食べたら……』
『そんなおそれおおいことはできません!』
黒月の言葉はもっともかもしれないが香子はむーっとした。四神とごはんを食べているとなんだか自分一人だけぱかぱか食べているようでいたたまれないのだ。
(うーん……)
これからも楽しい食生活を送るには誰かを引きずりこんでしまうことが一番なのだが、この計画も長期で練らないといけないようである。
それでも普通に話してくれるだけすごい進歩だ。前は話しかけられるような雰囲気が一切なかっただけに香子はにまにましてしまう。そんな香子の様子を四神が不思議そうに見ていたが、彼女は全く気付いていなかった。
香子は自分が全くモテないわけではなかったがとんでもないメンクイである。そのメンクイっぷりは男女問わずで、美人のお姉さんと仲良くなれたらもうときめいてしまう。もちろんそこに恋愛感情は一切ないがそれでも美人さんが側にいるというだけで幸せな気持ちになれるのだ。だから美人の黒月に睨まれているのが本当はきつかった。
(絶対仲良くなってやるー)
幸い一年一緒にいるのだ。何が何でも仲良くなっていずれは一緒にガールズトークをするのが香子の目標である。
そんなことを香子が考えている横で、朱雀は今夜のことを考えていた。
寝る前に香子に熱を与えて、そのまま朱雀は立ち去れる自信がない。
(玄武兄に付き添ってもらうことにするか……)
もし香子が熱に浮かされるだけならよし、だが鎮めなければならなくなった時、朱雀だけでは最後まで奪わない保証がない。
(厄介なものだ)
朱雀は苦笑した。
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