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第1部 四神と結婚しろと言われました
76.彼女たちの思い(侍女視点)
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侍女たちは甲斐甲斐しく香子の世話を焼いた。漢服を脱がせ内衣姿にし全身を軽くマッサージする。
全然自分の足で歩いていないというのに意外と疲れたらしいことに香子は気づいた。
(やっぱりどこか緊張しているのかも……)
比べる対象がないからわからないが、四神宮の侍女たちはよく世話をしてくれると香子は思う。最初は香子の髪の色に戸惑ったようだが、いつも柔らかい笑みを浮かべて香子の世話をしてくれる。実のところ侍女たちはただ控えているという生活に飽いていたのだが、そんなことを香子が知るよしもない。
やがて香子はうとうとし始めた。
昨夜は久しぶりによく寝たのだがそれでも慣れない環境である。そう簡単に疲れが取れるというものでもなかった。
侍女たちはそのまま気のすむまでマッサージすると、香子に布団をかけて寝室を出ていった。
そのまま香子は夕食の時間になるまで何日かぶりに一人で眠った。
侍女たちは自分の主人に満足していた。今まで彼女たちはただ四神宮に控えているだけだった。やることもなく、それでいて好き勝手にしていられるわけでもない。他のところに勤める侍女たちはそれなりに仕事があるのにただ自分たちは四神の訪れを待っているだけだった。年に三日程滞在する四神の為に尽くそうにもお茶ぐらいしか入れさせてくれない。
このままただ無為に過ごし、誰の目にも止まらないで歳をとっていく。そして親の決めた相手に嫁ぐのだろうと漠然と思っていた時、その知らせが届いた。
それは約一月前のことだった。
神殿から四神の花嫁が召喚されるという知らせがあった。
侍女たちはいろめきだった。
やっと自分たちが世話をできる主人がやってくるのだ。
滞在は約一年だと聞いたが、このまま無聊を囲っているよりはよっぽどよかった。
『どんな方がいらっしゃるのかしら?』
『異世界から来られるのですってね。いきなり天涯孤独の身の上になられるなんて……』
『ねぇ、一年滞在されるってことは四神もこちらにいらっしゃるのよね?』
彼女たちは思い思いに新しい主人のことを噂した。
時折宮廷内に仕える侍女たちと話をする機会があったが、彼女たちはたまに表に出てくる皇后や皇帝の寵妃についてあまりいい印象は持っていないようだった。四神宮から後宮はかなり離れている為後宮付の侍女と話す機会はなかったが、いろいろな噂だけは耳にしていた。
(お優しい方だといいのだけど……)
そう考えて、しかし彼女たちは思い直した。相手は同じ人間とはいえ四神の為に召喚されてくる花嫁である。いくらなんでも彼女たちにつらく当たるような者が召喚されてくるとは考えづらかった。
果たして、趙文英によって連れてこられた花嫁はひどく心細そうであった。
最初はその鮮やかな赤い髪に戸惑ったが、それに合わせて着飾ると香子は目を丸くして鏡の中の己を見ていた。
言葉の端々から、香子はそれなりの水準の家の出身だということ窺えた。侍女である自分たちに気を使い、世話をすれば恐縮される。もう少し打ちとけることができたなら、香子にいろいろ尋ねることは可能だろうかと侍女たちが思ってしまうぐらいだった。
しかもそれだけではなく当然四神の姿も見れ、眷族たちまでやってきた。黒髪の背の高い女性はあまりかんじがいいとは言えなかったが、他の眷族もまた美丈夫でなかなかに目の保養である。そして香子を連れてきた趙も四神宮に勤めることになった。四神や眷族たちほどではないが趙もいい男である。そして美丈夫な王英明まで四神宮にやってくる。
毎日いい男ばかり見れて侍女たちはご満悦だった。
『これもみんな花嫁様のおかげね!』
侍女たちはこれから一年心を籠めて香子に仕えることに決めたのだった。
そんなことを彼女たちが思っているとは全く知らない香子は、いろんなことをどこまで頼んだりしていいのか悩んでいたが、それらはいずれ近いうちに解消されることだろう。
侍女たちが香子を気に入っているのだから。
全然自分の足で歩いていないというのに意外と疲れたらしいことに香子は気づいた。
(やっぱりどこか緊張しているのかも……)
比べる対象がないからわからないが、四神宮の侍女たちはよく世話をしてくれると香子は思う。最初は香子の髪の色に戸惑ったようだが、いつも柔らかい笑みを浮かべて香子の世話をしてくれる。実のところ侍女たちはただ控えているという生活に飽いていたのだが、そんなことを香子が知るよしもない。
やがて香子はうとうとし始めた。
昨夜は久しぶりによく寝たのだがそれでも慣れない環境である。そう簡単に疲れが取れるというものでもなかった。
侍女たちはそのまま気のすむまでマッサージすると、香子に布団をかけて寝室を出ていった。
そのまま香子は夕食の時間になるまで何日かぶりに一人で眠った。
侍女たちは自分の主人に満足していた。今まで彼女たちはただ四神宮に控えているだけだった。やることもなく、それでいて好き勝手にしていられるわけでもない。他のところに勤める侍女たちはそれなりに仕事があるのにただ自分たちは四神の訪れを待っているだけだった。年に三日程滞在する四神の為に尽くそうにもお茶ぐらいしか入れさせてくれない。
このままただ無為に過ごし、誰の目にも止まらないで歳をとっていく。そして親の決めた相手に嫁ぐのだろうと漠然と思っていた時、その知らせが届いた。
それは約一月前のことだった。
神殿から四神の花嫁が召喚されるという知らせがあった。
侍女たちはいろめきだった。
やっと自分たちが世話をできる主人がやってくるのだ。
滞在は約一年だと聞いたが、このまま無聊を囲っているよりはよっぽどよかった。
『どんな方がいらっしゃるのかしら?』
『異世界から来られるのですってね。いきなり天涯孤独の身の上になられるなんて……』
『ねぇ、一年滞在されるってことは四神もこちらにいらっしゃるのよね?』
彼女たちは思い思いに新しい主人のことを噂した。
時折宮廷内に仕える侍女たちと話をする機会があったが、彼女たちはたまに表に出てくる皇后や皇帝の寵妃についてあまりいい印象は持っていないようだった。四神宮から後宮はかなり離れている為後宮付の侍女と話す機会はなかったが、いろいろな噂だけは耳にしていた。
(お優しい方だといいのだけど……)
そう考えて、しかし彼女たちは思い直した。相手は同じ人間とはいえ四神の為に召喚されてくる花嫁である。いくらなんでも彼女たちにつらく当たるような者が召喚されてくるとは考えづらかった。
果たして、趙文英によって連れてこられた花嫁はひどく心細そうであった。
最初はその鮮やかな赤い髪に戸惑ったが、それに合わせて着飾ると香子は目を丸くして鏡の中の己を見ていた。
言葉の端々から、香子はそれなりの水準の家の出身だということ窺えた。侍女である自分たちに気を使い、世話をすれば恐縮される。もう少し打ちとけることができたなら、香子にいろいろ尋ねることは可能だろうかと侍女たちが思ってしまうぐらいだった。
しかもそれだけではなく当然四神の姿も見れ、眷族たちまでやってきた。黒髪の背の高い女性はあまりかんじがいいとは言えなかったが、他の眷族もまた美丈夫でなかなかに目の保養である。そして香子を連れてきた趙も四神宮に勤めることになった。四神や眷族たちほどではないが趙もいい男である。そして美丈夫な王英明まで四神宮にやってくる。
毎日いい男ばかり見れて侍女たちはご満悦だった。
『これもみんな花嫁様のおかげね!』
侍女たちはこれから一年心を籠めて香子に仕えることに決めたのだった。
そんなことを彼女たちが思っているとは全く知らない香子は、いろんなことをどこまで頼んだりしていいのか悩んでいたが、それらはいずれ近いうちに解消されることだろう。
侍女たちが香子を気に入っているのだから。
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