上 下
503 / 598
第4部 四神を愛しなさいと言われました

51.やっぱり学習していないみたいです

しおりを挟む
 青龍が青藍を伴って香子を迎えにきたのは、ちょうどいいタイミングであった。
 おそらく青藍が気を利かせて時間を調整しているのだろうということは香子もわかる。香子が身支度を整えて、お茶を一杯飲んだところで来るなど絶妙だ。

香子シャンズ
『青龍様』

 香子は茶杯を卓に置こうとしたが、それは青龍によって取り上げられた。コトリと卓に置くと、青龍は香子を抱き上げた。

『……やっとそなたと過ごせる』

 香子の顔が一気に赤くなった。
 当初はすごく険悪であったのに、今はとても甘いと香子は思う。険悪から友人枠になり、だがやはりそこは四神である。香子を求め、絡め取るさまは蛇のようだと香子は思った。しかも青龍に抱かれると夜から翌日の昼過ぎまで確実に放してもらえない。目覚めたら翌日の夕方というのが普通で、香子はひどい空腹に泣くはめになるのだ。
 だが香子は己の身体が食べ溜めをできることを知った。

(青龍様に事前に言っておいてもらえれば、夕飯の量を増やしてもらうことも可能よね?)

 とにかく目覚めた時の空腹がひどくて指先一つ動かせなくなるのが香子はつらいのである。
 抱かれている間は何故か途中靄がかかったようになり、気持ちいいということしかわからなくなる。だから抱かれるのはもう香子としてはかまわないのだ。

『今日は風はどうでしょうか』
『穏やかであるな』
『では、表でお茶をしたいです』
『わかった。用意せよ』

 四神宮はそれなりの広さはあるが、散歩できるというほどではない。

『……少し、歩く場所がほしいです……』

 この際自分の足でなくてもいい。四神に抱かれたままでもいいから、少し気分転換がしたい。許可を取らなければどこにも出られないというのが香子としてはストレスである。最初の頃は向かえていた景山にも行っていないし、御花園にも行けない。
 今は正月だからまだ各国からの要人たちも滞在しているのだろう。
 新年から仕事で皇帝もたいへんだなとは香子も思うが、それが皇帝なのだからしかたないとばっさり切った。香子の中で皇帝は最低な男筆頭なので容赦がない。

『……自分の足で歩きたいのか?』

 青龍に尋ねられてはっとした。

『自分の足でなくてもかまいません。こう、四神宮の中だけで過ごしていると気が滅入ってくるのです』
『そうか……確か今年は龍の年であったな』
『えっ?』

 この国で今が何年なにどしかなど香子は考えたこともなかった。ということは昨年が卯年だったのかとぼんやり思った程度である。
 青龍は香子を抱いたまま渡り廊下に出た。そのままお茶の準備をしているだろう中庭に向かう。その間青龍は無言であった。
 香子はなんとなく呟いてみただけだったから、その間に青龍が四神同士で何か伝え合っているとは全く思ってもみなかった。

『準備はまた後にせよ。しばし散歩に参る』

 青龍は中庭で用意をしていた侍女たちにそう声をかけた。

「?」

 香子は目を丸くして青龍を見た。散歩とは言うが、いったいどこに向かうつもりなのだろう。

『青龍様?』
『そなたの望む形ではないかもしれぬ。空中散歩をしたいと思うのだが如何か』
『え』

 空中散歩というとあれだろうか。青龍の背に乗って空を飛ぶというやつか。想像しただけで香子はわくわくするのを感じた。
 けれどさすがにそれは迷惑ではないかとも香子は思う。

『したい、ですけど……でも』
『ならば参るぞ』
『ええっ!?』

 青龍は強引だった。そのまま中庭にトンッと下りると香子を抱いたまま本性を現し、目を白黒させる香子をその背に乗せた。

『捕まっておれ』
『え? はい? わあっ!』

 香子が青龍の背に身体を伏せた途端、青龍はふわりと浮き上がった。
 こんなことをしてたいへんなことにならないのかとか、そんな考えが浮かぶ。四神宮の面々が青龍を見上げながらあんぐりと口を開けているのが見えた。いきなりで申し訳ないと香子は思う。

《何故そなたがそなに困っているのか》

 心話で話しかけられて香子はびくっとした。

《だって、突然ですから》

 香子は苦笑する。

『ああっ、あれは!?』
『龍だ! 吉祥だ!』

 青龍は一応皇帝には一方的に伝えていた。青龍は何度か王城の上空をぐるりと回る。それほど高度が高くないせいか、香子にも慌てて建物から出てきた人々の姿が見えた。

《青龍様、皇帝ってどこにいるんでしたっけ?》

 こうなったらもう楽しんだ者勝ちと香子は割り切った。

《……皇帝に会いたいのか?》

 心話でも低い声ということがわかる。不思議だなと香子は思った。

《皇帝の慌てているマヌケ面が見たいのですよ~》

 私性格悪いので、と香子は笑った。青龍はフッと笑う。

《確かに、それは随分と性格が悪い。だがそんなそなたが好ましくてならぬ》

 いきなり口説かれて香子はどんな顔をしたらいいのかわからなくなった。息をするように口説くのは止めてほしいと香子は思う。

《そなたが愛しいのだからしかたない》

 そういえば本性を現した四神にくっついていると、心情がだだ漏れになるのだったということを香子は思い出した。

《では探してみるか》

 青龍は楽しそうに王城の上空を飛び、建物から出てきて困ったような顔をしている皇帝の姿を香子に見せた。

《青龍様、大好きです!》

 皇帝の周りには地位が高そうな者たちが何人もいて、しきりにこちらを指さしている。その中には外国の衣裳を着ている者も混じっていた。あれはどこかの要人なのかもしれないと香子は思った。

《聞くがいい。我は花嫁と飛んで参る。ただそれだけ故大事にするでない》

 青龍は一方的に王城の者たちにそう告げると、北へ向かって飛んでいったのだった。
 皇帝がこめかみに指を当て、この騒ぎをどうしたものかと頭を悩ませたのは香子たちのあずかり知らぬことである。


ーーーーー
エールとっても嬉しいです。ありがとうございますー!
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...