上 下
65 / 598
第1部 四神と結婚しろと言われました

65.約束を思い出しました

しおりを挟む
 仕方ないので自分の国の経済の仕組みを大まかに説明することにした。
 そうは言ってもそれほど香子も詳しいわけではない。大学では経済貿易学部だったが、これはあくまで中国の経済について学んだだけだし、それも近現代の経済の歴史や交渉に使われる専門的な言葉を習っていただけである。

『私の国では仕事をすればお金がもらえていました。それはこの国でも同じだと思うのですが、その普段の給金の他に、時間外労働や特別な仕事をしたりすると更に給金を上乗せしてもらえるのです』

 残業代とかボーナスとかもちろん他にもいろいろある。

『ふむ……』

 玄武がなるほどというような表情をする。

『四神宮に仕える人は普通なら一年に三日だけ四神の世話をすればいいですけど、今回は私も加わって、更に一年間世話をしなければいけないでしょう? その分給金を上乗せするのは当然だと思うんですけど……』

 自分の常識は間違っているのだろうかと科白が尻すぼみになる。

『そなたの言うことは正しい』

 玄武が応え、それに残りの三神も頷いた。

『ただそういう考えは今までこの国にはなかったように思う。……直接関わっているわけではないので断定はできぬが』

 それには香子も頷く。
 王政を敷いている国家では皇帝や王の言うことが法律である。つまり余程皇帝やその周りが賢明でなければ民の立場に立って物を考えるのは難しい。

(あの皇帝威厳はあるけど、なーんか部下に恵まれていない気もするのよね)

 どうしてもバッグのことで納得がいかない香子である。
 ただ、宮廷は広い故に仕える人間も多い。その全てに皇帝が目を光らせられるかと言えば答えは否だ。

(でも、監察官であるはずの御史大夫があれじゃあ……って私が考えてもしょうがないよねー)

 ということでもう香子は考えないことにした。基本的に考えても無駄なことをぐだぐだ考えるのは性に合わない。
 それよりも白虎にお願いしたいことがある。

『この国の経済の仕組みなんか私が論じても仕方ないのでやめときます。それより……白虎様、これからいいですか?』

 香子の科白にみなの視線が白虎に集まった。

『……どうか?』
『えーと、二人きりというのは勇気が持てないのでどなたか付き添いを……』
『では我が共に参ろう』

 立候補してくれたのは玄武だった。香子は無意識のうちに口元に笑みを浮かべた。
 なんだかんだいって玄武が側にいてくれると安心するようだ。
 白虎は心当たりがないというような表情をしている。それに香子はむっとした。

『触らせてくれる約束、守ってください!』

 そう言うとやっと思い出したらしい。白虎は苦笑した。

香子シャンズにはかなわぬな』

 仕方ないというように立ち上がる。玄武もそれに従って香子を抱き上げた。そうして茶室を出ていく二神の後姿を眺めながら朱雀は茶を啜った。

『昨日あれからあんな話になったのか?』
『はい、白虎兄のことで我が口を滑らせまして』

 青龍が苦笑しながら答える。

『……玄武兄もついているなら大丈夫だとは思うが……』

 朱雀は考えるように言う。
 香子は知らない。
 何故四神が常に人型をとっているのか。
 元の姿に戻るということの意味はどういうことなのか。

『……一応室の外で待機していた方がいいかもしれぬな』

 それに青龍も頷く。
 万が一ということもないとはいえない。
 二神が立ち上がり、眷族もそれに続いた。
 何事もなければそれに越したことはない。

 四神が元の姿に戻ること。それは理性をかなぐり捨てることと同義なのである。
しおりを挟む
感想 86

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~

ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。 ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。 一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。 目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!? 「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

処理中です...