62 / 598
第1部 四神と結婚しろと言われました
62.怒るのをやめてみました
しおりを挟む
香子は朝から(精神的に)とても疲れていた。
あれから青龍のお言葉に甘えて二度寝をしてしまい、起きた時には何故か夜着がはだけられていて、ほとんど裸の状態で青龍に抱き込まれていたのだ。
「なっ、なっ、なっ……」
油断をしていた自分が悪いということは重々承知しているが、青龍の爽やかな面もいけないと思う。
『昨夜はあのまま寝てしまったが、裸で寝た方が健康にいいと聞いた』
(どっから得たんだその知識。つかノーパン健康法とか嫌だ!)
心の中でツッコミを入れつつ、
『寒いです』
といえば布団をかけてくれる。そういうことじゃなくて夜着を元に戻してほしかった。
だから寝室の向こうから朝食の準備はどうするのかと青藍の声がしてきた時、正直香子はほっとした。
『もちろん食べます!』
すかさず答えて青龍に体を起こしてもらった。急いで夜着の前をかき合せる。なんだか青龍は残念そうな顔をした。
(この間からなんか調子狂うなぁ……)
青龍は己の格好を直し、香子にガウンを着せかけると『食堂に行っている』とだけ言って寝室を出ていった。
入れ違いに侍女たちがお湯を入れた洗面器その他もろもろを持って入ってきた。
『あの……バッグを直してくれてありがとうございました』
侍女たちの顔を見て思い出し礼を言うと、彼女たちは驚いたように目を見開いた。
『いえ、私共の仕事でございますから……』
そう言って微笑み、香子の世話をする。顔を洗い、漢服に着替え髪を整えられる。
なんとも鮮やかな赤い髪だが、頭頂部が黒くなってきているのが侍女たちとしてはもったいないと思ったらしい。
『失礼ですが、花嫁様は今後御髪の色をどうされるおつもりでしょうか?』
そう聞かれて香子はあっと気づく。
日が経てば髪が伸び、元の色に戻っていってしまう。香子は帰国したらもう少し落ち着いた色に染め替える予定だったので、最後に髪を染めたのは半月以上も前だった。
(さすがにそろそろまずいかな……)
『四神と相談してみます』
そう答えて食堂へ向かう。侍女に先導されて食堂に着くと、今朝も四神と眷族が揃っていた。
『おはようございます』
挨拶をして、今朝は朱雀と玄武の間に置かれた席に腰かけた。
どうやらここが定位置になるらしい。
『昨夜はよく眠れたか?』
朱雀に聞かれて、
『ええ、それはもうぐっすり』
とそっけなく答える。いくら冗談にしても昨日の話は到底許せるものではない。
朱雀は苦笑した。
『……香子、我らは皆そなたのことを愛しく思うておる。そなたの望まぬことは決してせぬゆえ、どうか機嫌を直してはくれまいか』
反対側から手を取られ、甘いバリトンが香子の耳をくすぐった。
(ずるい……)
そう言われたらまるで香子が悪いようではないか。ちろりと玄武の方を見やると、穏やかな笑みを浮かべた美丈夫が香子を愛しくてならないというように見つめていた。
『……全員とか……無理ですからね……』
低い声で告げると、
『もちろんだ』
と返される。
『……それならいいです』
どうせいつまでも怒ってはいられないのだ。とりあえず腹が減っては戦はできぬと背後を窺うと、今朝は麺のようなものまで用意されていた。
白い麺とスープ、それに付け合わせるであろうさまざまな材料が運ばれてくる。
香子は好奇心に逆らえず運んできた侍女に聞いた。
『これって、入れる順番とかあるんですか?』
『はい、先に肉類を入れていただき、それから野菜、米线(ビーフンと同じく米を原料とした麺。見た目は太いスパゲッティのようだが米の白さがある)を入れ、最後に醤油とラー油をお好みで入れてください』
(うわー、これって雲南省の米线だ!)
かつて香子は雲南省にあるシーサンパンナに行ったことがある。そこでほぼ毎朝この米线を食べていた。
スープは独特で、油がかなりの量入っている為熱が逃げない。そこに食べやすい大きさに切った肉や魚を入れ、箸で撹拌して熱を通す。その後野菜、米线、醤油とラー油を入れてまた混ぜ合せる。
まさか北京で食べられるとは思ってもみなくて香子は満面の笑みを浮かべた。
(宮廷万歳!)
食は全ての基本である。
あれから青龍のお言葉に甘えて二度寝をしてしまい、起きた時には何故か夜着がはだけられていて、ほとんど裸の状態で青龍に抱き込まれていたのだ。
「なっ、なっ、なっ……」
油断をしていた自分が悪いということは重々承知しているが、青龍の爽やかな面もいけないと思う。
『昨夜はあのまま寝てしまったが、裸で寝た方が健康にいいと聞いた』
(どっから得たんだその知識。つかノーパン健康法とか嫌だ!)
心の中でツッコミを入れつつ、
『寒いです』
といえば布団をかけてくれる。そういうことじゃなくて夜着を元に戻してほしかった。
だから寝室の向こうから朝食の準備はどうするのかと青藍の声がしてきた時、正直香子はほっとした。
『もちろん食べます!』
すかさず答えて青龍に体を起こしてもらった。急いで夜着の前をかき合せる。なんだか青龍は残念そうな顔をした。
(この間からなんか調子狂うなぁ……)
青龍は己の格好を直し、香子にガウンを着せかけると『食堂に行っている』とだけ言って寝室を出ていった。
入れ違いに侍女たちがお湯を入れた洗面器その他もろもろを持って入ってきた。
『あの……バッグを直してくれてありがとうございました』
侍女たちの顔を見て思い出し礼を言うと、彼女たちは驚いたように目を見開いた。
『いえ、私共の仕事でございますから……』
そう言って微笑み、香子の世話をする。顔を洗い、漢服に着替え髪を整えられる。
なんとも鮮やかな赤い髪だが、頭頂部が黒くなってきているのが侍女たちとしてはもったいないと思ったらしい。
『失礼ですが、花嫁様は今後御髪の色をどうされるおつもりでしょうか?』
そう聞かれて香子はあっと気づく。
日が経てば髪が伸び、元の色に戻っていってしまう。香子は帰国したらもう少し落ち着いた色に染め替える予定だったので、最後に髪を染めたのは半月以上も前だった。
(さすがにそろそろまずいかな……)
『四神と相談してみます』
そう答えて食堂へ向かう。侍女に先導されて食堂に着くと、今朝も四神と眷族が揃っていた。
『おはようございます』
挨拶をして、今朝は朱雀と玄武の間に置かれた席に腰かけた。
どうやらここが定位置になるらしい。
『昨夜はよく眠れたか?』
朱雀に聞かれて、
『ええ、それはもうぐっすり』
とそっけなく答える。いくら冗談にしても昨日の話は到底許せるものではない。
朱雀は苦笑した。
『……香子、我らは皆そなたのことを愛しく思うておる。そなたの望まぬことは決してせぬゆえ、どうか機嫌を直してはくれまいか』
反対側から手を取られ、甘いバリトンが香子の耳をくすぐった。
(ずるい……)
そう言われたらまるで香子が悪いようではないか。ちろりと玄武の方を見やると、穏やかな笑みを浮かべた美丈夫が香子を愛しくてならないというように見つめていた。
『……全員とか……無理ですからね……』
低い声で告げると、
『もちろんだ』
と返される。
『……それならいいです』
どうせいつまでも怒ってはいられないのだ。とりあえず腹が減っては戦はできぬと背後を窺うと、今朝は麺のようなものまで用意されていた。
白い麺とスープ、それに付け合わせるであろうさまざまな材料が運ばれてくる。
香子は好奇心に逆らえず運んできた侍女に聞いた。
『これって、入れる順番とかあるんですか?』
『はい、先に肉類を入れていただき、それから野菜、米线(ビーフンと同じく米を原料とした麺。見た目は太いスパゲッティのようだが米の白さがある)を入れ、最後に醤油とラー油をお好みで入れてください』
(うわー、これって雲南省の米线だ!)
かつて香子は雲南省にあるシーサンパンナに行ったことがある。そこでほぼ毎朝この米线を食べていた。
スープは独特で、油がかなりの量入っている為熱が逃げない。そこに食べやすい大きさに切った肉や魚を入れ、箸で撹拌して熱を通す。その後野菜、米线、醤油とラー油を入れてまた混ぜ合せる。
まさか北京で食べられるとは思ってもみなくて香子は満面の笑みを浮かべた。
(宮廷万歳!)
食は全ての基本である。
43
お気に入りに追加
4,015
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です。
2024年12月12日
私生活に余裕が出たため、投稿再開します。
それにあたって一部を再編集します。
設定や話の流れに変更はありません。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる