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第1部 四神と結婚しろと言われました
50.神様も男みたいです
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香子は寝室に置きっぱなしのバッグのことを思い出した。そういえば切り裂かれたところを縫おうとしていたのだった。
呼鈴を鳴らして侍女を呼び、針と糸を貸してもらえないかと頼む。侍女たちは驚いた様子で『そういったことは私共が致します』と言った。侍女たちががんとして針と糸を貸してくれそうもないので、香子はしかたなくバッグを貸すことにした。バッグの中身を改めて取り出しながら、中日辞典がないことに気づく。
そういえば朱雀が持って行ったことを思い出して、とりあえず所在を確認しに行くことにする。
『すいませんがよろしくお願いします』
とバッグを侍女に預けると、侍女たちは嬉しそうに『大切にお預かりします』と大事そうに抱えた。
どこに行くのかを聞かれたので朱雀の室だと答えると、『まぁ……ごゆっくり……』と意味深な笑みを浮かべて送りだされた。
(なーんかすっごく誤解されている気がする……)
きっと彼女たちの頭の中ではものすごい妄想がくり広げられているに違いない。嘆息して朱雀の室に向かうと、扉の前に紅夏と黒月がいた。
『すいません、朱雀様にお会いしたいのですが……』
『どうぞ』
紅夏はにっこりと笑んで扉を少し開いてくれた。おそるおそる中を覗く。
先ほど別れたばかりの玄武もそこにいて何やら楽しそうに話している。
そういえば、四神同士はどういう会話をするものなのだろうと気になり、そのままの体勢で耳を澄ませた。
『……四神全ての愛を同時に受け入れていた花嫁の姿もございます』
朱雀のテナーが響く。
香子は耳を疑った。
『……存在であろう。我らしか縋るものがなかったのだから仕方がない』
玄武のバリトンが答える。
『ですが、一度ぐらいは我ら全てを受け入れて身も心もとろけきった香子も見てみたいものです』
紅夏と黒月も平然とした顔をしていたが全て聞こえているに違いない。
(……全ての愛? 同時? 全てを受け入れて?)
香子はどんどん自分の顔が赤くなっていくのを感じた。
神様、といえどもやはり男。考えることは人間の男とさほど変わらない。
そんなことを話していた二神だが、とうとう香子が覗いていることに気付いたらしい。二神の視線が信じられないものを見るように香子を捕え、
『香子!』
と呼ばれた途端、香子は弾かれたように急いでその場から逃げ出した。
自分の部屋に戻ったところですぐに捕まってしまうことはわかっていた。どこに逃げようかと考える間もなく香子は自分の部屋の前を通り過ぎ、青龍の室に飛び込んだ。
『……香子?』
青藍に茶を入れさせていたのだろう、青龍がすっと立ち上がり香子を引き寄せる。
『どうか……』
したのか? と言う前に玄武と朱雀が室の前に現れた。二神は珍しく焦ったような顔をしている。
香子はぎゅっと青龍の青い衣を掴む。
どうやらなんらかの事情があって二神から逃げてきたらしいと青龍は判断した。
『香子、あれは本心ではないのだ……』
『そなたがあまりにも愛しくて、つい……』
二神は室の前でわけのわからない言い訳をしている。青龍が香子の表情を窺うと、なんだか今にも泣きだしそうな表情をしていた。青龍がどういうことかと二神に視線を向けた時、
『私、今日はもう青龍様と一緒にいます!』
香子が宣言した。それに二神はなんともいえない表情をする。さすがに勝手に他の神の居室には入って来ることはできない。
青龍は少し心配そうな面持ちで香子を見る。それに香子は頷いた。
とりあえず今のところ、そう簡単に手を出してはこないだろうと思われるのは青龍ぐらいだった。
『……そういうことのようです』
状況がよくわからないが、青龍は二神にそう答えた。二神は『……わかった』と言うと扉を閉め、戻っていった。
香子はそれにそっと安堵のため息をついた。
呼鈴を鳴らして侍女を呼び、針と糸を貸してもらえないかと頼む。侍女たちは驚いた様子で『そういったことは私共が致します』と言った。侍女たちががんとして針と糸を貸してくれそうもないので、香子はしかたなくバッグを貸すことにした。バッグの中身を改めて取り出しながら、中日辞典がないことに気づく。
そういえば朱雀が持って行ったことを思い出して、とりあえず所在を確認しに行くことにする。
『すいませんがよろしくお願いします』
とバッグを侍女に預けると、侍女たちは嬉しそうに『大切にお預かりします』と大事そうに抱えた。
どこに行くのかを聞かれたので朱雀の室だと答えると、『まぁ……ごゆっくり……』と意味深な笑みを浮かべて送りだされた。
(なーんかすっごく誤解されている気がする……)
きっと彼女たちの頭の中ではものすごい妄想がくり広げられているに違いない。嘆息して朱雀の室に向かうと、扉の前に紅夏と黒月がいた。
『すいません、朱雀様にお会いしたいのですが……』
『どうぞ』
紅夏はにっこりと笑んで扉を少し開いてくれた。おそるおそる中を覗く。
先ほど別れたばかりの玄武もそこにいて何やら楽しそうに話している。
そういえば、四神同士はどういう会話をするものなのだろうと気になり、そのままの体勢で耳を澄ませた。
『……四神全ての愛を同時に受け入れていた花嫁の姿もございます』
朱雀のテナーが響く。
香子は耳を疑った。
『……存在であろう。我らしか縋るものがなかったのだから仕方がない』
玄武のバリトンが答える。
『ですが、一度ぐらいは我ら全てを受け入れて身も心もとろけきった香子も見てみたいものです』
紅夏と黒月も平然とした顔をしていたが全て聞こえているに違いない。
(……全ての愛? 同時? 全てを受け入れて?)
香子はどんどん自分の顔が赤くなっていくのを感じた。
神様、といえどもやはり男。考えることは人間の男とさほど変わらない。
そんなことを話していた二神だが、とうとう香子が覗いていることに気付いたらしい。二神の視線が信じられないものを見るように香子を捕え、
『香子!』
と呼ばれた途端、香子は弾かれたように急いでその場から逃げ出した。
自分の部屋に戻ったところですぐに捕まってしまうことはわかっていた。どこに逃げようかと考える間もなく香子は自分の部屋の前を通り過ぎ、青龍の室に飛び込んだ。
『……香子?』
青藍に茶を入れさせていたのだろう、青龍がすっと立ち上がり香子を引き寄せる。
『どうか……』
したのか? と言う前に玄武と朱雀が室の前に現れた。二神は珍しく焦ったような顔をしている。
香子はぎゅっと青龍の青い衣を掴む。
どうやらなんらかの事情があって二神から逃げてきたらしいと青龍は判断した。
『香子、あれは本心ではないのだ……』
『そなたがあまりにも愛しくて、つい……』
二神は室の前でわけのわからない言い訳をしている。青龍が香子の表情を窺うと、なんだか今にも泣きだしそうな表情をしていた。青龍がどういうことかと二神に視線を向けた時、
『私、今日はもう青龍様と一緒にいます!』
香子が宣言した。それに二神はなんともいえない表情をする。さすがに勝手に他の神の居室には入って来ることはできない。
青龍は少し心配そうな面持ちで香子を見る。それに香子は頷いた。
とりあえず今のところ、そう簡単に手を出してはこないだろうと思われるのは青龍ぐらいだった。
『……そういうことのようです』
状況がよくわからないが、青龍は二神にそう答えた。二神は『……わかった』と言うと扉を閉め、戻っていった。
香子はそれにそっと安堵のため息をついた。
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