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第1部 四神と結婚しろと言われました
49.宣戦布告?(玄武、朱雀)
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例え姿が見えずとも眷族たちは四神が近くにいればすぐにわかる。玄武が戻ってきたことをいち早く察した白雲は香子の部屋の前に馳せ参じた。
『おかえりなさいませ』
『伝えておくように』
玄武はそのまま自分の室には戻らず朱雀の室に向かった。白雲は謁見の間の横に控えている趙文英に、玄武と香子が戻ったことを伝えにいった。
趙は明らかにほっとしたような表情で、
『ありがとうございます』
と白雲に拱手した。宮仕えと言うのもたいへんそうである。
『申し訳ないのですが報告に行かなければならないので、なにかお申し付けがある場合少々お待ちいただくことは可能でしょうか?』
『そうそう呼びつけるようなことはないと思いますので大丈夫かと』
趙は白雲の返事に安心したように再び拱手し、報告をする為に出ていった。
(真面目なものだ)
白雲はそれ以上なんの感慨も覚えず、白虎の室に戻っていった。
* *
その頃玄武は朱雀の室を訪れていた。
黒月に茶を入れさせてから、二神は人払いをした。
『押し付けたようですまぬな』
『あれはいたしかたありますまい。成人すれば落ち着きましょう』
出ていく時の黒月の不満そうな顔に苦笑して朱雀が応える。
『それならいいのだが』
歯牙にもかけてはいないが、黒月が香子に不穏な視線を向けていることは四神も気づいていた。香子も気にしないようにしてはいるようだがもちろん気づいているのだろう。
己の眷族といえど香子に危害をくわえるようならば容赦はしない。
『それより、玄武兄がわざわざ来られたということは……香子に本気になったと解釈しても?』
『……そうだな』
人間の男に嫉妬してあのような行動に出てしまったことといい、香子を腕の中に閉じ込めて隠してしまいたいという気持ちは本物だろう。
『我も手を引くつもりはありませぬが』
朱雀が面白そうに言う。
『手を引けとは言わぬ。そなたはそなたで好きにするがいい』
玄武の答えはなんとも面白くないと朱雀は思う。人間相手にはあれほどの嫉妬を見せるのに、同じ四神には無関心ともいえるほどの寛容さである。それはもちろん朱雀も同様だが。
『香子がいいと言えば共有も可能でしょうな』
さすがにそれには玄武もいい顔をしなかった。
『選べぬと言うならば、あるいは……。しかしそのようなことをあの香子が許すとは思えぬな……』
『ですが、かつての記憶には四神全ての愛を同時に受け入れていた花嫁の姿もございました』
玄武はそれに眉をひそめた。
四神の記憶というか、情景については代が代わっても受け継がれる。その頃の四神の想いなどは受け継がれないが、出来事や事実は脳裏に浮かぶ。
『彼女はまだ貞操観念のない時代に生まれた存在であろう。我らしか縋るものがなかったのだから仕方がない』
『そうですな……ですが、一度ぐらいは我ら全てを受け入れて身も心もとろけきった香子も見てみたいものです』
朱雀の科白に眉をひそめながら、思わず玄武もその姿を想像してしまった。
『……それはそれで魅力的だが……』
そう言ったところで、玄武と朱雀はここ数日で嗅ぎ慣れた甘い香りが漂ってくることに気付いた。
玄武と朱雀が扉の方に目を向けると、少し開いた扉から香子がなんともいえないような表情で中を覗いているのが見えた。
『香子!』
玄武と朱雀の声に香子は踵を返す。それを慌てて追おうとした二神に、紅夏は嘆息した。
神とはいえ、想い人の前ではただの男であるようだ。
『……千年の恋も冷めそうではあるが……』
紅夏の呟きに、黒月は沈黙を守った。
……
正確には、「百年の恋も冷める」ですね。
『おかえりなさいませ』
『伝えておくように』
玄武はそのまま自分の室には戻らず朱雀の室に向かった。白雲は謁見の間の横に控えている趙文英に、玄武と香子が戻ったことを伝えにいった。
趙は明らかにほっとしたような表情で、
『ありがとうございます』
と白雲に拱手した。宮仕えと言うのもたいへんそうである。
『申し訳ないのですが報告に行かなければならないので、なにかお申し付けがある場合少々お待ちいただくことは可能でしょうか?』
『そうそう呼びつけるようなことはないと思いますので大丈夫かと』
趙は白雲の返事に安心したように再び拱手し、報告をする為に出ていった。
(真面目なものだ)
白雲はそれ以上なんの感慨も覚えず、白虎の室に戻っていった。
* *
その頃玄武は朱雀の室を訪れていた。
黒月に茶を入れさせてから、二神は人払いをした。
『押し付けたようですまぬな』
『あれはいたしかたありますまい。成人すれば落ち着きましょう』
出ていく時の黒月の不満そうな顔に苦笑して朱雀が応える。
『それならいいのだが』
歯牙にもかけてはいないが、黒月が香子に不穏な視線を向けていることは四神も気づいていた。香子も気にしないようにしてはいるようだがもちろん気づいているのだろう。
己の眷族といえど香子に危害をくわえるようならば容赦はしない。
『それより、玄武兄がわざわざ来られたということは……香子に本気になったと解釈しても?』
『……そうだな』
人間の男に嫉妬してあのような行動に出てしまったことといい、香子を腕の中に閉じ込めて隠してしまいたいという気持ちは本物だろう。
『我も手を引くつもりはありませぬが』
朱雀が面白そうに言う。
『手を引けとは言わぬ。そなたはそなたで好きにするがいい』
玄武の答えはなんとも面白くないと朱雀は思う。人間相手にはあれほどの嫉妬を見せるのに、同じ四神には無関心ともいえるほどの寛容さである。それはもちろん朱雀も同様だが。
『香子がいいと言えば共有も可能でしょうな』
さすがにそれには玄武もいい顔をしなかった。
『選べぬと言うならば、あるいは……。しかしそのようなことをあの香子が許すとは思えぬな……』
『ですが、かつての記憶には四神全ての愛を同時に受け入れていた花嫁の姿もございました』
玄武はそれに眉をひそめた。
四神の記憶というか、情景については代が代わっても受け継がれる。その頃の四神の想いなどは受け継がれないが、出来事や事実は脳裏に浮かぶ。
『彼女はまだ貞操観念のない時代に生まれた存在であろう。我らしか縋るものがなかったのだから仕方がない』
『そうですな……ですが、一度ぐらいは我ら全てを受け入れて身も心もとろけきった香子も見てみたいものです』
朱雀の科白に眉をひそめながら、思わず玄武もその姿を想像してしまった。
『……それはそれで魅力的だが……』
そう言ったところで、玄武と朱雀はここ数日で嗅ぎ慣れた甘い香りが漂ってくることに気付いた。
玄武と朱雀が扉の方に目を向けると、少し開いた扉から香子がなんともいえないような表情で中を覗いているのが見えた。
『香子!』
玄武と朱雀の声に香子は踵を返す。それを慌てて追おうとした二神に、紅夏は嘆息した。
神とはいえ、想い人の前ではただの男であるようだ。
『……千年の恋も冷めそうではあるが……』
紅夏の呟きに、黒月は沈黙を守った。
……
正確には、「百年の恋も冷める」ですね。
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